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1.「フェア」な木材に求められること

林材ライター 赤堀 楠雄(あかほり くすお)


国産材が売れるようになった
 最近は国産の木材(国産材)に対するニーズがかなり高まってきています。これは経済発展を続ける中国やインド、原油高で潤う中東諸国など、木材貿易市場では新興勢力といえる国々が木材の輸入量を大幅に増やし、そのあおりで外国産の木材(外材)の供給不安が一気に高まっているためです。

 2006年4月から、いわゆるグリーン購入法によって、違法に伐採された木材が政府調達物品から排除されるようになったことも国産材への注目度を高めることにつながりました。海外産地で生産される木材が果たして合法的なものなのかどうか、特に大規模な森林伐採が問題視されている東南アジアやロシア・シベリアといった有力産地の木材について、その素性を厳しく問おうとする動きが広がった結果、合法性に関しては何ら問題が見当たらないであろう国産材が注目されるようになったというわけです。

 国産材を使えば森林環境の健全化に寄与できるという点がユーザーの関心を集めたという理由もあります。スギやヒノキの人工林は、林業の不振で手入れが遅れ、各地で荒廃が目立っています。国産材が使われれば林業が活性化し、経営意欲が高まって森林の手入れも進むことが期待されます。

  「木を使って(=木を伐り倒して)森を守る」とは、一昔前の環境保護論者が聞いたら目を剥きそうなキャッチフレーズですが、いまはほとんど違和感なく、多くの人に受け入れられているようです。

山が「お荷物」になっている
 こうして国産材を使おうという気運が盛り上がってきているのは、実に喜ばしいことです。ただ、今回は林業の取材に携わっている立場として、少しばかり細かな(コアな)現状報告をさせていただき、読者のみなさんにちょっと違った視点から、林業や国産材を見つめ直していただこうと思います。

 先ほど、私は「合法性に関しては何ら問題が見当たらないであろう国産材」と書きました。確かに、他人の所有林で勝手に伐採を行ったり、伐採自体が禁じられた森で木を伐り倒しでもしない限り、日本国内において違法伐採というのはそうそう起こるものではありません。しかし、いくら合法的に伐採が行われたとしても、どうしても首を傾げざるを得ないような形で、森が取り扱われるケースがあります。その代表的なものがいわゆる「植林放棄」です。

樹皮食いシカ
写真1 皆伐跡地の様子
 植林放棄が問題にされるようになったのは、10年ほど前からのことです。それ以前から、同じようなことは各地で起きていたと思われますが、2000年の住宅品質確保促進法(注1)施行を契機に国産材の市況が著しく悪化したことで、林業の生産現場も深刻な採算難に直面することになり、伐採後の植林が見合わされるケースが各地で相次ぐようになりました。木の値段が下がったために、40年も50年も育てた木を伐採して売り払っても、伐採や搬出にかかる経費を差し引くと手元にはわずかな金額しか残らないため、とても植林などしてはいられないというわけです。

 植林放棄にはもうひとつの側面があります。もともとは雑木林だった山を戦後の拡大造林施策に乗って人工林に植え替えた森林所有者にとっては、スギやヒノキを売るのは初めてのことになります。ところが、それが高く売れず、利益にならないとなると、人工林経営自体に魅力を感じなくなって、経営を放棄してしまう人が続出しているのです。

 そうした人たちは木を売るときに土地ごと手放してしまうケースが多いという問題もあります。買い手である伐採業者にとっては、木だけを買って伐採するのが本来の形(「立木買い」といいます)であるわけですが、「土地も込みで」と言われれば、山奥の土地の価格は二束三文ですから、仕事ほしさにその条件を飲むことになります。

 しかし、立ち木を伐採した後に植林までしていては予定していた収益が見込めませんから、林業に関わる立場からすると植えたいのはやまやまでも、そのままで放置してしまうのです。所有者からも、買い手の伐採業者からもお荷物扱いされる山がこの先どうなるのか、心配になります。

注1 品確法: 住宅の引渡し後10年間は供給業者に対して構造部分の不具合の修復を義務付けたり、住宅の性能を表示可能にしたりした法律。木材に対して高度な品質性能が要求されるようになり、品質がばらつきがちな無垢の木材の需要減退を招き、主に外材を原料とする集成材の台頭を許すことになった。

「天然更新」が隠れ蓑になっている?
 冒頭に私は「最近は国産材へのニーズが高まっている」と書きました。植林放棄地が発生するのは、林業が不振で採算が悪化しているためですから、国産材の売れ行きが良くなれば、こうした問題も起きないのではと思われるでしょう。それが道理のはずなのですが、実際には今も植林放棄地が各地で増え続けているようです。

 ただ、面積で言えば、ひところよりは減っているかもしれません。それは、すべての木を伐り倒す皆伐ではなく、何割かの木を抜き伐りする間伐が選択されるケースが増えているからです。しかし、皆伐林のうちの何割で再植林がなされているかといえば、その比率はあまり変わっていないのではと思います。

 実際、合板工場向けに国産の丸太を納入している伐採業者の組合の人が次のように話すのを聞いたことがあります。「違法伐採対策の関係で、合法性を証明するために業者には『伐採届け』を必ず提出させている。ところが、皆伐林地の場合、『更新欄』に『天然更新』と書かれているケースが増えている」。

 「更新欄」とは、皆伐した後に山をどのように更新させているかを記載する欄です。そこに「天然更新」と書き込まれているということは、伐った後は何も植えていないということを意味します。「天然更新」とは便利な言葉で、自然に生えてくる木で山を森に戻そうというわけですが、要するに何もしないのですから植林放棄であることにかわりはありません。気候に恵まれた日本では、確かにすぐに何らかの木が生えて育ち始めるのでしょうが、そういう山では林業としての持続性は失われたと指摘しなければならないでしょう。

 国産材が売れているのになぜこんなことが起きるのでしょうか。これは、やはり何年も続いた林業不況で、森林所有者の経営意欲が減退しているためです。前よりも売れ行きが良くなっているから利益は出る。でもその何割かを植林にまわそうというほど林業経営に魅力は感じない。いまここだけでの利益があればいいから、それが分減りしないようにもう山には手をつけない。そんな判断が働いているのだと思います。

 伐採届けが提出され、手続き的には「合法性」が確保された山でも、林業が放棄されてしまっては、果たして「持続的な森林経営」がなされていると言えるのかどうか。私にはどうもしっくり来ないのですが、みなさんはどうお感じになるでしょうか。

林業労働者は持続可能か?
 もうひとつコアな話題として、林業労働者の立場についても触れておくことにしましょう。

 いま見てきた植林放棄の問題を何とかしようと、最近は再造林が可能な木材価格を実現しようとする取り組みがいくつかの地域で行われるようになってきました。林業を持続可能な産業にするためにとても大切な視点だと思います。ただ、実際に山の中で木を伐ったり、下刈りや間伐などの手入れに従事する林業労働者の待遇については、あまり顧みられてはいないような気がします。

 ひとくちに林業といっても、「山持ち」といわれる森林所有者から森林組合、素材生産業者等々、さまざまな立場があります。その中で林業の現場で作業する人たちについては、所得水準、福利厚生、労働環境などの点において他産業に比べ、残念ながら著しく劣っていると言わざるをえません。

写真2 若い就業者たち
 最近は自然志向の高まりや田舎暮らしブームで都会から山村にIターンして林業に就業する人が増えていますが、彼らはその地に地縁も血縁もなく、田んぼや畑もありませんから農業との兼業も難しく、林業による収入だけで食べていくしかありません。就業したてで技術的に未熟なうちは所得が少ないのも我慢できるでしょう。しかし、10年、15年と経験を重ねたベテランであっても、生活に苦労しているのが実情です。

 しかも中には同じ職場であっても、事務仕事に従事している人の収入は安定しているのに、現場作業員の待遇は低く抑えられているといった差別的な扱いを受けているケースさえあります。林業の場合は公共事業の仕事をすることも多いのですが、公共事業削減のあおりで仕事が減ったため、現場作業員を臨時雇用に格下げして、健康保険や年金などの社会保障費をすべて自分持ちにさせ、一方、内勤の事務職は従来通りの待遇を維持する――と聞けば、その理不尽さに腹立たしさを覚えますが、そんなことが実際の例としてあるのです。

 国産材の売れ行きがよくなり、価格も上がって再植林の経費も確保できるようになったとしても、最前線で汗を流す林業労働者の待遇が改善されないままでは、手放しで喜ぶことはできません。産業としての持続性も確保されているとはとても言えないでしょう。それで手続き上の「合法性」だけが論じられても、何か白けた気分になってしまいます。

「フェアウッド」の条件
 最近はいったんは木がない状態にしてしまう皆伐を避け、間伐を繰り返して長い時間をかけて木を育てようという方法が採用されるケースが増えています。皆伐だとどうしてもその後の植林をどうするかが問題になり、植林すれば多額の経費が必要になって採算が悪化するし、かと言って植えずに放っておくのもうまくない、ならばさしあたりは再植林の必要がない間伐の方が経費的にもうまくいくというわけです。

 ただ、間伐で収益を上げるには、作業のための道をかなり高い密度で入れなければなりません。それが行き過ぎると、林地崩壊を招いたり、風の通り道をつくって台風に弱い森にしてしまったりといった問題が生じます。採算を確保しつつ、山を適正な状態に保つにはどうすればいいのか。各地で多くの専門家が議論や実践を重ねてより良い道を探っています。その中には皆伐で山を循環させようと努力している人もいます。

 林業労働の現場では、Iターン者が中心になり、待遇改善を働きかけたり、やりがいのある職場環境づくりに取り組んだりといった事例も増えてきました。「違法伐採」の根絶は地球環境保全にとって重要な課題です。しかし、議論がやや大くくりなところだけで終始しているように私は感じてしまうのです。

 合法性が確保されているであろう国産材がただ単に売れればいいというわけではないはずです。林業経営を持続させるために知恵を絞ったり、林業の現場で働き続けることができるようにしたりといった取り組みも「フェア」な木材取り引きを実現させるために重要なのだということを多くに人に認識していただきたいと思います。                         
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