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サラワクは今も・・ ~依然続く先住民族の苦悩~

三柴 淳一(国際環境NGO FoE Japan)

『私は聞きたい。私がもしあなたたちの街に行って銀行を破壊したら、何が起こるでしょう?それは私たちの現状と同じです。ここは私たちが食料を得る土地であり、私たちの銀行です。この森が私たちの銀行なのです』

2008年8月、マレーシア・サラワク州ミリ県バラム河上流域に調査で訪れた際あるプナンの村長にインタビューした際の言葉だった()。

1980年代後半、サラワク州の先住民族が彼らの生活圏内の森林が商業伐採の対象になっていることに激しく抗議し、林道封鎖と法廷闘争を繰り広げ、日本を含め、世界の注目を浴びた。しかしながら、あれから約20年が経った今でも、彼らの苦悩は依然続いているどころか、むしろ悪化している。 折しも今年は国連が定めた生物多様性年であり、その生物多様性の代名詞ともいえる広大な熱帯林が広がるサラワク州では、今何が起こっているのか?

サラワクの現状
現在、サラワク州の主な問題は以下の4つに代表される。(1)非持続可能な木材生産、(2)大規模プランテーション開発、(3)水力発電ダム開発、そして(4)先住慣習権(NCR)への無配慮である。

サバイ村プナン人の林道封鎖
林道封鎖をするサバイ村のプナン人
(C)Sahabat Alam Malaysia


木材生産はこれまでの先住民族の継続的な抵抗運動にも関わらず、どんどん奥地化し、ついにインドネシアとの国境付近にまで達している。先住民族が生活の一部として利活用している森林は風前の灯火だ。そうした危機的状況を甘受することなくプナン人の林道封鎖活動は今でも断続的に続いており、最近では2010年4月にバラム河上流域のサバイ村で林道封鎖が行われた。

一方、アクセスのよい低地の二次林は、アブラヤシ農園やアカシアやファルカタといった単一早成樹種人工林のような大規模プランテーションの対象として皆伐され、加速度を増して消失している。そして、すでに植栽された農園や人工林の周辺住民たちは、農薬散布等による水質汚染被害に脅かされている。また1万人にも及ぶ先住民族に移住を余儀なくした巨大水力発電ダム事業、バクンダムのケースに見られるように、ダム開発は甚大な影響を及ぼしている。2008年2月には、サラワク州でマレーシア政府第9次国家計画に基づく巨大な開発計画として、サラワク州エネルギー回廊計画(通称SCORE)が発表され 、州内に波紋を投げかけている。

発表によると、SCOREは貧困撲滅のため80万人の雇用創出を掲げ州面積の57%を開発対象地域としている。また優先開発工業分野として以下の10分野を挙げている。(1)石油化学工業、(2)アルミ工業、(3)鉄鋼業、(4)ガラス工業、(5)観光、(6)パーム油産業、(7)林産業、(8)家畜産業、(9)水産養殖業、(10)船舶産業である。具体的な数値計画もあり、例えば、発電計画では、総水力発電量28,000MWを目標に置き、当面14のダム開発が計画されている。

先住民族に重くのしかかる州政府の方針。それに対する防衛措置の一つとして大規模プランテーション開発が彼ら先住民族の先住慣習地に与える影響についてセミナー等で伝えたり、コミュニティ主体でGPSを使った地図作り活動を実施している。地図作りにより、コミュニティの土地の境界が明確になり、予期せぬ政府や企業による無配慮な開発行為に対する有効な証拠の一つとなる。また、幾つかのコミュニティでは、先住慣習地の境界に植林をすることで、その境界や範囲を長期にわたり明確にしていく取組みもあるようだ。

日本政府はサラワクに対して何ができるのか?
日本政府が取り組んでいる違法伐採対策は、環境省所管のグリーン購入法を活用した政府調達物品の範囲内で、木材・木材製品の合法性の確認を義務付け、いわゆる「合法木材」の調達を奨励していることである。しかしこの取組みは生産国に対して、生産国内の既存の森林・林業関連法規制等に基づいた「合法性」を証明することのみを要求するものである。したがってサラワク州に対しては、現状の同州法規制の範疇にない「持続可能性」や「生産地周辺の居住者など社会的環境への配慮」などについて日本政府はまったく要求していない。

国際社会の違法伐採対策としては、前述のとおりEUが熱帯木材生産諸国との間で、二国間の貿易措置について交渉を進めており、牽引役となっている。米国も2008年に既存の法を改正することで違法伐採木材輸入の水際対策をはじめている。

こうした取組みは、必ずしも持続可能性や生産地の社会的環境への配慮を明確に要求しているものではないが、生産国内での合法性等に関する幅広い関係者間での議論を促したり、その過程で必要な改善取組みがあれば、その取組みを支援したり、または具体的な樹種名や原産地名を明確にすることを要求したりと日本のような「生産国の出した証明書を鵜呑みにする」形式よりは、より踏み込んだ取組みである。また日本政府がマレーシア-EU間の取組みへ関与することについては、サバ州の木材業界からも要望が出ており 、国際社会の一員としての責務を果たすべく、今後、日本政府には何らかのアクションを強く期待したい。

サラワクは重要な貿易パートナー、だからこそ私たちがすべきことは?

パームプランテーション
バラム河河口付近の広大な
オイルパームプランテーション
(C)Sahabat Alam Malaysia

ここで日本とサラワク州との関係をあらためて確認しておきたい。サラワク州は今も変わらぬ重要な熱帯木材・木材製品貿易のパートナーである。

丸太やコンクリートパネルやフローリングなどに重宝される合板、そして家具、ドア、クローゼット、階段、室内収納、窓枠など、住空間のあらゆる場所で使用される繊維板(MDF)が主な輸入製品である。2006年のデータによれば、サラワク州で製造された合板の約60%が日本へ輸出されていた。

木材輸出全体で見ても対日輸出が46%で他のインド7%、中国5%を大きく引き離していた 。一方パーム油については、サラワク州のみならず、半島部、サバ州を含めたデータとなるが、日本は90%以上をマレーシアから輸入している。

私たち日本市民は、木材製品やパーム油を消費することで間接的とはいえ、明らかにサラワク州の森林減少・劣化に加担している。その責任を再認識し、行動することが求められている。ただし単純な不買運動で、経済成長著しい大消費国、中国やインドに責任転嫁するのでは、真の解決には至らない。環境や社会に配慮して望ましい形で生産、製造された製品を強く要求していくことこそが、今私たちのすべきことである。

※本稿は、先住民族の10年ニュース第166号掲載記事からの抜粋である。
※”サラワクの今”を紹介するドキュメンタリー「森の慟哭(どうこく)」。インタビューをしたプナン人村長さんも登場します。是非ご覧ください。→こちらから

■参考文献/参考サイト
・Choy, Y. K. (2009). Sarawak Corridor of Renewable Energy (SCORE) and Dam-induced Economic Development Revisited. A handout of the Workshop on Sarawak's studies held at Reserch Institute for Humanity and Nature, Kyoto on May 16, 2009.
・Sarawak Timber Industry Development Corporation(2007). Statistics of timber and timber products Sarawak 2006.
http://www.sarawakscore.com.my/ (2010年6月10日アクセス)
http://www.dailyexpress.com.my/news.cfm?NewsID=70747 (2010年3月5日アクセス)


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