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フェアウッド・メールマガジン第44号 2011年2月16日発行

COP16カンクン報告
 ~REDD+交渉について

熱帯林行動ネットワーク(JATAN) 運営委員 川上 豊幸

COP16での森林減少・劣化からの排出削減(REDD+)
の論議


11月29日~12月10日に行われた気候変動枠組条約COP16カンクン会合は、当初、達成目標としていた一まとまりの決定(a set of decisions)という結果を得て終わった。

先進国と途上国の温室効果ガス削減目標を留意(take note)し、京都議定書の第一約束期間と第二約束期間にギャップが生じないように議論を進めることが合意されている。気温上昇を摂氏2度未満とすることなども明記された。

REDD+については、最大の懸案事項であったセーフガード(生物多様性や地域コミュニティに対する悪影響の予防措置)の実施の在り方、そのモニタリングや報告体制について、一定の合意が行われた。

セーフガードは、REDD+政策の実施に伴う社会や環境に与える負の影響を予防するために規定された配慮事項で、先住民や地域住民の権利の尊重、天然林の土地転換抑制、透明で効果的な森林ガバナンスなどが含まれる。当初、交渉オプションに残っていたセーフガードの実施レベルを「確保する」(ensured)という文言は議長提案文書から消えてしまい、「促進し支援する」(promoted and supported)で確定した。


会場前で行われた先進国の森林管理からの排出量カウント方法の抜け穴を批判した 抗議
ただ、NGO側としては、単に文言レベルでensuredを入れるということよりも、実質的にセーフガードを確実なもの(ensured)にするために、セーフガードの実施状況をきちんとモニタリングし、報告、検証できる体制を求めていた。こうした仕組みがREDD+実施において実施されることで、実質的にセーフガードを確保することを目指していた。結果、セーフガードへの取り組みがどのように行われ、尊重されたのかについての情報を提供するシステム構築の文言が盛り込まれ、実質的にセーフガードを確保する足がかりができ、さらに強化する余地も残した形となっている。

この実施状況の確認はMRVと呼ばれており、途上国や先進国が行う削減行動についての測定(measure)、報告(report)、検証(verify)をいかに確保するのか、どのように実施するのかが、交渉全体の大きな争点でもあった。そのため、REDD+においても、REDD+による温室効果ガス排出抑制がどの程度実施されたのかを測定し、報告し、検証するというREDD+の効果や活動自身のMRVは行うことになっていたが、それに加えて、NGOは協力関係にある政府とともにREDD+の実施に関わるセーフガードの実施状況もMRVの対象とすることを求めていた。一部の途上国から抵抗を受けて、文言は弱められたが、少なくとも、セーフガードがどのように取り組まれたか、尊重されているかといった情報を提供するシステム構築を明記することができた。もともとREDD+の文書は概ね合意されており、検討対象として残っていたのは、以下で述べる資金の支援方法と、このセーフガードのMRVの2点であった。

もう一点評価できる点としては、森林減少の原因(drivers)を特定し、これに途上国のみならず先進国を含む締約国全体で取り組むことが述べられた。当初、これは途上国のみで対処するという形だったものに、先進国を加えることで、森林減少の原因としての先進国の役割として、林産物や農産物の需要抑制や対策という観点の検討なども位置づけられた。


REDD+の資金調達方法とオフセットメカニズム


CAN Internationalの化石賞を示した表
資金支援の在り方については、REDD+の準備段階においては2国間や多国間の支援体制を行うことなどが合意されたが、完全実施段階においては、先進国の削減義務を回避できるオフセットメカニズム(相殺メカニズム:REDD+による排出量削減分を途上国側が販売し、先進国側が購入して先進国の排出量を相殺して削減したことにできる仕組み)などを通じた市場の利用については言及せず、どのような資金支援体制とするのかについては今後の議論にゆだねられることとなった。オフセットメカニズムを含むマーケットメカニズムの利用は、先進国側の削減義務回避につながり、その利用の是非も問われていて、気候変動交渉全体のデザインに関わる大きな議論であり、結論は出されなった。

当初、資金支援の在り方については2つのオプションがあり、オフセットメカニズムを採用することを明確に示した文言、明確ではないが市場の利用を示唆する文書の2つがあった。しかし、交渉の過程で、明確に市場の利用を否定する文言のオプションが付け加えられるとともに、2番目のオプションは資金オプションについて先送りするオプションへと変更され、1.多国間と二国間を含めた市場を利用するもの、2.議論の先送り、3.市場の利用を禁止するものの3つへと分かれた。日本政府としては、二国間オフセットメカニズムを推進しており、米国などとともにオプション1を支持していると考えられる。結果的には、COP16ではこうした決定を行うことはできず、議論はCOP17の南アフリカのダーバンへと先送りされた。よって、COP17までの資金リソースの確保方法の議論は交渉全体にとっても重要な局面を迎えるのではないかと思われる。


今後の動き

今後の排出削減量測定のための基準となる「排出量」や「森林」のベースラインをどのように設定するのかといった細目ルールの議論をUNFCCCの補助機関などの場で行うこととなっている。そして、さらには実際に制度を運用する際に必要となってくる制度実施のための「森林減少」、「森林劣化」などについての定義が最終的には議論されることとなるが、その内容がどのような定義となるのかによって、REDD+の中味を大きく左右することとなることから、これを注視していく必要がある。またセーフガードをどのように実際の政策で確保していくことができるのか、いかに、それをチェックできるのか、さらにセーフガードが満たされないときの対処としてのセーフティネットとしての苦情処理メカニズムは、いまだ議論の遡上に乗っておらず、なんらかの対応策が必要な状況にある。

※本記事は、熱帯林行動ネットワーク(JATAN)ニュースレター85号(2010年12月24日発行) の記事を加筆・修正したものです。


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