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第18回フェアウッド研究部会
次世代に引き継ぐ林業を目指して広葉樹の森づくりに取り組む大台町
2017年6月21日(水)18:30 東京・表参道

2017.5.22掲載
2017.6.28更新

開催報告


第18回フェアウッド研究部会は、三重県は大台町から宮川総合支所産業室室長の谷昌樹さんをお招きし、大台町が町をあげて目指す林業のお話をしていただきました。

 

大台町は、三重県の南西部に位置し、面積は 362.94平方キロメートル。その90%以上を山林が占めています。町の中央を流れる宮川は三重県最大の流域面積と長さを誇り、その水の清らかさから「清流日本一」に何度も選出されています。また、伊勢神宮の五十鈴川の上流部であることから「奥伊勢」としても知られています。1304年の伊勢神宮式年遷宮の際には、この地域の山から用材が伐りだされました。

 

谷さんは、大台町(旧宮川村)を大学時代に数年間離れたものの、それ以外はずっとここで暮らしてきたそうです。お話の節々に、この町への愛情が感じられました。元々は建築畑だったそうですが、2001年に行政と民間が協同で林業を支援するために作った第三セクター会社に出向したところから林業との関わりが始まったそうです。

 

当時、大台町もご多分に漏れず、他の地域と同様、苦しい林業経営に直面していました。木材価値の低下や林業の停滞による後継者不足などによって、手入れが行き届かない人工林が増加。また、急激なシカの増加によって著しく森が荒廃するなど、多くの苦難に見舞われていました。谷さんたちは、市場の木材低価格への対抗処置として、かつて大量に植林されたスギやヒノキの伐採設定時期を35~45年だったところを60年以上に伸ばすことや、小径材・大径材など規格品外材の有効利用を目指しました。しかし、木材市場の動向分析は非常で困難であり、単純に伐採を先延ばしにする長伐期に変更しても大きな成果は得られませんでした。また、温暖化などの影響でカミキリムシなどが大量発生し、いわゆる"アカネ材"も多く出るようになりました。結果、谷さんはこれまでの林業というものを抜本的に見直す必要があると考え始めます。新たな森づくりの始まりです。

 

それまで普通と考えられていた、「人間の都合優先の林業」から「自然の制約に基づく林業」への発想の転換が行われました。今までの、単純一様なスギ・ヒノキのみの林は、立地などの環境的側面を考慮せずに作られていましたが、「新しい森」では、自然の制約に則って適地適木、立地環境にふさわしい樹種たちを植えていくという考え方を打ち出しました。そして、森の仕組みを改めて見直し、環境保全的価値や経済的価値など、いかに「人の暮らしに役立つか」という価値の判断基準を明確化する作業も積極的に取り入れられました。

 

また、森の再設計をしている最中、今までは何気なく植えていた他の地域からの苗木がいかに違ったDNAを持っていたか気付いたそうです。そこで現在は、樹木の遺伝的多様性の保全を目指し、地域性苗木の生産に力を入れています。生産履歴証明などを発行し、地域性苗木の管理を徹底しているとのことです。さらに、地域福祉と連携して苗木を育てるスキームを確立。苗木産業が障害者就労支援施設の収益にもなり、森づくりを通じて地域の活性化にも繋がっています。

 

最後にご紹介いただいたのは、"Odai" というブランドを立ち上げ、木材以外の林産品を開発・生産・販売している宮川森林組合の取り組みでした。樹木の葉や枝などから蒸留した天然成分100%のエッセンシャルオイルや広葉樹のチップ各種でスモークしたチーズなど、森に想いを馳せることのできるアイテムを自分たちで企画開発しているそうです。印象的だったのは、「夫が森で林業をしている間、奥さんにはそこの木を使った商品の開発などをしてもらい、将来的には夫婦で林業が複合的に経営出来るモデルを目指しているんです」という谷さんの言葉でした。

 

「いかに、多角的に色々な条件を考えながら森を設計できるか」そして、「いかに、人と森がより良く共に生きていけるか」ということを、今回のプレゼンを通じて谷さんは語っていたように感じました。また、自分たちの暮らす森や川、そしてそこで暮らす人々への愛情があるからこそのアイディアの数々だと思いました。

 

ここで全部紹介できないのが非常に残念なのですが、今回の谷さんのお話は、セミナー前の軽い立ち話も含め、楽しくユーモラスで、ご自分の周りの自然への愛に溢れていました。「木の流れから未来を作る」というフェアウッド・パートナーズの理念を胸に、ぜひとも、この清流宮川の流れる大台町を訪れてみたいと思いました。

 

(報告:三上雄己/フェウッド・パートナーズ、abovo)


三重県中南西部に位置する大台町の旧宮川村地域では、14世紀初めに伊勢神宮式年遷宮に木材を提供するなど古くから発展してきました。戦後は日本の多くの山林地域と同様に、拡大造林によりスギ・ヒノキを中心とした人工林へと変わり、近年では、皆伐後の未造林地の増加や台風などによる崩壊などで山林の荒廃が進んでいます。そこで、森林立地評価に基づき大台町では、地域に自生する広葉樹を中心とする樹木を種から育て植樹する森林再生に取り組んでいます。大台町の森林再生の取り組みから、日本の森林と林業の再生へのヒントを探ります。

●開催概要
日 時:2017年6月21日(水)18:30~21:30(開場:18:00)
場 所: 株式会社ワイス・ワイス(〒150-0001東京都渋谷区神宮前5-12-7 2F)
会 費: 3,000円(懇親会費1,000円を含む。当日受付でいただきます)

プログラム(内容は予告なく変更することがあります)
第1部:講演「次世代に引き継ぐ林業を目指して広葉樹の森づくりに取り組む大台町」
谷昌樹氏/三重県大台町宮川総合支所産業室室長

第2部:懇親会

【講師プロフィール】
谷昌樹氏(たに・まさき)氏
1959年生。1979年旧宮川村に奉職、建築の技術吏員として、学校建設、特別養護老人ホーム、集会所等建設行政に従事。2001年第三セクターの林業後継者育成の会社(株)フォレストファイターズに出向し、初めて林業行政に携わる。過疎高齢化が進む中山間地域でスギ・ヒノキの林業だけでなく広葉樹を活用した新しい林業に取り組んでいる。


【お問合せ】
  • 地球・人間環境フォーラム(担当:坂本)
    http://www.fairwood.jp、info@fairwood.jp、TEL:03-5825-9735
  • ワイス・ワイス(担当窓口/広報課 野村)
    http://www.wisewise.com、press@wisewise.com、TEL: 03-5467-7003

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