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声明
“持続可能な”木材調達基準とは呼ばないで!!
違法な木材さえも調達可能なオリパラ組織委員会調達基準

2016.5.20掲載
更新

私たち世界の森林保全に貢献すべく活動している市民団体は、現在、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会)が2016年5月17日に公表した「持続可能性に配慮した木材調達基準(案)」(以下、基準案)について、以下のような懸念を共有しています。

1. 検討・策定プロセスについて
木材を含む組織委員会が調達する物品・サービス等の調達基準を策定する「調達ワーキンググループ※1 (以下、調達WG)」における議論に関して、十分な透明性が確保されていません。会合の傍聴や一般のオブザーバー参加は認められておらず、簡易な議事録が公開されているだけであること、さらに木材関係業界団体等は毎回会合に呼ばれていたにもかかわらず、木材の持続可能性に関心を持つ市民団体等の参加は4月15日の公開ヒアリングに限られています。また、基準案については、5月11日の調達WGで一切触れられていなかった事項等も含まれており、基準案の検討・策定プロセスについては適切であったといえません。さらには、5月17日夜半より開始されたパブリックコメントの期間も24日12時までの実質6日間と短すぎ、十分な議論・検討を歓迎しているとは思えません。


2.
調達基準(案)について
ア)既存の「合法木材」※2で対応可能としていること(基準案2①及び別紙1(1))
5月13日に参議院で可決・成立した「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」※3の制定の背景には、既存の林野庁ガイドラインに基づく「合法木材」制度では、日本に流入している違法伐採木材を排除するのに不十分であるという課題に対応するというねらいがあります。日本の既存の「合法木材」制度では、他の木材消費国の法規制(EU木材規則、米国改訂レイシー法、豪州違法伐採禁止法等)が採用している「合法性の基準」や「デューデリジェンス実施義務※4」等が盛り込まれていないために、日本に輸入されている木材製品の12パーセントと、他の先進国に比べて著しく高い割合となっています※5

基準案では、その新法策定のねらいがまったく取り入れられておらず、新法の施行後において大きな矛盾を生むものと言わざるを得ません。さらには5月26-27日に開催されるG7伊勢志摩サミットにおいて日本政府の違法伐採対策の成果として打ち出されるであろう新法制定の発表に泥を塗るものであります。

イ)合法性の基準内容が狭く、不明瞭であること(基準案2①、③、④、⑤)
既存の「合法木材」の課題の一つに、合法性の基準が「伐採に当たっての森林に関する法令」のみに限定されていること、また「森林に関する法令」の範囲がどこまでを指すのか不明瞭である点が挙げられます。伐採によって影響を受ける、もしくは違法伐採を行う伐採企業等によって不当な影響を受けている伐採地周辺の地域住民や先住民族等の権利への適切な配慮が、現地の土地法などの法令において規定されているにもかかわらず、「森林に関する法令」に限定された日本の「合法性」の要件の対象とならず、現地における人権侵害等を看過してきた経緯があります。

ウ)持続可能性の基準内容が限定的で、不明瞭であること(基準案2②~⑤)
基準案は、先住民族・地域住民の権利や労働者の安全対策、希少な動植物の保全まで、配慮の範囲が拡張されていることは評価できますが、各々の遵守すべき基準内容が限定的かつ不明瞭です。よって恣意的な判断に基づいた主観的な「確認」が可能となってしまいます。例えば、環境面では、希少種が確認されていない生態系・生物多様性の保全、自然林減少などの土地利用転換の問題、土砂災害への対処の問題が見過ごされ、労働面では労働者の権利が範囲に含まれていません。また先住民族や地域住民に対する基準については、権利の内容が明確でなく、たとえ苦情・要請等があったしても、何らかの対応をしていれば「誠実に対応している」と判断して書面を作成することが可能なので、権利侵害が看過される可能性が非常に高くなっています。持続可能性を満たす上で最低限必要と考えられる基準内容が全て含まれるように、証明方法において確認すべき要求事項の拡大と明確化が必要です。

エ)認証材以外の基準適合証明方法がゆるいこと(基準案4、別紙1(2)、(3))
基準適合を証明する方法として認証制度とそれ以外の証明方法では、分別管理において大きな差があります。認証材以外の証明方法においても、調達される製品のサプライチェーンのトレーサビリティについて把握し、そのリスクを評価・低減するデューデリジェンスを納入業者に求める必要があります。

オ)コンクリート型枠合板の「再使用」の基準が不明確であること(基準案2)
通常、建築現場においてコンクリート型枠合板は複数回、転用されることが一般的と考えられます。このことは建設コストや資源循環の視点からも推奨されることと考えます。しかしながら基準案の記述では、再使用の基準が不明確なため、複数の現場間での再使用や、事前購入・ストックしてあった未使用製品の使用等、さまざまな望ましくない使用方法が看過されるおそれがあります。

基準案においては、「再使用」は、あくまで一度使用したものの再使用であり、「在庫品の利用」は除外される、旨を注記等で明確にしなければなりません。


2020年東京大会においては、これまでのロンドン大会やリオ大会の成果を、最低でも同等、望ましくは大きく超えるような成果を目指すことが必須です。組織委員会では「TOKYO 2020 Vision」において、「2020年の東京大会は(中略)世界にポジティブな改革をもたらす大会とする」と目標を掲げています。その高い目標達成に向けた日本全体での取組みを促進させるためにも、基準案は、人権侵害等の諸問題を看過してしまうリスクの残るような“合法性”に固執したものではなく、“レガシー”と呼ぶにふさわしい“真の持続可能性”を追求したより高い基準でなければなりません。

2016年5月20日


国際環境NGO FoE Japan、地球・人間環境フォーラム、熱帯林行動ネットワーク(JATAN)

    ※1 調達WGについては組織委員会ウェブサイトhttps://tokyo2020.jp/jp/games/sustainability/sourcing-code-wg/を参照。

    ※2 2006年4月よりグリーン購入法の特定調達品目における木材・木材製品、紙等、木質原料を主とする製品等の判断基準、および配慮事項に合法性の確認と持続可能性への配慮が盛込まれ、林野庁作成の「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」によって合法性等が確認された木材・木材製品。

    ※3 法案については衆議院ウェブサイトhttp://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g19001029.htmを参照。

    ※4 欧豪は義務、米国は任意ながらDDをしていない場合には罰則が厳重となる。

    ※5 籾井まり(2014年)「違法木材の取引:日本における取組」チャタムハウス(英国王立国際問題研究所)


【本声明についての問合せ先】
Eメール:contact@fairwood.jp
地球・人間環境フォーラム(担当:坂本、飯沼)TEL:03-5825-9735
国際環境FoE Japan(担当:三柴、岸田)TEL:03-6909-5983



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