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フェアウッド・メールマガジン第38号 2010年8月13日発行

生物多様性を守る消費行動
~サプライ・チェーンの最上流を見つめよう

満田 夏花(国際環境NGO FoE Japan)

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私たちにとって身近な製品である日用品の原料は、その生産・採取の段階で、海外の生物多様性に大きな影響を与えることもある。

例えば紙。「植林木を使ったパルプを使っています」というと、環境に配慮しているイメージがあるが、植林といっても様々だ。スマトラ島リアウ州などでは、天然林を大規模に単一樹種の植林に転換してきた経緯がある。

食品はどうだろう。近年、規制と監視は厳しくなってきているものの、牧場開発によって広大なアマゾンの熱帯林が開発されてきたことは、長年指摘され続けてきたことだ。スーパーやコンビニにあふれる身近で廉価な加工食品の多くに使われているパーム油。この原料となるアブラヤシ農園開発のために、インドネシアやマレーシアの低地熱帯林、泥炭湿地が破壊されている。
さらに、宝飾品に使われている貴金属、私たちの使用する家電製品やIT機器、携帯電話に不可欠なさまざまな金属を採掘するために、生態系への圧力が強まってきている。

これらを「グローバリズムのもたらす必然」「産業社会の構造」として諦めてしまっては何もはじまらない。消費者は大きな力を持っている。まずは「気にするポイント」を企業に伝え、商品を選択すること、また、長く大切に使うことが重要だ。

原材料が生産地に与える事例を概観すると、保護価値の高い生態系を守る、住民の権利を侵害しない、需要削減に取り組む――など、共通の「気にするポイント」が見えてくる。


■鉱物資源編

大規模な掘削を伴う鉱山開発
大規模採掘を伴う鉱山開発

携帯電話を考えてみよう。端末本体にはマグネシウム、銅、鉄、銀、金、電池には、アルミニウム、コバルト、リチウム、銅、金、充電器には、銅、鉄、アルミニウム、銀、その他、タングステン、ニッケル、タンタル、コバルト、パラジウム、コバルト、インジウムなど 一台の携帯電話には多種多様の金属を含んでいる(総務省、2009)。これらの金属原料の一部は国内のリサイクル原料から調達されるが、大半は海外からやってくる。


テーリングダム
鉱山開発は大規模で大面積の掘削を伴うことが多い。例えば1gの金を得るためには、約100万倍、すなわち1トンもの掘削を必要とする。1gを取り出した残りの99万9,999gは鉱山廃棄物として廃棄されることとなる。また、鉱山開発の探査から採掘サイトの準備工、実際の採掘、テーリング・ダム(注1)や道路や港湾などの建設など、生態系の大面積で物理的な改変を伴う。操業中に発生する大量のズリ(注2)やテーリング、水利用や排水などを通じた影響が発生することがある。閉山後にも土壌流出や浸出水の影響が生じ続ける場合がある。

鉱山開発プロジェクトの中には、世界的にも貴重な生態系で実施が計画されているものも少なくない。

鉱物資源の透明性に画期的な一歩

さらに鉱山開発は、とりわけ民主的な意思決定システムが確立していない、政府プロジェクトに住民が反対の声をあげられないなど、社会的に脆弱な国々において、汚職・腐敗構造、反対する先住民族や環境活動家への有形・無形の弾圧、内戦や反対勢力を鎮圧するための軍事費への転用など例が後を絶たない。
このような鉱山開発の諸問題については、とりわけ採取企業から産出国政府に流れる資金の透明性を改善していくための国際的な取り組みが進められている。2002年のヨハネスブルグ・サミットで、イギリスのブレア首相(当時)の提唱から始まった採取産業透明化イニシアティブ(EITI)は、鉱業に関する企業から政府への実際の支払いを含む情報公開を促進・支援するためのイニシアティブで、国連やG8、G20、日本を含む多くの国際機関、金融機関、国々の支援のもとに促進されてきている。

また、日本ではほとんど報道されなかったが、2010年7月21日に成立したアメリカの「金融規制改革法」は画期的な一歩を踏み出した。エネルギー・鉱物企業に対して、途上国から調達した原材料資源の産出国とその産出地域からのサプライチェーンに関する情報、資源産出国の政府に支払った金額に関する情報の報告義務を負わせるという規定が含まれているのだ(注3)。採掘産業の透明性を改善し、問題に対処する重要な一歩として高く評価されている(注4)。

それでは、実際の資源採掘の現場ではどのような問題が生じているのだろうか。

ニューカレドニアのニッケル開発

精錬所
ゴロ・ニッケル事業は、ニューカレドニアの南部州の最南端のゴロおよびプロニー地区で進められている。酸化ニッケル年間約6万トンと炭酸コバルト4~5千トンを生産予定で、総事業費は約18.78億米ドル。露天掘りによるラテライト鉱の掘削、精錬所、港湾、テーリング・ダム、排水パイプの建設を伴う。事業体であるゴロ・ニッケル社は、ブラジルのヴァーレ・インコ社の現地法人であり、三井物産、住友金属鉱山も資本参加。産出したニッケルは日本にも輸出されることも計画されている。

事業地において多く見られる「マキ」の
植生タイプの一つ
(Maquis ligno-herbace)
この事業は、保護価値の高い生態系の只中で実施されている。周辺地域は金属を多く含んだ特殊な土壌により、モザイク状に14の植生群が発達している。その多くが、日本の森林を見慣れた目には低木・灌木から構成される特異な景観だ。植物の固有種率が非常に高い値を示しているのも特徴である(事業者が実施した環境影響評価によれば9割を超える)。精錬所やテーリング・ダムに植生特別保護区が隣接している。

 同鉱山は、ラテライト型の鉱床であり、ニッケルとコバルトは地表から比較的浅い場所に分布する。このため、広範囲にわたる剥土が必要となり、採掘にあたって地表の植生の除去、それにともなって、既存の生態系、生物多様性の破壊が生じる。
ゴロニッケルに対する反対集会の模様。とりわけ2006年には、工場の操業許可(ICPE)の取り消し命令が出されたのにもかかわらず、事業者が工事を続行していることに住民が反発し、道路封鎖や多くの抗議行動が行われた。(写真提供:レブヌー委員会。2006年撮影)
また、港湾が面するプロニー湾では、クジラ、ジュゴン、イルカが出現する。また、採掘サイトからの河川が流れ込む海域一帯は、生態的価値や貴重な海洋生物、サンゴのさまざまな段階の進化の形態などが評価され、2008年に世界遺産に登録されている。陸域と海域とは、河川や地下水系を通じてつながっており、陸域での森林伐採や大規模な掘削が海域に影響を与えることは避けられないだろう。

事業者であるゴロ・ニッケル社は、採掘した場所は埋め戻し、在来種をつかって植生を回復させる計画である。専門家も雇用されており、その植生回復計画は緻密であり、大がかりでもある。しかし、周辺の生態系の特殊性や脆弱性、陸域と水域との入り組んだ関係などを考えたとき、一度破壊した広範囲の生態系を復元できるかについては疑問が残る。また、現実問題、掘削したすべてのサイトを埋め戻せるわけではない。(続く

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(注1)テーリング(尾鉱、廃滓)とは選鉱による有用鉱物回収の残り滓。テーリング・ダムはテーリングを貯めるためのダム。
(注2)選鉱にかける前に廃棄される採掘物。
(注3)谷口政次「米国の金融規制改革法案と、コンゴのレアメタル」日経ビジネス・オンライン。
(注4)2010年7月19日付ファイナンシャル・タイムズ 社説"US shines a light"


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