フェアウッド・メールマガジン第39号 2010年9月10日発行
オランウータンの危機は、私たちの危機
宮崎 林司
私がはじめてオランウータンに出会ったのは、今から35年前の1975年、インドネシア東カリマンタン州のサマリンダの上流のスブルという村に隣接した伐採現場でした。
その森林の北の境界はクタイ国立公園でオランウータンの生息する豊かな森林地域でした。
その森で人間の胸高直径が60cm以上のメランティ類を伐採して日本に輸出することが、当時の私の仕事でした。職務に忠実に、一生懸命に働いてたくさんの木材を切り出すことが生きがいでした
オランウータンは樹上生活者でおおきな樹木の上に巣を造って生活をする動物ですから、大きな樹木を切り倒されると振り落とされて、家を失ってしまうという当たり前の事情をその当時は知らなかったのです。
オランウータンからの伝言
家をなくしたオランウータンの親子が行き場をなくして、歩き回っているうちに、丸太を運び出すロギングロードに出てきたところでジープに乗った私と遭遇したのが始めての出会いです。普通の動物は、ジープで人間が近づけば逃げますが、その親子のオランウータンは逃げることなく、なんとも言えない眼差しで私を見ていました。
生まれてはじめて見るオランウータンという動物の不思議な存在感と眼差しが大変印象的でした。眼差しの奧に感じたのは、天然の豊かな森の大木を伐採してしまう人間の愚かな行いに、自分たちの棲家を壊す敵・人間に対する憎しみではなく、哀れみでした。
彼らは天然の熱帯雨林を守り、そこに住むあらゆる生物と共生し、生物多様性を維持して平穏な日々を生きていたのです。他の動物を攻撃して傷つけることもなく、果物や葉っぱなどと僅かな昆虫を主の食糧にして、大樹の上でゆうゆうと生きてきたオランウータンは生きていることそのものが自然環境を良くしてきたのです。
森の哲人の教え
人間の侵入に対しても無抵抗のオランウータンはまさに「森の哲人」と呼ばれるにふさわしい生き物です。本来の人間と同じ草食動物で、人間とDNAレベルで2~3%しか違わない動物を100年前の僅か8%にまで追い詰めて、絶滅の危機にしてしまったのは人間です。
そこには、地球規模の考えや世代を越えた考えもなく、他の生物への配慮もなく、生物多様性の大切さの認識や配慮もなく、愚かな生き物「人間」の姿でしか有りません。
熱帯雨林を壊しながら絶滅の危機を嘆き、オランウータンの絶滅の危機にも同情はするけれども格別な配慮をしてこなかった。人間には再生できない自然を壊しながら、持続可能な社会など創ることは不可能です。
いまこそ、オランウータンの保護と熱帯雨林の保護と人類の未来づくりはすべて同じ線の上に有ること認識する必要が有ります。
日本の昔の教えには、「山川草木国土悉皆成仏」という教えがあります。この価値観に立ち返り、自然を保護して再生することなくして、人類の明るい未来はありません。
オランウータンの生命を大事に思うことは、人類の子孫の命を大事にすることと同じです。
熱帯雨林保護もオランウータン保護も今、もうラストチャンス
イメージできる以上に破壊された熱帯雨林、わずかに残された天然の森を保護して、オランウータンが安心して暮らせる環境を創ることは、人類にしかできない生業であり、義務です。
この度インドネシア政府が2015年までにすべてのオランウータンを森に還すという方針を実現するために、「森林を保護するための林区」という新しい概念の林区権をインドネシアのボルネオ オランウータン サバイバル財団の子会社に発給しました。
今後、この新しい保護された森林にオランウータンが9年ぶりにリリースされます。
この新しい林区のライセンスフィーの支払いをみんなのトラスト寄付金で集めたいと願っています。特にオランウータンの棲家の森を壊した日本人として行動して欲しいと願っています。
オランウータンは、世界でもインドネシアとマレーシアの一部にしかいません。生息している地域の人たちだけのものではなくて、わたしたち人類の宝です。
オランウータンを守れなくて、何が生物多様性の維持だと思います。
暑い暑い夏の原因も「地球のクーラー」といわれる熱帯雨林の激減、特に日本の暑さはインドネシアの森林破壊が大きく影響していると思っています。
僅かな望みを未来につなぐために、より多くの皆さんが現実を知り、行動をして頂くことを願っています。