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フェアウッド・メールマガジン第41号 2010年11月12日発行

ベトナムの森林と木材貿易

国際環境NGO FoE Japan 満田夏花

ベトナムの森林の状況

ベトナムには多様な植生を有する豊かな森林があったが、戦争、大規模な産業開発、農地転換、インフラ建設などにより、ここ数十年で森林被覆率が激減した。一方、天然林の伐採制限などの保護政策や植林により、近年、森林面積は人工林を中心に増加傾向にある。ベトナム政府によれば、森林面積は、1992年920万haであったが、2006年には1,260万haに、2008年末までに1,310万haまで増加している。森林率は38.7%である。2008年には、人工林は森林全体の21%強を占めている。ほとんどの天然林は、中部高原地域、北東部、北中部などに集中している。

ベトナム中部山岳地域の森林
ベトナムでは森林に依存した生活を営んできた山岳少数民族が多く存在するが、全国で進められている大規模開発や森林へのアクセスへの制限により、その生計が圧迫されているという現状もある(囲み記事参照)。一方で、政府は森林 の利用権を地域コミュニティに割り当てていく政策を進めている。

木材生産と木材貿易

2008年のベトナムの木材生産量は3,562,000 立法メートルであり、これは2005年から31%の増加であった。農業農村開発省(以下MARD)が伐採割当制度によって天然林開発を制限しているため、ベトナムで伐採された木材のほとんどは、人工林の伐採によるものとなっている。

ベトナム政府は、産業用の伐採による急激な森林減少に歯止めをかけるため、1990年代に開発から保護へと政策を転換した。1990年初頭、政府は、丸太の輸出を禁止した(Heiko Worner et al. 2009)。また、天然林の商業伐採に関しては許容伐採割り当てを設けた。1997年には52万立法メートルだった天然林の伐採割り当てはが、2000年には30万立法メートルに減少した。さらに2007年には15万立法メートルに制限している(EIA/Telapak.2008)。

違法な伐採が多くの場所で行われたので、実際の天然林の伐採量はこれよりもずっと多く、年間約550,000-600,000立法メートルであると推定される(GFD. 2010)。 ベトナムの木材家具産業は、近年飛躍的に成長した。ベトナムには、現在、約1,500の木材加工企業があり、全体として年に250万立法メートルの木を加工する能力を有している。このうち、450の企業が輸出業も行っている。木工製品の輸出の大部分を屋外用家具が占め、その他、木材チップや製材などの半最終製品が輸出されている(EIA/Telapak.2008、HAWA.2009)。

しかし、急激に拡大する家具製造業に対し、国内で供給できる木材は少なく、需要を満たすためには輸入に大きく頼らなければならない状況である。2000年には1億2000万米ドルだった木材と林産物の輸入額は、2006年に7億1600万米ドルとなり、6年間で5倍に増加した。ベトナムの木材加工業者は、年に200万立法メートルを輸入しており、これは必要とされる原料の80%以上にあたる。

ベトナムの家具の最大貿易相手国はアメリカ、日本、イギリス、ドイツ、フランス、中国で、この6カ国への輸出が全輸出の75%を占める。2008年、アメリカは10億6400万米ドルに値する家具をベトナムから輸入しており、日本はそれに次ぐ3億7,880万米ドル、イギリスは1億9,770万米ドルを輸入している。Meyfroidtらによれば、ベトナムの木材需要の増加により国外に移転した伐採の合計は、1998年から2003年には年240~460万立法メートルで推移し、その後急増して2006年に1,020万立法メートルとなったとしている(Meyfroidst et al. 2009)。

ベトナムの木材輸入の国別状況
出典:GFD(2010)。Vietnam General Statistic Officeをもとに作成


ベトナムの家具の主要輸出先10カ国およびその推移
出典:GFD(2010)。Vietnam General Statistic Officeをもとに作成


ベトナムにおける森林管理体制および規制

森林に関する法制度の中心となるのは、「森林保護開発法」(No.29/2004/QH11)である。1991年に制定され、その後改定を重ね、現行法は2004年に改正されたものである。 伐採され材木など森林生産物のその後の輸送・貯蔵・加工過程については、「森林生産物の検査と管理に関する規則」(2005年10月10日公布)が規定している。

生産林は、その種別及び利用権の主体に応じて、以下の規制がなされている。 まず、自然生産林においては、これを利用する企業は投資及び森林管理保護生産運営計画について、世帯・個人は森林管理保護生産運営計画について、政府の承認を得なければならない(森林保護開発法56条2項)。植林生産林においては、利用権者は、森林の生育に関する計画を立案することが求められる(同法57条1項)。植林生産林の伐採については、使用権者が育成した森林である場合には、自由な伐採が認められる一方、国が育成した森林である場合には、使用権者は政府の許可を得た上で伐採を行うことになる。いずれの場合でも、伐採した木材は市場で売却することができる。また伐採者には再植林義務が課される。

森林生産物の輸送・貯蔵・加工過程の規制方法としては、一定の文書の所持を要求し、これを検査する方法が採られている。木材輸送にあたっては、①売却時の請求書、②県森林保護局の証明書、③木材記録又はリスト――が必要となり、また木材にはレンジャーによるハンマー印が刻印されていなければならない。

違法伐採および違法木材流通

MARDの森林生産局の公式資料によれば、2005年から2009年までの間に、41,008件の違法伐採が報告され、これにより25,396haの森林が伐採された。国内の伐採については、監視が厳しくなってきており、違法伐採報告件数、被害面積ともに減少している。

一方、いくつかの研究は、ベトナムにおける加工木材産業の急成長に伴い、ラオスやカンボジア、ビルマ・ミャンマーなどの周辺諸国からの違法伐採木材が輸入されていることについて報告している。とりわけ、ラオスは丸太の輸出が禁止されているが、ラオス南部からベトナム中部への丸太および製材が流入している。ラオスの木材はベトナムの公的な開発支援と引き換えに、あるいは公的な債務返済目的で取引される場合も多い。

ある研究では、実際の木材需要と国内木材供給および合法な木材輸入の差から、違法伐採木材輸入の量を推定し、輸入量の約48.1%は違法木材であるとしている(Meyfroid et al. 2009)。一方、Chatam Houseの報告によれば、木材輸入量の約16~17%が違法であると見積もられており、率としては減少傾向であるものの、量としては増加しているとしている。

違法伐採防止への取り組み

ベトナムは国の政策として、森林認証、とりわけFSC認証の推進に取り組んでいる。

ベトナム林業開発戦略(2006-2020)では、「生産林の30%で認証を取得する」と野心的な目的を掲げている。2009年までにベトナムにおけるFSCの認証取得数は193件を取得している。タイで37、マレーシアで105、インドネシアで130であることを考えると、ベトナムはFSC認証取得企業数が多い。しかし、このほとんどはCoC認証であり、森林管理に関する認証取得件数は、QPFL(Quy Nhon Plantation Forest Company)社1件にとどまる。

2007年以来、ベトナム政府および欧州委員会は、EU向けに輸出されるベトナムの木材製品を合法性が確認されたものにするため、行動計画の合意に向けての協議を重ねている。2010年3月、FLEGT(注1)ベトナムワーキンググループが発足し、FLEGTおよび林産物貿易に関連する国際合意、国内規定の調整などを行うこととなった。しかし、ベトナム及びEUの合意の形態や範囲、内容についてはつめられておらず、EU市場への木材製品に求められる合法性証明システムが具体的にどのようなものになるのかは固まっていない。FLEGTは、ベトナムの行政、木材産業、NGOからは、ベトナムにおける木材利用の持続可能性を促進し、国際市場に対してベトナムの産業は環境に配慮していることを示すチャンスとして、比較的前向きにとらえられている。

また、アメリカの改訂レーシー法(注2)の本格適用に伴い、木材製品の4割以上をアメリカに輸出しているベトナムの木材産業に与える影響は大きいと考えられている。しかし、原産地証明やアメリカ向け貨物の税関申請書の書式が定まっていないなど、業界としての具体的な対応が打ち出されていないのが現状であり、木材家具業界の間に困惑も見られる。

※本稿は、平成21年度林野庁補助事業「合法木材供給体制調査」の一環とし て実施した、各種文献調査、2009年10月および2010年1月のベトナムにおける政府・企業・NGO関係者への聴き取り調査などをもとに執筆した。詳細は下記の報告書を参照されたい。
平成21年度林野庁補助事業 「合法木材供給体制調査-ベトナム編-報告書」
http://www.foejapan.org/forest/library/report_goho201003v.html


ベトナムの森林と少数民族

ベトナムにおいては森林に依存した生活を営んでいる住民が、1,500万人から2,500万人存在すると言われている。この多くが山岳少数民族である。少数民族の大部分は農村に住んでおり、多数民族であるキン族(ベト族)と比較してはるかに農業や森林からの林産物に頼る度合いが高い。また、メコン流域のデルタ地域および南東沿岸に定住しているクメール族およびチャム族という例外もあるが、少数民族はベトナムの山間地および森林地域に居住している。少数民族のうち、森林の利用権を有しているのは24%にとどまり、政府の森林の割り当て政策が思うように進んでいないという指摘もある(Rob Swinkels and Car rie Turk, 2006)。

伝統的に森林に依存した生活を営む少数民族等の人々は、森林保護政策が厳格になるに従って、森林へのアクセスが厳しく制限され、それが彼らの生計を悪化させていている。

さらに、全国にわたる水力発電開発など大規模なインフラ開発もまた、少数民族の伝統的な生活を激変させている。1992~2006年にかけて、全国で建設された22箇所の重点ダム建設により、19万3,000人以上の立ち退きが生じたが、このほとんどが山岳少数民族であった(注3)

他の東南アジア諸国と同様、ベトナムにおいても、山岳地域における循環型焼き畑や、非木材森林生産物などの利用がさかんであったが、このような森林に根ざした農法や文化は、少数民族の定耕化を図る政策や、大規模ダム建設に伴う再定住などにより、消失しかかっているのが実情である。

一方、森林保護開発法の2004年の改正は、社会林業およびコミュニティ林業に関する包括的な枠組みを含んだものとなった。MARDのコミュニティ林業ワーキング・グループが、森林地の利用計画の立案と土地の配分に関するパイロット事業を実施している。今後、コミュニティを主体とする林業が進むに従い、少数民族などの森林利用が進んでいくものと考えられる。

<注>
注1)EUで進められている「森林法施行・ガバナンスと貿易(FLEGT)」行動計画に基づくイニシアティブ。生産国との二国間合意(VPA)に基づく合法性確認システムの確立を通じて、EUに輸出される木材から違法木材を排除することを目指す。

注2)レーシー(Lacey)法が2008年に改訂されたことにより、海外において違法に伐採された木材や木材製品を輸入、輸送、販売、購入することは、たとえそれを認識していなくても違法とみなすこととなった。この法改正により、すべての木材・木材製品の輸入に、①樹種、②原産地国、③数量、④価格を含む申告書が必要となる 。紙、家具、丸太、フローリング、合板および額縁などの木材製品をアメリカ向けに輸出するすべての企業が対応を迫られることとなった。

注3)トイバオキンテー 紙2007年4月17日によるNNA記事より。

<参考文献>
Chatham House, 2009. Illegal Logging and Related Trade: 2008 Assessment of the Global Response (Pilot study), Energy, Environment and Develo pment program

EIA(Environmental Investment Agency) and Telapak, 2008. BORDERLINES Vietnam's Booming Furniture Industry and Timber Smuggling in the Mekong region

Heiko Worner, Grit Techel, Vietnamese-German Forestry Programme. 2009. Purchasing of sustainable raw material - An important factor for the Vietnamese forest industry to compete in the international market. XIII World Forestry Congress Buenos Aires, Argentina, 18 - 23 October 200 9

Green Field Consulting & Development(GFD), 2010. Study On Sustainable And Legal Timber Supply System In Asian Countries -A Study for Vietnam

Meyfroidt. P. and Lambin.Eric F. Forest transition in Vietnam and displacement of deforestation abroad, 2009. PNAS


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