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ビジネスと人権セミナー:
マレーシア・サラワク州における違法伐採~日本のサプライチェーンとのつながり

2016.1.4掲載

 

2015年12月2日に開催された上記セミナーのうち、ニコラス・ムジャ氏(サラワク・ダヤック・イバン協会)の講演内容の要旨を紹介します。

サラワクにおける先住民族の権利
(ニコラス・ムジャ(Nicholas Mujah)氏/サラワク・ダヤック・イバン協会)


■暮らしの糧を森から得るサラワクの先住民族
現在サラワク州には、27の先住民族が存在していると言われています。以前にはもっと様々な先住民族が存在しましたが、土地から追い出されるなどの理由で、他の民族と合併吸収し、独自の存在を失ってしまった民族もあります。


森に住む先住民族の暮らしの様子ですが、先住民族が住む長屋はロングハウスといって、すべて私たちが森で集めた木材で作っています。森から採れる木材や非木材産品が、私たち先住民族の暮らしの基盤となっています。だからこそ、森林開発や破壊に、私たち先住民族は非常に神経を尖らせています。


先住民族の生活では森を金儲けの糧にするのではなく、日常的に使用するいろいろな食べ物や物品を得る場所として活用しています。例えば、毎日のように森へ出かけて果物を集めたり、森の中の川で魚を捕ったりします。また多くの先住民族の村は、市街地から遠く離れているので、サトウキビで作った砂糖を購入することができません。私たちは代わりに木にできたミツバチの巣からハチミツを採ります。このミツバチは特定の樹種にしか巣を作りませんので、ハチが巣を作る木は先住民族にとって大変貴重であり、長年守ってきました。最近は政府も蜂が巣を作る木は特別な保護樹種として、伐採を禁じるようになりました。

■サラワク州の土地法と先住民族の権利
サラワク州での先住民族の土地に対する権利に関する法制度についてご紹介します。先住民族の土地に対する権利は、極めて限定的な形でしか認められていません。サラワク州の土地法では1958年1月1日よりも以前にその土地を利用し、占有していたことを証明できないと先住民族としての慣習的な土地権は主張できない規定になっています。1958年以降に生まれた人たちが慣習的な土地権を主張する条文は別にあり、サラワク土地法の6条及び10条で定められています。土地法の6条では、サラワク州政府土地調査局が先住民族の利用のために一定の土地を区画することが認められています。しかし、この6条は、先住民族が土地所有権を持つことができるという規定ではありません。サラワク土地法6条のもとでは、仮に政府が先住民族の利用のために土地の区画を定めていても、その土地の権利をはく奪することも可能なのです。また土地法の10条ではまだ誰も使用していない内陸地を先住民族が地域事務所に申請をして許可が下りれば、その土地を利用することが出来るようになりますが、用途は農地としての利用に限られます。

 

 

■サラワク州での木材伐採の実情について
実際にサラワク州ではどのような伐採が実施されているのかについて伝えたいと思います。サラワク州での森林伐採は、合法と主張している伐採エリア(コンセッションエリア)と違法な伐採エリアを無差別に伐採していることが大変問題となっています。多くの場合は、伐採ライセンスで決められた手順を守らず、伐採が禁止されたエリアまで伐採していることがよく見られます。例えば川沿いの一定の範囲は、緩衝地帯とされて本来は伐採していけません。川沿いの緩衝地帯では、非常に品質の高いメランティという木を海外に輸出するため伐採されていましたが、本来は違法です。

 

また伐採許可が与えられた面積と比べて、符合しないほど多くの木材が産出されることも良くあります。なぜならば伐採エリアの外まで伐採をし、許可された伐採エリアの木材と同じタグを貼って販売されているからです。この状況ではサラワク州の木材が本当に伐採許可されたエリアから来たものかどうか、付いているラベルを見ただけでは判断がつかなくなります。こうして産地が全く不透明な木材が製材所に送られ、海外各国に輸出されているのです。しかも、あたかも合法の木材であるかように、合法性を示すタグをつけた状態で輸出されています。

 

■土地をめぐる政府・企業・先住民族の争い
伐採や土地の用途転換という要因によって、政府や企業と先住民族との間で数多くの土地紛争が起こっています。それによって先住民族はどのような影響を受けているのでしょうか。伐採会社には開発に際し暫定的な借地権が発行されますが、この合法的な借地権は先住民族の土地の権利を全く尊重しておらず、企業に対して先住民族が通報や抗議をすると、多くの場合警察に逮捕されます。

先住民族の財産権が侵害されることに加えて、例えば先祖代々の墓があるような聖地といった精神的に大切な場所も、アブラヤシのプランテーションや人工林に転換され、破壊されています。更には、土地を守ろうとする先住民族を脅迫し、黙らせるために暴力団を雇うケースもあります。またある伐採会社は、地域事務所が正式に先住民族の土地権を認めている土地を伐採するために、政府と強いパイプを駆使して伐採ライセンスを入手したりします。この場合、先住民族が違法伐採に関して苦情を申し立てると一旦は伐採などの操業は止まりますが、こういった伐採会社は政府と強く癒着しており、しばらくすると操業が再開されるといういたちごっこが起きています。

サラワク州では政治家や権力者と繋がっていて、お金があればいくらでも簡単に土地が手に入ります。実際にその土地にどれだけの先住民族が権利を持っているかなどは考慮されず、賄賂を支払えば簡単に土地が入手できます。このようにサラワク州の立法府の制度は非常に腐敗しているのが現状です。
また乱開発を行うためのもうひとつの手口として使われているのは、ダム開発です。サラワク州政府は58基のダムを建設する計画を立てています。そしてダムの建設予定地の上流では、ダムが実際に作られるかどうかに関係なく、そこがダムになるという理由で森林伐採が進んでいます。しかしその建設予定地の森の中には多くの先住民族が実際に暮らしています。結果的にダム開発が先住民族にとって深刻な問題になっています。

この点に関しては、法律に大きな欠陥が今も存在しています。先住民族の権利が認められている土地でも、公的な目的のために土地が収用される場合は先住民族の権利が抹消され、それを食い止める法的な手段がありません。そして公的に収容された土地に対して住民の被害を補うような法的な救済措置も定められていません。

それでも先住民族は法的な仕組みを活用し、裁判闘争を続けてきました。裁判所は先住民族の慣習法に基づく土地に対する権利を基本的に認めてきたので、土地の権利に関する裁判の多くでは先住民族が勝つことができました。しかし裁判には非常に時間がかかるという欠点があり、どんなに早くても一審の判決には8年、上訴で判決がでるのには15年近くかかります。サラワク州の土地法やその他の法律の文面は非常にしっかりしていると思いますが、政府はその法律をちゃんと遵守しているとは言えません。今まで私たち先住民族は、いろいろな方法で政府に対して自分達の問題を訴えてかけてきました。しかしいまだに先住民族に影響を及ぼす事業や政策に関して大きな改善は見られていません。

 

■裁判を通した権利回復を目指す
私たちはかすかな希望しかなくても、その希望を失わずに戦いつづけ、法制度を通して自分達の権利を回復することを目指しています。しかし、そのためには高いコストや大きなリスクを抱えなければなりません。実は私自身も伐採会社を相手取って裁判をした経験があります。最初に裁判を提起した2005年から、控訴裁判所から最終的な判決がでる2014年まで非常に長い年月がかかりました。裁判に勝訴したのは良いことなのですが、私たちの土地は最終判決が出たときには伐採し尽くされていました。その木材がどこに行ったのは知る由もありません。そして実際にサラワク州の中では係争地でない場所はないといっても過言ではありません。州内のあらゆる場所に伐採とプランテーションに対するライセンスが発行されていますが、ほとんど例外なくその土地を利用する先住民族が異議申し立てをしています。なぜなら、どこの森にも昔から先住民族が住んでいるからです。私どもサラワク・ダヤック・イバン協会が関わった裁判の数だけでも、伐採とアブラヤシや鉱山開発を含め、これまで464件もの裁判を扱ってきました。

・造林のためにリースが発行された土地:白
・アブラヤシを植えるためにリースされた土地:黄色

 

この地図は私たちが裁判の資料として提出したコミュニティで作った地図の例です。こういったリースが出されているところの多くは、先住民族が慣習的な土地の権利を主張しているところと重なっています。こうした土地紛争が多くなされてきたにも関わらず、企業は先住民族が居住・利用する土地に対する侵害を続けています。サラワク州の新しい主席大臣は、当面新しい伐採ライセンスを発行しないこと、また泥炭湿地林での開発を許可しないことを口約束しています。その新しい州主席大臣に実際に面会する機会も得ました。しかし残念ながら、今もこれまでと変わらない乱開発が進められているのが現実です。

 

■土地は私たちの命そのもの
土地は私たちの血であり、私たちの命そのものであります。私たちが土地を奪われると、もはや生きていくことができません。先住民族が伐採によって受けている被害をなくすために、サラワク州の外にいる皆様は是非協力の手を差し伸べてください。お願いします。


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