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第31回フェアウッド研究部会
都市インフラでの木材利用の効果と課題
~ウッドデザイン賞の事例から
2018年10月31日(水)16:30 @東京・表参道

2018.9.12掲載
2019.2.5更新

開催報告


■長野麻子さん/林野庁木材利用課長
長野さんからは、日本国内の森林資源の現状、森林の持続的なサイクル、木材需要、木づかい運動になどについて、わかりやすく説明していただきました。現在、人工林の約半分が主伐期を迎えつつあるという現状のなか、森林を利用し循環させることが必要とのこと。良い木材は、法隆寺などのように1000年以上も利用することができるため、木質バイオマスとしていきなり燃やしてしまうのではなく、木材として利用することが大切です。また、2005年から林野庁が行っている木づかい運動では、見せる機会を増やすことでより多く使ってもらいたいという思いがあるそうです。消費者に選んでもらい使ってもらうことが大事であり、「木はいいね」というところでは終わらせず、利用を具体化させ、木を身近に感じてもらうお手伝いを今後も継続したいというご自身の想いを語っていただきました。

■永杉博正さん/東日本旅客鉄道株式会社事業創造本部
永杉さんより、ノーザンステーションゲート秋田プロジェクトについてご報告いただきました。秋田県は秋田駅を中心として、全国に先駆けて中心市街地空洞化などが起きていました。危機感を感じた県・市・JRが2015年に地方創生をきっかけにして活性化へ動き出しました。この地方創生の導入として秋田県は人口減少率、高齢化率がともに全国一位であり、先進県としての取り組みがとても意義があるものとして、地方創生に向けたコンパクトなまちづくりを目指し行ったものでした。この秋田駅の取り組みは同時に秋田県民の誇りを取り戻すというものであり、その中で秋田杉を用いた駅舎を建てるものでした。このプロジェクトは産官学連携によって進められ、2017年の4月に秋田駅を秋田杉(純不燃材)をふんだんに使い駅空間をリニューアルしました。

具体的には待合室においてどこにでもある背もたれ付きの椅子を、秋田杉を使い秋田の木工技術を集結させた、独特な椅子となりました。来訪者、地元民どちらもが快適に滞在できる空間となりました。他にも秋田色や地酒を発信する立ち飲みバーを開業、地元の秋田公立美術大学と連携したLVLの端材を用いたアートを行ったそうです。

また他にも秋田駅周辺プロジェクトを立ち上げることで地域活性化にも貢献しています。実際、この一連のプロジェクトによって秋田駅周辺の地価が15年ぶりに上昇しました。さらには他事業への波及効果が出ているなど報告があり、今後さらなる発展をしていくと思われます。

■野口彰久さん/東京急行電鉄株式会社鉄道事業本部
野口さんより、東急池上線戸越銀座駅木になるリニューアルプロジェクトについてお話頂きました。プロジェクトの舞台である池上線は五反田駅と蒲田駅を結ぶ路線で、開業90周年を迎え戸越銀座駅も88周年を迎えます。88年の歴史がある木造ホームが老朽化によって、改修を行うことになったのですが、その時沿線利用者の方々の声を拾っていくと、「古びているが、レトロな駅舎に愛着がある」「このような雰囲気を残してほしい」などの声があり、木の温もり、既存の形を活かしたリニューアルを行うことになりました。既存の駅舎より上下線ともに約10m拡張し、また昇降口はバリアフリー化を行い、そして駅舎自体は既存の駅舎の構造に被せる形にしました。その時使用される部品はすべて80㎏以下にしました。それは大規模な工事車両などが入らないため全て人力で運搬可能とするためだったそうです。

このプロジェクトの最も重要な点はリニューアル工事を、市民が自分事として捉えることが出来た事です。通常工事現場では、「ご迷惑をおかけします○○の○○を行っています」などの看板を掲げますが、このプロジェクトでは工事に「木になりリニューアル」と名称をつけることで工事と市民の共通言語を作ったことです。また戸越銀座駅自体を擬人化することでより市民が親しみを持つようになったのだそうです。他にも利用者の方の想いを「想いが身になる木」と題して壁に描かれている樹に、思いをこめた葉をつけていく企画も行われました。最後に林業とつながる企画として、沿線利用者方々を戸越銀座駅に木材を供給した林業の現場、土場、製材所へツアーを行ったそうです。これによってさらに沿線地域の方々がさらに愛着が湧くという、好循環が生まれました。戸越銀座駅、池上線はこれからも地域とともに歩んでいく、とのメッセージもありました。

■木村靖夫さん/医療法人社団中郷会新柏クリニック名誉理事長
個人的な熱意により医院の建て替えを木造にされた木村さんにお話をしていただきました。建て替えの経緯は、漠然とそろそろリニューアルの時期かと思い始めたことに始まります。1日に300人の患者が訪れる医院内は、ベッドが狭く向き合っており、患者間での病気の流行に不安があったために建て替えの意欲が高まったとのこと。建て替えにあたり、評判の施設の見学を行い、方向性が見えてきた一方で物足りない感が残り、このまま計画を進めていいのかを考えていたころに、木質系大規模建築の特集をテレビで観たことがきっかけで、木造という考えが生まれたそうです。「森林浴のできるクリニック」という目標を掲げて完成した医院は、開放的で木のぬくもりが感じられるものになりました。ベッドの間隔を広くとり、ベッドから屋外の緑がよく見えるような設計になっているそうです。移転前後で患者さんの1週間の気持ちを分析した結果、緊張・不安、抑うつ・落ち込みの数値が低下し、心がなごむ等の声が寄せられ、患者さんの満足度だけでなく、看護師の充足、患者さんの増加にまでつながったとのことでした。

■安達広幸さん/株式会社シェルター常務取締役
安達さんからは民間の高層・大規模施設への木材利用の効果と課題を、同社設計のGビル自由が丘01B館(2017 年度ウッドデザイ賞ソーシャルデザイン部門建築・空間分野受賞)の事例とともに報告いただきました。

Gビル自由が丘01B館は、2016年に竣工した自由が丘駅近くに位置する、地下2階地上3階建の商業建築。外からも中からも木の温かみを感じることのできる施設を目指し、地上階は全て木造としたことが特徴だそうです。また、貸店舗が入居しやすいよう、フロアを分割して借りることができる賃貸形態となっている点も特徴としてあげられていました。なお、耐火性については、柱梁にCOOL WOODという同社独自の木質耐火構造を採用しているそうです。

木造建築の効果について、同施設の従業員および利用客に実施したアンケート結果についても報告いただきました。従業員の声としては「木に囲まれている環境で働くことは気持ちいい。働く環境はこんなに大切なのだということに気づいた」「スタッフ全員が癒されている」といった声があり、木を感じる空間で働くことは従業員にも良い効果があることがわかったそうです。また、利用客からは「無機質な感じがせず、温かみがあり居心地が良い」「通りがかったとき外から見て気になった」「自由が丘の落ち着いた街並みに調和していて良い」等のコメントが寄せられたとお話くださいました。

このように、木造であることの効果は現れているものの、木材が鉄やコンクリートとともに一つの建材として一般化するには、木造建築のファイナンスを考えることが重要である、と安達氏は強調されていました。今回のGビル自由が丘01B館については、まずリーシング(Leasing)の方法として、収益の90%超を分配すれば法人税が免除されるJ-REIT(Japan Real Estate Investment Trust)という投資信託を採用し、多くの投資家に魅力的な商品として映る形態を採用したそうです。その上で、リース先をオフィスやレジデンス利用ではなく、商業目的に特化するという選択をされました。商業目的に特化した場合、訪問客の動向がわかりやすいため投資価値の高い物件か否かを判断しやすく、また、商業施設の契約期間は約20年と非常に長く、安定性の高い賃貸収入を見込むことが可能であることをその理由としてあげられていました。もう一つの観点として、「木造であること」自体が投資家にとって魅力的であることをご説明くださいました。その理由として、木造の商業施設は現段階では希少であること、そして、木造は環境への負荷が少なく持続可能な社会の実現に貢献できる唯一の建築素材であることをあげられていました。

このように、木造の民間・大規模施設は、リーシングの方法、そして「木造ゆえの付加価値」を組み合わせることで、感性の高い投資家や環境への配慮を重要視する投資家からの注目を集めることができ、持続的なファイナンスの実現可能性が高いということを報告いただきました。さらに、今後木材を民間・大規模施設用建材として一般化させるための設計者としての役割は、事例を集積し、施主様から見て何がメリットなのかということを積極的に発信していくことと強調されていました。そして、「お金の面からも木材はいい建材だね」と言われるようになること、最終的には木造建築が一般化することが同社の目標であると、わくわくするビジョンと共に語ってくださいました。

民間の木造大規模商業施設として様々な工夫を凝らされたこの度の紹介は、街中に木造建築が立ち並ぶ風景を鮮やかに示してくださったものと思います。
林野庁が国民運動として展開する「木づかい運動」では、木材、とりわけ国産材を利用することの意義を理解する人を増やし、木材利用を広げていくためにさまざまな取り組みが行われています。その一つとして、今年で4回目を迎えるウッドデザイン賞は、一般消費者に対して木の良さや価値を伝えることのできる製品や取り組みを表彰するものです。

今回の研究部会では、ウッドデザイン賞のこれまでの受賞作品の中から世の中から大きな反響を得ている事例の関係者を講師にお招きし、駅舎や病院など都市インフラでの木材利用の効果と課題をお伺いします。あわせて木づかい運動の今後の展開について林野庁木材利用課長からお話いただきます。

なお、林野庁では、10月を「木づかい推進月間」としています。木づかいの普及啓発に向けた各種イベントが各地で開催されています。イベント情報は林野庁ウェブでご確認ください。

※今回のフェアウッド研究部会から、会場と開催時間が変更となります。
ご注意ください。

●開催概要
日 時:2018年10月31日(水)16:30~20:00(開場:16:00)
場 所地球環境パートナーシッププラザ(〒150-0001東京都渋谷区神宮前5-53-70国連大学ビル1F、http://www.geoc.jp/access/、03-3407-8107)
会 費: 3,000円(懇親会費1,000円を含む。当日受付でいただきます)

プログラム(内容は予告なく変更することがあります)
第1部:講演「都市インフラでの木材利用の効果と課題~ウッドデザイン賞の事例から」
長野麻子氏/林野庁木材利用課長
安達広幸氏/株式会社シェルター常務取締役
野口彰久氏/東京急行電鉄株式会社鉄道事業本部工務部施設保全課
木村靖夫氏/医療法人社団中郷会新柏クリニック名誉理事長
永杉博正氏/東日本旅客鉄道株式会社事業創造本部大規模・地域開発部門地域開発グループ課長

第2部:懇親会



【お申込み】
お申し込みフォームにてお申し込みください。
フォーム記入ができない場合、「第31回フェアウッド研究部会参加希望」と件名に明記の上、1)お名前 2)ふりがな 3)ご所属(組織名及び部署名等)4)Eメールアドレスを、メールにてinfo@fairwood.jpまで送付ください。
※定員70名
後援:林野庁


【お問合せ】
  • 地球・人間環境フォーラム(担当:坂本)
    http://www.fairwood.jp、info@fairwood.jp、TEL:03-5825-9735
  • ワイス・ワイス(担当窓口/広報課 野村)
    http://www.wisewise.com、press@wisewise.com、TEL: 03-5467-7003

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