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3.紙調達基準におけるバージンパルプの持続可能性

地球・人間環境フォーラム 坂本 有希

昨年初めに発覚した古紙偽装問題を発端に、コピー用紙等のグリーン購入基準は、古紙100%だけでは対応できなくなり、持続可能なバージンパルプという考え方を取り入れざるを得なくなった。2月に国等が環境負荷の少ない物品等を購入する際の基準となるグリーン購入法(国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律)で、5月にエコマーク、GPN(グリーン購入ネットワーク)の二つの民間機関でコピー用紙の調達に関する基準が改定された。これらの基準において、持続可能なバージンパルプについてどのような考え方が示され、どのような確認方法を採用しているのか、見てみよう。

環境、社会の両面で求められる紙原料の持続可能性基準
2月に発表されたグリーン購入法の基本方針では、コピー用紙の原料として、従来どおり古紙を最優先で利用していく方向は示しつつ、古紙に加えて、森林認証材、間伐材、未利用材等のその他の環境に配慮した原料が利用できることになった。さらに、環境配慮の指標である白色度および坪量(紙の単位面積あたりの重量)を加えた総合評価指標が導入され、80ポイント(2009年度末までは経過措置として70ポイント)以上に達した製品がグリーン購入法に適合したコピー用紙となる仕組みが導入された。

この新基準では、古紙は最低70%配合されていなくてはならず、残りの30%が「持続可能性を目指した原料の調達方針に基づいて使用するパルプ」と位置づけられた森林認証材パルプ、間伐材パルプ、そして「その他の持続可能性を目指したパルプ」で構成されることになる。持続可能性を目指したパルプとは、「森林の有する多面的機能を維持し、森林を劣化させずに、森林面積を減少させないようにするなど森林資源を循環的・持続的に利用する観点から経営され、かつ、生物多様性の保全などの環境的優位性や労働者の健康安全への配慮などの社会的優位性の確保について配慮された森林から産出された木材に限って調達するとの方針に基づいて利用されるパルプ」と定義されている。

一方、エコマークの情報用紙基準では、原料については、?古紙パルプ配合率が100%であるか、?古紙パルプ配合率が70%以上、かつ他の材料は森林認証材パルプ、間伐材パルプまたは持続可能性を目指した原料調達に基づいて調達されたパルプであることが求められている。バージンパルプについては、グリーン購入法とほぼ同様の内容だが、その具体的な内容について環境的優位性4項目と社会的優位性4項目のあわせて8項目に踏み込んで規定している。

・保護価値の高い森林からの調達禁止
・植林地や他の土地利用に転換するために天然林が大規模に皆伐された木材の調達禁止
・安全性が確認されていない遺伝子組み換え樹木の調達禁止
・森林区域における水土保全機能への配慮
・土地の所有者・利用者の権利の尊重
・労働者の健康や安全への配慮
・重大な社会的な紛争がある地域からの調達禁止
・地域住民への配慮

これら8項目のうち3項目をクリアする調達方針を持ち、その方針に基づいた調達量が90%以上であることが求められている。

そしてGPNの「印刷・情報用紙購入ガイドライン」では、古紙パルプを多く使用していることとした上で、バージンパルプを使う場合、原料産出地(木材等伐採地)の法律・規則を守って生産されたものであること、再・未利用材または持続可能な森林等の管理に配慮して産出地の状況を確認の上、調達されている原料であることとしている。また、GPNガイドラインでは、紙原料への配慮の前提として、紙の無駄遣いをしないことという需要抑制を促している点も大きな特徴だ。

GPNガイドラインでもエコマークと同様に、「持続可能性」を環境面と社会面の二つに分けている。前者には保護価値の高い森林の保存、安全性未確認の遺伝子組み換え樹木の調達禁止、後者には労働者の健康や安全への配慮、重大な社会的な紛争がある地域からの調達禁止と規定されている。

なお、エコマークもGPNも、原料に関する基準以外にも、白色度や塗工量、塩素漂白、リサイクルのしやすい加工などについての規定をもっている。

このように規定された持続可能性の確認方法を見ると、グリーン購入法とエコマークでは、持続可能性に関する規定が調達方針に盛り込まれているかどうか、GPNでは、森林認証、第三者監査、文書・現地確認、調達方針等で確認するとしている。


今後も求められる買い手側からのアクション
紙を調達・購入する際にバージンパルプの持続可能性まで視野に入れて配慮することは、パルプ原料が生産される森林環境へのダメージを少しでも減らすことにつながる。

当フォーラムなど環境5団体は、「森林生態系に配慮した調達に関するNGO共同提言」を公表し、企業や行政機関を対して、紙(2004年10月)や木材製品(2006年2月)について調達方針およびアクションプランの作成・公表を求めてきた。今回紹介した三つの紙調達ガイドラインで議論・導入された持続可能性の基準には、共同提言で提案してきた保護価値の高い森林の保護、天然林の大規模な皆伐の禁止、利害関係者との対立や紛争が生じている地域からの調達禁止などの項目が取り入れられており、その点は一歩前進したといえる。また、三つのガイドラインとも策定の過程には、製紙業界や文房具・複写機メーカー、環境団体など紙調達の関係者が参加し、改めて森林保全と紙調達・購入との関わり・つながりを議論し、考える機会となったことも評価できるだろう。

しかし、その確認方法が調達方針に定められているかどうかというだけでは心もとない。調達方針の策定・実施は、組織内外に自らが調達・購入したいもの、調達したくないものを明らかにし、持続可能な原材料調達を進めていくための基礎となる手法ではあるが、調達方針が実際にどのように実施されているのか、情報公開やステークホルダーとの対話の状況を見なければ、原料の持続可能性を判断することは難しい。やはり、第三者が合法性や持続可能性を確認するという森林認証制度が、原料の持続可能性を確認する手法としては最も信頼が高いといえる。

これら三つの紙調達ガイドラインのバージンパルプにおける持続可能性基準設定の動きは始まったばかり。買い手側から森林生態系に配慮した調達を実現するためにどのような手段が有効なのか、調達方針や森林認証制度の活用以外の方法も含めて検討を重ねていく必要があるだろう。

日本で消費されるパルプ原料の8割弱(2006年)は海外由来で、紙として輸入されるものも年々増えている。例えば日本の紙原料の供給源である、オーストラリア・タスマニアやインドネシア・スマトラ島で起きている紙パルプ産業による森林保全への影響について現地NGO等の指摘は収まっていない。これらの課題はこれまで日本の買い手側の取り組みによって改善された部分もあるが、今後も引き続き日本側のアクションが求められる。

なお、GPNでは環境製品を検索できる「エコ商品ネット」(www.gpn-eco.net/)を公表している。GPNガイドラインだけではなく、エコマーク、グリーン購入法に適合した製品が検索できる。さらに、WWFジャパンは、紙製品等の環境社会影響を確認する具体的な方法として「森と人をつなげるチェックリスト」(www.gpn-eco.net/)を作成している。買い手自らが確認するツールとして活用できるので参考にしてほしい。

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