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ルーマニア その1

2018.5 掲載
2018.9 更新

ルーマニアは、EU内で最後と言われる広大な原生林を持つ国であり(ヨーロッパの原生林の約2/3)、ブナの原生林があるカルパチア山脈はユネスコ世界自然遺産に登録されている。森林面積は655万ヘクタール、国土の3割が森林である。森林の約半分は国有林となっているが、3割強は民間企業の所有である[1]。主な商業樹種としてオウシュウトウヒ(日本では「ホワイトウッド」として流通、以下同じ)やオウシュウアカマツ(「レッドウッド」)、広葉樹ではブナやオークがある。森林部門は重要な国の収入源であり、主に輸出を目的とした木材業界はGDP全体の3.5%を占めている(米国政府調査)[2]。違法伐採の指摘を受け政府は2015年、2016年と法改正を行っている。

政治的にはガバナンスや汚職の問題があり、汚職認識指数(CPI)ではスコアは48、181カ国中59位である。世界ガバナンス指標(WGI)では「政治的安定・暴力/テロの不在」、「汚職の制御」ともに、スコアは50代にとどまっている。CPIやWGIは違法伐採リスクの指標としても利用されており、以下にある通り、ルーマニアでは違法伐採は深刻な問題である。

ルーマニア政府は控えめに見積もって国内伐採のほぼ半分は違法だとしている。政府機関であるNational Forest Inventoryの現地調査を含む詳細な調査では、2008年から2014年の間に伐採された木材の49%にあたる880万m3が違法だと結論付けている[3]。違法伐採は一般市民を含め広く社会的に認識されている問題であり、国内メディアなどの監視は近年高まっている。

    [3]OUG nr. 32/2015 privind infiin∥rea G〉zilor forestiere [Emergency Ordinance 32/2015 on the establishment of forest guards]. (2015). Official Gazette no. 474/30.06.2015.15

木材調達リスクに関する報告書

ルーマニア最大の伐採会社であるHolzindustrie Schweighofer(シュバイクホファー)社についての詳細な調査をまとめた報告書。シュバイクホファー社は、オーストリアの林産企業であるが、2002年からルーマニアに進出。約10年でルーマニアの針葉樹の40%を加工するルーマニア最大手の林産企業となった。EIAは2年にわたって同社を調査しており、ルーマニアの違法伐採の最大の要因となっているのがシュバイクホファー社であると結論付けている。また報告書にはヨーロッパの大手バイオマス企業や有名DIY会社が同社から違法材を買っているとして名前が挙げられている。

この報告書では、過去10年間を遡り、様々な事例を徹底調査して同社が違法木材を受け取っていた事例を特定している。さらに、衛星画像の分析により、ルーマニアの森林が2000年から2011年の間に28万ヘクタール失われたとしており、森林の生物多様性や現地住民の暮らしに多大な影響を及ぼしたとまとめている。以下は、EIAの調査(覆面調査含む)によって明らかになったことの例である:
  • - シュバイクホファー社の幹部が違法木材を公然と受け入れ、違法材のサプライヤーに報酬を渡していた
  • - EIA調査員が既定量の2倍の木材を違法に伐採することを持ちかけると、同社のトップ調達担当者はそれを受け入れるとし、同社は契約書にある分量以上の木材を供給するサプライヤーに対し1m3あたり8ユーロの支払いをすると言っている(録音テープは2015年に公表)

報告書の第1部では、ルーマニアにおける違法伐採の事例や分析がまとめられている。7ページにある別欄には、ルーマニアにおける違法伐採のタイプとして以下の8種類がまとめられており、それぞれに、EIAの調査したルーマニアにおける実際の事例が併記されている。

  1. 過剰伐採
  2. 共産主義時代に国のものとなった土地返還にあたっての文書偽造など
  3. 衛生伐採の濫用
  4. 災害などによる倒木の除去などの整理伐採制度の濫用
  5. 法律で伐採時に求められる木につける「印」の欠如
  6. 輸送時の押印や文書の欠如
  7. 偽造文書
  8. 伐採地における違法な伐採行為(違法皆伐や生態系や淡水路を破壊する伐採)

第2部では、シュバイクホファー社の事業分析として、どこの製材所でどの樹種やどの製品が加工されているかなどがまとめられている。さらに、同社が実際にはオーストリア、ルーマニア、チェコ共和国、ブルガリア、ハンガリー、ウクライナやその他の国で登録された会社の集合体であり、表面上は別の存在となっているものの、所有や財政面で現実にはつながっていることが明らかにされている。第2部の後半部分には覆面調査で明らかにされた同社の体質や違法行為が詳細に記載されている。

第3部は、地図とともに12の事例が挙げられており、土地返却における権利の侵害や国立公園での違法伐採など、すべてがシュバイクホファー社に関連づけられている。

第4部はシュバイクホファー社のヨーロッパにおける買い手として、25の企業が購入金額順にリストアップされている。多くの企業が採用するPEFCのCoC認証ではルーマニアの木材のデューデリジェンスは実施できないことに注意が促されている。

第5部はルーマニアの政策について、特にSUMALと呼ばれる木材追跡システムの更新と、残念ながらこのシステムでは違法伐採を排除できないことが記述されている。

政府の対応

こうした報告などを受け、ルーマニアの環境・水・森林省は同社の製材所(2か所)と、全国に散らばっているそこに木材を納めるサプライヤーを調査した。結果、2014年から2015年の間に16万5,000立方メートルの違法材がこの二つの製材所に納められたと結論付けている。

シュバイクホファー社と森林認証

シュバイクホファー社は自社林がFSC認証を受けているとしていたが、実際にはその比率は2%以下であった。また同社はすべてのサプライヤーはPEFC認証を受けているとしたものの、EIAは、PEFCは合法性を「示唆する」文書を求めるにとどまり、不十分だとしている。(この報告書が出た後に、FSCは同社がFSCの方針に違反したとして認証を剥奪している。これについては後述のFSCの出している報告書を参照)

2015年の報告書『Stealing the Last Forest』にあるシュバイクホファー社のラミナ・集成材の半分近くが日本へ輸出されていることにフォーカスをあてた報告書。同社から木材を購入する日本大手商社の名前がリストアップされている。

報告書前半では2015年の報告書にあるシュバイクホファー社の違法行為や事例が挙げられており、その後、この報告書の発表後の展開が紹介されている。特筆すべきはWWF、WWFオーストリアがオーストリア森林庁に対し、シュバイクホファー社がEU木材法に違反した疑いがあるとして告訴している点である。さらに、FSCは2016年4月に調査を開始している(後述のFSCによる報告書参照)。対してシュバイクホファー社は様々な説明をしており、どれも批判を否定するものである。

シュバイクホファー社のウクライナからの輸入についても触れられており、2015年には同社が日本に輸出する製品全体の80%にものぼる木材の原料が、ウクライナからのオウシュウトウヒとオウシュウアカマツになっていたとしている。2015年2月にシュバイクホファー社は、日本向け住宅建設用のアカマツ集成柱を製造している製材所で新しい製品の製造開始を発表しているが、株式会社ラムセル(銘建工業株式会社の関連会社)と日本国内での販売の独占契約を結んだと発表。日本向けの集成材のほとんどがウクライナからのアカマツであると、EIAは推測している。またチェルノブイリ原発事故で被ばくしたアカマツ材がおそらく日本に来ているということも指摘している。ウクライナでは汚職が蔓延しており違法伐採も深刻である、リスクの高い国であり、デューデリジェンスを行わないシュバイクホファー社からの購入は危険であると本報告書は警鐘を鳴らしている。

以下が、報告書にリストアップされている、シュバイクホファー社から木材を購入している日本の大手企業である。阪和興業、住友林業、銘建工業、伊藤忠建材、双日建材、ジャパン建材、丸紅建材、ナイス、篠原商店、吉銘の10社が挙げられている。

表:シュバイクホファー社の日本顧客売上高上位10社一覧[4]

シュバイクホファー社の日本顧客売上高上位10社一覧

WWFドイツからのシュバイクホファー社がFSCの方針に違反しているとした苦情申し立てを受けて、FSCが同社の行為を評価した外部委員会「苦情調査パネル」の100ページ以上に及ぶ報告書。人権侵害、保護価値の高い森林の破壊、違法伐採・違法木材の取引に特に焦点をあて「組織とFSCの関係に関する指針(FSC PfA)」の遵守に照らして評価した。

委員会による調査の結果、最初の2点においては「明確で説得力のある証拠はない」としたものの違法木材に関してはそれがあったとしている。法令違反や土地返還制度の悪用、会計処理上や税上の違反に加え、同社のデューデリジェンスシステム(DDシステム)が不十分であるとはっきり指摘。シュバイクホファー社と支配株主のシュバイクホファー氏に関連するすべての企業と関係を断絶するよう、パネルはFSC役員会に勧告している。

ただしこの文書は最後に、関係断絶解消の条件として、同社がきちんとしたDDシステムを導入することを併記しており、これは一読の価値がある。

ルーマニアからの木材の合法性確認(DD)において留意すべき点

上記にある通り、ルーマニアから木材のほとんどが、シュバイクホファー社一社から来ていることを考慮すると、同社のその後の対応が大幅に改善していない限り、ルーマニア材は非常にリスクが高いとみなすしかない。政府自体が違法伐採の蔓延を認めている国でもあり、報告書の指摘にある通り、単にPEFC認証のみをデューデリジェンスの要とすることは非常に危険である。

また、同社が供給するウクライナ産の木材も、同様の理由で、ルーマニア産よりさらにリスクが高い(ウクライナはCPI30、181カ国中130位である)。フェアウッド・パートナーズが把握する限り、報告書中に名前の挙がっていた日本企業は継続してルーマニア材を購入していると考えられるが、その場合のデューデリジェンスシステムは強いものとは言えないだろう。EIAは近々ルーマニアに関して新しい報告書を発表する予定である。シュバイクホファー社の最新情報が記載されているものと期待される。




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