中国の森林(3)
中国の森林(3)
天然林保護事業
中国は 1998 年、「天然林保護工程(プロジェクト)」(略称:天保工程)を発表し、国内の天然林の伐採を厳しく制限しました。「天保工程」は中国の林業政策の大転換点となり、国内に残り少なくなった天然林の伐採にブレーキをかけることとなりました。
1998 年、中国国内では長江や松花江(東北地方の大河)などで非常に大きな洪水が発生し、 3,000 人余りが死亡、大きな経済的損失を被りました。それ以降、国務院(1)は国内の天然林資源の過度の消費とそれが引き起こした生態系の悪化に注目するようになり、「封山育林、退耕還林」政策が始まりました。「封山育林」は天然林への立ち入りを禁じます。そして「退耕還林」は表土が流出しやすい傾斜度 25 度以上の急傾斜地や砂漠化・アルカリ化・石漠化が深刻な地域で計画的、段階的に耕作を停止し、木を植える事業で、2002 年に本格的に開始されました。ともに森の保水力を高め、土の流出を抑えることが目的で、長江、黄河上流域の天然林の伐採を全面的に禁止、また東北地方でも部分的な伐採禁止に踏み切り、国内の水災害の徹底的な防止に着手したのです。
「天保工程」は 1998 年 9 月、四川省の一部地域をモデルケースに開始され、 2000 年は国務院で批准、正式に実施されました。実施範囲は長江、黄河上流域および東北、内モンゴル、新疆ウィグル自治区などの重点国有林区で、国内 17 の省に及びます。長江上流及び黄河上・中流域での禁伐によりこの地区での木材伐採は完全に停止され、東北その他の国有林区では伐採制限により木材の産出量は大幅に減少しました。このプロジェクトは 2010 年を期限とし、天然林資源の回復とその生物多様性の保護、天然林伐採による木材生産の人工林の経営・利用への逐次転換そして地域経済・社会の持続的な発展を目的としています。
しかしこの政策により引き続き木材供給の必要な林産品加工企業は、原料を求めて海外へ拠点を移しました。つまり 1998 年は中国が世界の林産品市場に本格的に参入し、その後世界規模で木材貿易を展開することになる象徴的な年と言えるでしょう。
野生動植物の保護
中国は野生動植物資源が豊富です。全国の脊椎動物は 6,481 種あり、世界全体の 10 %以上を占めます。また高等植物は 3 万種以上あり、マレーシア、ブラジルに次ぐ世界第 3 位です (2)。
希少な野生動植物を保護するために、「国家重点保護野生動物目録」および「国家重点保護野生植物目録」が公布され、野生動物 398 種、野生植物の 246 種および 8 類が国家一・二級の保護対象となり、重点的に保護されています。また中国政府は野生動植物の保護を重視し、全国 1,699 カ所に自然保護区を設置しています(2005年末現在)。総面積は 1 億 2000 万 ha に上り、国土陸地面積の 12.49%に相当します (3)。そのうち森林生態系タイプの自然保護区は 1060 カ所(面積 3000 万 7000 ha)あります。そして自然保護区の 26 カ所がユネスコの世界人・生物圏保護ネットワークに加入し、さらに 30 カ所が国際重要湿地リストに、11 カ所が世界自然遺産のリストに挙げられており、多くの自然保護区が世界の生物多様性保護の重点地区となっています (4)。
(2) 国家林業局, 「我が国の野生動植物の保護状況」
(3) 国家林業局, 「2005年中国林業概述」
(4) 国家林業局, 「中国林業基本状況」