木材DD国別リスク情報 - ルーマニア その2
2021.5.21 更新
木材調達リスクに関する報告書
- 環境調査エージェンシー(EIA)(2018)『Behind the Scenes: How Log Yards Hide the Destruction of Europe's Ancient Forests』(英語のみ)
関連ブログ記事(日本語):https://eia-global.org/blog-posts/PEFC-fig-leaf-for-stolen-timber-japanese
EIAによる最新の現地調査をまとめた報告書。前回の報告書から根本的には状況は変わっておらず、オーストリアの企業シュバイクホファー社による違法木材の買取が続いていることを報告。EIAは、他にも数社、同様の違法取引を行っている会社があるものの(クロノスパン社及びエガー社が報告書中には記載されている)、この10年でルーマニアの原生林の3分の2が失われたことについて、シュバイクホファー社が主要な原因であるとして引き続き批判している。さらに、ルーマニア政府は1年がかりで同社による違法伐採、脱税、組織的犯罪への関与について調査しており、2018年5月には同社の施設及びサプライヤーに対する立入捜査を行っている。ルーマニア政府は、同社により受けた国の損害は2,l500万ユーロ(約31億5,000万円)にのぼるとしている。
(* 筆者加筆)
シュバイクホファー社はすでにルーマニア国内の自社林を売却しているため、第三者である丸太集積所を通して木材を購入する(左図参照)。同社はルーマニア国内の丸太集積所の木材の半分を購入している。同社の主要なサプライヤーであるFransinul社はロドナ国立公園及びカリマニ国立公園近くにある4つの集積所に木材を販売している。前述の「フォレスト・インスペクター」のサイトにあるデータによれば、Fransinul社は二つの国立公園内で伐採を行っており、6,000m3の木材を搬出している。同社はすでにルーマニア政府による汚職捜査の対象となっており、捜査は現在も継続中である。また国立公園内での違法伐採に関しても2018年4月に捜査が始まっている。EIAは今回の調査でロドナとカリマニの2つの国立公園の現地調査にフォーカスしており、国立公園内から実際に木材が切り出されそれを隠すための工作がなされる場面も記録におさめている。
上図:報告書p6 より
その他の関連資料
- 動画:ルーマニアー暴力と汚職による森林破壊
『Romania- Rape of the Forest (vimeo.com)』
日本の木材市場とも関係の深いルーマニアの森林には、ヨーロッパに残された最後の原生林が含まれ、今もオオカミ、クマ、ヤマネコなどの貴重な生息地となっています。しかし2020年に作られた動画では、この貴重な森がそれを守るために働くレンジャーの殺害と暴力の現場になっていることを明らかにしています。森林マフィアと強力な多国籍企業により、危機にさらされている野生生物と森を守っていくために、輸入国としての責任ある調達が求められます。(アルジャジーラ作成,25分,2020年) - Earthsight(2018)『Complicit in Corruption: How Billion-Dollar Firms and Governments Are Failing Ukraine's Forests(汚職への加担:巨大企業と政府がウクライナの森を破壊する)』(英語)
- Cash Investigation(2017) 『Razzia sur le bois, les promesses en kit des géants du meuble intégrale(森の立ち入り捜査:大手総合家具メーカーの家具キットの約束)』(フランス語)
フランスのドキュメンタリー番組。ルーマニア(シュバイクホファー社)とインドネシア(APP社)に焦点を当てた国際的な木材セクターにおける違法行為などの問題を取り上げている。スタッフがPEFC認証の信頼性を試している。PEFC認証を申請した場所の多くは何の質問もなく郵便だけで認証取得を完結。これらの土地は養豚場や原子力発電所、空港、スーパーマーケットの駐車場、ナイトクラブを含む、ほとんど森林とはみなされないような場所であった。 - EIAホームページ(英語)
FSCによる関係断絶や政府の対応などの2016年までの年表が載っている - 毎日小学生新聞(2018年1月15日)「ルーマニア:偽マークつけ違法に伐採」
ルーマニアへ現地取材にいった記者の記事。伐採時に求められる木に付ける正式な印の偽造や、日本市場との関係を小学生向けにわかりやすくまとめている。 - 毎日新聞(2018年8月22日)「輸出量伸ばすも無秩序伐採に揺れる現場」
ルーマニア北部のウクライナとの国境付近にあるロドナ山脈国立公園での違法伐採の様子を現地取材した記事。ルーマニアで義務付けられている専門家による事前の伐採対象となる木につけられる、文字や数字を刻印したマークがついていないことを実際に確認。現地で見たのは単に赤いインクがつけられた切り株ばかりだった。記事ではルーマニア国内でも無秩序な伐採に長く批判がある。さらに、最大の輸出先である日本に向け、JASマークつきの製品など日本向け商品の製造に力を注いでおり、特に木造住宅の構造用集成材の輸出は急増している。また日本企業もルーマニアはいい材料を出していると評価している。日本企業は違法伐採の問題の指摘を受け現地調査を行ったとしているものの、実際には取引先の案内での現地調査であり、問題のない工場や現場のみの確認にとどまっているというNGOの指摘があるとしている。記事では、7月に日本とEUが署名した経済連携協定(EPA)の発効に伴ってさらに輸入が増える可能性も指摘されている。
ルーマニアからの木材の合法性確認(DD)において留意すべき点
EIAは2018年8月、日本市場に向けた特別ブリーフィング「東欧から日本への木材調達に新しい法的リスク」を出した。それには、過去10年間シュバイクホファーのルーマニアとウクライナにおける事業の最大の支援者であり続けたことで問題改善の必要性が感じられなくなっていることを指摘。阪和や住友林業など大手日本企業が輸入を続ける限り、これら地域における違法伐採はこの先も止むことはなく、必要な改革も起こらないだろうとしている。また、FSCやPEFCという認証制度がウクライナ、ルーマニア両国の違法伐採を阻止できなかったことからも認証制度のみではきちんとした合法木材テューデリジェンスはできないと強調。以下、EIAからの日本市場に向けた勧告である。
- 日本企業は、シュバイクホファー社が木材調達における物理的なトレーサビリティ制度を確立しトレーサビリティを完全に証明できるまでは、即座に同社社からの調達を止めるべきである。
- シュバイクホファーから木材を輸入する日本企業は自社の調達方針全般とその透明性を改善し、自らの調達方針への準拠をどう確認しているのかを、説明できなければならない。
- 日本政府は主要な日本の輸入企業の調達方針とその実施状況を分析し、それらの方針がクリーンウッド法のもと求められている合法木材のみの購入を確実にしているかどうかを、評価しなければならない。政府はその上でクリーンウッド法に準拠していない、伐採地の法令に違反して調達された木材を購入する企業に警告をすべきである。
- 日本政府は、日本の主要な輸入業者が自らの調達方針が法律で求められる基準を満たすかどうかを検討しやすくなるよう、クリーンウッド法の実施についての詳細なガイダンスを提供すべきである。