3.森林認証と小規模林家~森林保全の鍵握る担い手(前編)
(財)地球環境戦略研究機関(IGES)森林保全プロジェクト 研究員 ヘンリー・スケーブンス 氏
なぜ小規模林家に森林認証が必要か
森林認証は1990年代初めに導入されたばかりであるが、急速に普及し、現在、世界の1億7,600万ヘクタールの森林が様々な認証制度により認定されている。 森林認証に対する資金援助は増え、また、認証熱帯材の市場も堅調である。認証熱帯材の供給業者2社は、最近、需要が供給を上回っていると報告した。 一方、業界団体からの支持も拡大している。2005年6月にバンクーバーで開催された初の国際森林製紙サミットでは、国際森林製紙協議会のメンバーが森林認証について世界的に率先して取り組むよう呼びかけた。
そもそも森林認証は、開発途上国の熱帯林の保全を目的として生まれたものであるが、開発途上国よりも先進国の、また、熱帯林よりも温帯林の保全を促進しているのが現状である。 森林認証を受けた地域全体に占める開発途上国の割合は8%に過ぎず、また、熱帯及び亜熱帯広葉林が占める割合はわずか3%に過ぎない。
図1 アジア太平洋地域におけるFSC認証林の面積 出所 Certified-Forests.org掲載データ(2005年10月) (http://www.certified-forests.org/pp_slides/) |
また、コミュニティを基盤とした森林管理が、国内森林政策の中心的な要素となっている国々も多く、地域コミュニティが設立する小規模な林業事業会社も認証材を国際市場に供給する担い手として大きな可能性を持っている。しかしながら、地域コミュニティ所有の森林の認証率は現状ではわずか1%にとどまっている
持続可能な森林管理は、アジア太平洋地域の開発途上国における農村地域の人々の生活にとって不可欠である。現金収入の機会が非常に限られている人々にとって、持続”不可能”な頻度で森林伐採をせざるを得ない場合もあるだろうし、たった一度の収入のために、森林伐採を企業に許可する誘惑にかられるかもしれない。
しかしながら、このような短期的利益は、往々にして長期的な経済的保障を犠牲にするものである。こうしたことから、地方の小規模林家にとって、持続可能な収入源をもたらす森林認証は魅力的である。森林を維持し続ければ、木材製品や非木材森林産物(NTFPs)の供給を続けられるのである。
注 NTFPs: Non Timber Forest Products
パプアニューギニアにおけるケーススタディより パプアニューギニアでは国土の97%が、地域コミュニティによる共同利用システムの下で地域住民によって所有されており、地域コミュニティが小規模森林会社を設立・運営することができる。同国では、「エコ森林」の概念と融合した森林認証プログラムが外資による大規模な産業伐採に代わる林業として取り組まれている。 エコ森林とは、土地所有者(地域住民)が持続可能な管理計画に従い、所有林の伐採・加工をポータブル製材用ノコギリを使って行うプログラムである。地元及び国際的NGOは、森林保全や、地域住民が十分な現金収入を得るための有効な手段として、エコ森林を支援している。NGOは、このエコ森林の発展形として森林認証プログラムを導入することによって、森林管理基準がより明確になると同時に、地域住民の金銭的メリットがより大きくなるだろうとみている。 IGESでは、パプアニューギニアにおける認証プログラムの効果、導入しやすさ、持続可能性について研究を行っているが、この研究から、地域住民が認証基準に基づく森林管理を行い、海外の買い手が求める仕様に沿った木材生産を行う能力形成において、認証プログラムのサポート機関が貢献していることが明らかとなった。また、地域住民が自ら木材の伐採と加工を行うことにより、木材伐採会社から伐採使用料の支払を受け取る場合に比べて、最終販売価格に占めるマージン率を高く確保できることも確認された。 認証プログラムに参加する現地の人々は、国際市場の価格が安定し、森林を将来の世代によい状態のまま残せるので満足していると述べている。これに対し、伐採権に基づき森林伐採が行われている土地の所有者は、かなり弱い立場に立たされている。現金収入とインフラ整備で得られるものは、短命に終わりがちであり、地域社会が突然の現金流入に対応できず、社会的崩壊を招く恐れもある。その上、自分たちの生活を向上できる唯一の源泉である木材の多くを失ってしまう可能性があるのである。 |
次回は、小規模林家による森林認証取得を促進するための4つの手段について紹介したい。
(c) 2007 Institute for Global Environmental Strategies. この出版物の内容は執筆者の見解であり、IGESの見解を述べたものではありません。 |
> (財)地球環境戦略研究機関(IGES) http://www.iges.or.jp/
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