3.中国のグリーン政府木材調達の進展
ザ・ネイチャー・コンサーバシー(TNC)グリーン木材と持続可能な森林経営
プロジェクトマネージャー 陳 暁倩(チェン・シャオチェン)
プロジェクトマネージャー 陳 暁倩(チェン・シャオチェン)
世界、とくにインドネシアやブラジル、コンゴ流域地域、パプアニューギニア、ロシア、カンボジアなどの違法伐採とそれに関連する貿易は、深刻な社会的対立や暴力をもたらし、各国政府は何十億ドルもの税収を失い(年間50~100億米ドル)、さらに森林や生物多様性を保護する取り組みに多大な損害を与える要因となっている。
森林認証などの問題を解決するために利用できるさまざまな市場手段や木材の出所の加工・流通過程の管理を明確にするための民間セクターの取り組み以外に、政府の取り組みもまた市場活動を促進するために必要かつ重要な役割を担っている。
「政府木材調達政策」は、1990年代後半に有効な違法伐採対策として英国やデンマーク、オランダなどの欧州諸国だけでなく日本やニュージーランドなどの木材消費国政府によって導入されている。一般的に政府木材調達は、合法かつ持続可能な出所の林産品を購入することと定義される。「合法性」と「持続可能性」を測るための具体的な基準というのは国によって異なるが、多くの国では森林認証制度が採用されている。
合法性や持続可能性は政府調達のこれからの課題
1998年に国内全土で天然林の伐採が禁止されて以来、中国の近隣諸国からの木材製品の輸入は著しく増加している。中国は今や世界第2位の林産品の輸入国であり、世界最大の丸太および熱帯材の輸入国である。そしてここ数年、国内の政府機関は重要な林産品の消費者となっている。
中国の政府調達システムは20世紀後半に、改革・開放政策の実施に伴い、確立・発展した。「政府調達法」は2003年に施行された。2006年から始まった政府調達法の改訂作業は現在も続いている。林産品は政府調達全体のごく一部であり、この改訂の優先対象ではない。そして「グリーン」という概念は主に家具や床板、合板などの林産品に使われる接着剤や塗料からの汚染物質の排出削減を目的としている。
国家環境保護総局(SEPA)は財政部と合同で、環境ラベルを推進するための家具、床板、木質パネル産業に対して環境保護に関する業界基準を策定した。例えば家具や建具の場合、環境ラベルには・木材含有量が全重量の10%の場合、その木材はFSC認証を受けているものを除き保護されている天然林や希少樹種のものであってはならない・木質ボードは「環境ラベル製品に関する技術要件:人工木質のボード及び製品(HBC17-2003)」の関連する基準に従わなければならない――が要件として求められる
環境ラベルの技術的基準を採用することにより、これまでに家具企業24社、床板企業78社、木質パネル企業51社が政府調達における推奨サプライヤーとして「グリーン企業リスト」に掲載されている。しかし前述のように、中国での「グリーン」の概念は、英国やその他の国とは大きく異なる。中国は木材の合法性や持続可能性の立証よりも木材製品に使われる接着剤や塗料の毒性に関心がある。そのため、中国がサプライヤーに対し木材の出所の確認を求めるような拡大した概念を木材調達政策に導入するにはまだ時間がかかる。
中国における森林認証の取得数はここ数年急速に増えている。これまでのところ80万haの森林がFSCの森林認証を受け、約350社の企業がFSCのCOC認証を受けている。また、中国は2007年10月1日に国家森林認証スキームを発表した。しかし、森林認証は主にビジネスセクターに求められるものであり、国内の木材調達政策に含まれているわけではない。
NGOの取り組み
多くの国際環境NGOは、関連する政府機関や企業を含むステークホルダーとともに、積極的に違法伐採と関連する貿易に関する問題に取り組んできた。
ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)の「グリーン木材と持続可能な森林経営プロジェクト」は中国に輸入される疑わしい木材を削減し、合法で信頼できる国内の森林資源からの供給を増やすことを目的としている。熱帯林トラスト(TFT)は企業が木材の合法性を立証するための合法性証明システムとラベリングシステムを開発した。また、世界自然保護基金(WWF)とCFTN(中国森林と貿易ネットワーク)は中国におけるFSC認証を推進し、信頼できる木材の購入と取引を仲介する「CFTNネットワーク」を設立した。フォレスト・トレンドは中国の国際的な木材貿易に関する調査を行い、グリーンピース中国は違法な木材貿易の現状を突き止めるいくつかのレポートを発表している。トラフィックは中国における木材の合法基準を策定し、税関に対し研修資料を提供している。
NGOはこれまで政府調達分野ではあまり活動をしていない。北京林業大学による二つの研究が行われているだけだ。これは2007年にTNCの助成を受けた「中国林産品に関するグリーン政府調達政策の採用に関するコストベネフィット分析」と「中国と先進国との間の林産品に関する政府調達政策に関する比較調査」である。
政府木材調達政策をさらに推進するには
「グリーン」に関する異なる理解や、異なる制度、中国国内の現在の特殊事情を考えれば、木材の合法性に関する要件を具体化する政府木材調達を採用するまでのプロセスで、検討すべきことは以下のような点である。
(1) 政府木材の調達に関する概念の総合的な理解 中国にとって環境に配慮した政府木材調達というのはまだ非常に新しい概念であり、「グリーン」に関する理解は中国とその他の国とではまだ大きく隔たりがある。急速な経済発展に伴い、国内の木材需要はとくに大径木を中心に増えると考えられ、今後15年間は海外の森林資源に部分的に依存しなければならない。政府木材調達政策の採用により、中国は合法な木材を国際貿易に供給し、木材の安定供給を維持し、民間企業が責任ある木材調達活動を行うよう影響力を持つことができる。 (2) 制度面および職員の能力の向上 海外での経験に基づき、政府木材調達政策の実施は、適切な制度と経験豊富なスタッフによって進められなければならない。これまでのところ、SEPAと財政部は自動車や電気機器などに比べ木材調達については優先度が低く、木材の合法性に関する問題にほとんど取り組んでいない。この点で適切な制度や経験豊かなスタッフが不足している。 (3)段階的アプローチの採用 中国にとってこの政策を採用するのに段階的アプローチは重要である。なぜなら英国のような経験豊富な国でさえ、政府木材調達政策については改善途中だからである。木材の合法性が政府木材調達政策に組み込まれるようになるまでにはまだまだ多くの研究とステークホルダー間の交渉が必要である。さまざまな政策決定者の間でこのテーマについて関心や理解を深め、そして試行錯誤を重ね学んでいく必要がある。 (財)地球・人間環境フォーラム発行『グローバルネット』2008年3月号(208号)より転載 http://www.gef.or.jp/activity/publication/globalnet/index.htm |
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