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インドネシア その2

2020.11 掲載

木材調達リスクに関する報告書

「その1」に続いて、「木材調達リスクに関する報告書」として以下3つのレポートを紹介し、フェアウッドからのアドバイスを示します。

SVLK(Sistem Verifikasi Legalitas Kayu、インドネシアの木材合法性保証システム、詳細は「その1」を参照)の独立監査をしている民間団体であるJPIKの報告書。2018年、2019年ともに非常に詳細な報告書を出している。民間団体による現場モニタリングと報告は、SVLK、VPA(EUとの二国間協定)の両方が奨励する制度であり、JPIKの報告はVPA実施を委託されているヨーロッパ森林機関(EFI)にもウェブサイトで紹介されている。

JPIKは、2014年から2019年12月までの間にSVLK認証(合法性または持続可能性)を保有する54社以上をモニタリング。さらに違法伐採やその他の規制違反をモニタリング報告、公的記録のレビューも行っている。

JPIKは、以下の分野で問題があると指摘している。

  1. 伐採に関する違法性(登録済みの木材貯蔵場を使った、伐採区ではない場所での伐採のロンダリング)
  2. 企業による意図的な虚偽の報告
    1. 輸送関連の文書に樹種を虚偽報告
    2. 認証を取得していない事業者へのSVLKの「貸出」
    3. 虚偽の文書:輸送、貯蔵、輸出
  3. 河川バファーゾーンでの森林伐採
  4. 先住民コミュニティとの境界線衝突
  5. 環境影響評価の有無

下図:JPIK報告書にある認証の不正使用の事例[1]



JPIKは上記の問題点について独立機関へ報告をしており、その後、調査や通告文書などが行われている。このプロセスはEUとのVPAにより強化されたものであるが、JPIKは更にモニタリングや取締において、罰則を含む改善が必要だとしている。また政府にもっと情報を公開するように要請している[2]

また、違反者がスラバヤとマカッサルで起訴されているが、罰則が違反の深刻さに見合わないという批判もある。インドネシアの汚職捜査機関である汚職撲滅委員会(KPK)と市民団体との協力体制を強化する必要性が指摘されている[3]

インドネシアにおける違法な土地開発などの問題を指摘するNGOである RANの報告書。報告書では合法性の人権リスクについてまとめている。インドネシアの森林コミュニティは約3万人、大部分は生計を森林に依存している。多くは先住民族であり、土地・資源に対する権利は国 際人権法およびインドネシア憲法で保護されている。しかし、政府の汚職のために人権侵害が行われており、SVLK は人権に関する合法性の保証ができていないと報告書は指摘している。

地域コミュニティの法的権利には以下が含まれるとされ、各権利を保護する法令にはインドネシアの1999年林業基本法も挙げられている。ただし、実施についてはうまく機能していないと報告書は指摘している。保護されるべき権利には、以下が含まれている。

  • 地域コミュニティが依存している資源に関する決定事項について協議し、参加する権利
  • 資源へのアクセスを失った場合に補償を受ける権利
  • 村の土地や地域の重要な場所を操業区域から除外してもらう権利
  • コミュニティが自分たちの土地だと主張している場所で林業事業が行われる場合、企業から利益分配および開発支援を受ける権利

SVLKの制度上の問題と人権リスク

報告書は、SVLKには多くの抜け穴が存在し、人権についての合法性を保証できないとしている。指摘されている抜け穴は、以下である。

  • 合法性の確認基準には、コミュニティの権利に関する確認項目がない
  • 持続可能性基準にはコミュニティの権利に関 する確認項目を含むが、軽視される
  • さらに、各項目について全体的に低い評価でも企業は 認証を取得できる
  • 合法性基準と持続可能性基準は、現地調査ではなく文書ベースでの監査
  • 評価ガイドラインが曖昧で監査者の裁量が大きい
  • 有効な監視が存在しない

SVLKの実施・取締上の問題

報告書は、インドネシアの脆弱な司法制度および広範囲にわたる汚職によってSVLKの認証取消機能が働いていないとしている。以下が、問題点である。

  • 汚職が発覚した場合には認証は取り消される
  • ただし操業許可の取消により法令遵守の不履行が林業省や裁判所により無力化される
  • また認証の無 効は企業全体に関して汚職が発覚した場合のみで個人の汚職は対象ではない

同じくRAN の報告書。東京オリンピック会場に使われた木材を供給するインドネシアの企業コリンド社の問題についてまとめたもの。

2018年5月、コリンド社製の熱帯材合板が東京五輪大会に使用予定だった有明アリ ーナの建設現場で使用されていることがNGOの調査で判明。報告書では、同社の木材は生物多様性損失や人権のリスクが高いため持続可能性を保証できないうえ、違法材の可能性もあるとしている。以下、要点である。

コリンド社について

  • コリンド社はインドネシアの民間複合企業
  • だけでなく、パーム油、パルプ、製紙など様々なセクターで事業を展開
  • そのすべてのセクターと、さらに独立系サプライヤーからも木材を調達
  • 保有地は
    • 52万 5千ヘクタールの伐採事業許可地域
    • 16万ヘクタールのパーム油事業 許可地域
    • 王子製紙と提携した11万ヘクタール の製紙原料用植林向け事業許可地

日本への合板輸出

  • 3つの合板工場を保有し、以下2つは日本へ合板を輸出している:
    • バリクパパン・フォレスト・ インダストリーズ社(PT Balikpapan Forest Industries)
    • コリンド・ア リアビマ・サリ社(PT Korindo Ariabima Sari)
    *ただし後者は、2018年10月末に閉鎖したとされている。

図:コリンド社の合板工場のサプライチェーン[4]


表:日本へのコリンド社の合板輸出[5]


生物多様性リスク

オランウータンの生息地の伐採から来る木材が、コリンド社のサプライヤーを通して日本に輸入されている可能性があるとしている。報告書に指摘のあるサプライヤーは、コリンド社の合板工場バリクパパン・フォレスト・インダストリーズ社(PT Balikpapan Forest Industries)に木材を供給する、ツナス・アラム・ヌサンタラ社 (PT Tunas Alam Nusantara、「TAN社」)である。

  • ボルネオ島のTAN社の事業許可地域内の森林の大半がオランウータンの生息地
  • そこからの転換材をコリンド社の合板工場に供給→ 日本へ
    • 2016-2017年にバリクパパン・フォレスト・インダストリーズ社に合板を供給
    • 2017年に住友林業はバリクパパン・フォレスト・インダストリーズ社からの合板を東京五輪会場建設のために供給

人権リスク

北マルク州ガーネ(Gane)のゲロラ・マンディリ・メンバングン社 (PT GMM、 以下GMM社) の管理するコリンド社の事業許可地に関して、複数の地域コミュニティが訴えを起こしている。

  • 訴えは、コリンド社はインドネ シアの法律で必要となる全ての適切な許可やライセンス手続きに従っていないとしている
  • 2016年、ここからの木材が日本に合 板を輸出した二つの合板工場で原材料として使われていた。

その他環境リスク

ガーネにおけるコリンド社の火の違法使用とそれに伴う森林火災についても報告書は指摘している。

金融セクター

報告書は、金融セクターの関与とリスク管理の欠如についても指摘しており、日本の大和証券、SMBCグループ、みずほ フィナンシャルグループ、野村ホールディングスの名前を挙げている。

有明アリーナの木材について

  • 木材は持続可能認証を取得しておらず違法材である可能性も高い
  • 供給業者は住友林業(合法木材のみを供給していると述べている)

新型コロナウイルスの影響:SVLK ライセンスの一時撤廃とその撤回

2020年2月に新型コロナウイルスによる木材業界の活性化を図るとしてライセンスの一時撤廃を行いEUや環境団体などから批判が集中した[6]。結果としてこの一時措置は5月には林業省により無効とされた[7]

フェアウッドからのアドバイス

インドネシアはEUとの二国間協定(VPA)に基づく合法ライセンス材を供給できる唯一の国であり、また以前と比較して状況が改善されていることには間違いない。一方で、まだまだSVLKの実施については課題も多く、インドネシアから出てくるSVLK認証材がすべて合法性や持続可能性を満たしているという保証にはなりきれていないとフェアウッドは考えている。従って、木材の出てくる地域やサプライチェーン、サプライヤーによっては、入念なデューディリジェンスが必要なケースがあることは、留意されたい。


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