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2.FSC認証材を通して環境経営挑戦中-ある木材業者の取り組み

(株)中村製材所 代表取締役 中村 展章氏

日本の森林にも建築・家具材として人気のあるミズナラ・真樺・ケヤキ・楓・ブナ・シオジ・栃・楡・栗といった広葉樹が存在します。しかし、近年質のよい用材の数量が減り入手困難になりつつあり、現在国内で使用されている多くの広葉樹が、価格と質と数量の安定した輸入材です。また、広葉樹を使用した建築材や家具も製品となって輸入されています。では、それらの広葉樹はどこから来ているのでしょうか?木材調達の実務に携わっていると、アメリカやヨーロッパの一部の産地を除いて持続可能な森林から生産された木材と証明できる広葉樹が少ないことに驚かされます。そこで、南半球のニュージーランドにあるFSC森林認証を受けた広葉樹の森林で生産されているシルバービーチに着目しました。

マオリ族の管理するシルバービーチ
▲広大なニュージーランドのシルバービーチの森
ニュージーランドは、数々の映画の舞台となった美しい自然がある島国です。世界遺産に登録されているサウス・ウエストランドやトンガリロ国立公園だけでなく、国土の3分の1が国立公園や保護区となっていて自然への影響を考慮して厳しく管理されています。ニュージーランドには、キウイを始め世界中でニュージーランドでしか見られない鳥類や爬虫類が数多く生息しています。植物もニュージーランドや南半球に固有なものが多く、巨大なシダやアガチス・リミュなどの巨木が森の中で目立ちます。

その様な環境下、シルバービーチの森の伐採権者は、ニュージーランドの先住民族であるマオリ族です。もともとマオリ族は、現在フィヨルド国立公園になっている原生林を所有していましたが、その森林の国立公園化に伴い、政府からその国立公園にほど近い天然生林において、持続可能な方法で木材を生産することを認められました。

厳しい環境政策をとるニュージーランドでは、現在持続可能な方法で生産された木材以外の原生種の木材輸出は認められていないものの、このFSC認証林であるシルバービーチの森から生産された木材は正式に輸出することができます。世界中では原生林が伐採され、素性の分からない木材が多く流通し、先住民族の権利が脅かされている中、ニュージーランド政府とシルバービーチの伐採権者であるマオリ族との間で結ばれた契約は、画期的なものでした。

南半球育ちのシルバービーチ
▲周りの自然を壊さないよう切られたシルバービーチの切り株
シルバービーチは、ビーチと呼ばれていますがビーチ(ブナ)の仲間ではなく、南半球固有の広葉樹の仲間です。成長すると30mにもなるこの木に、小さく丸いかわいらしい葉がたくさんついている姿が特徴的です。ニュージーランドの低地にはシルバービーチが優先種である森林があります。シルバービーチ以外にも、リミュなど他の固有の樹木が点在し、シダや宿木など樹木の間で育つ多くの植物が茂り、貴重な鳥類や爬虫類が生活する多種多様な生態系が成り立っています。

FSC森林認証を受けたシルバービーチの森は、もともとニュージーランドに自生する木が育つ天然生林(二次林)です。シルバービーチの森には、日本で見慣れた人工林とは全く違った風景が広がります。シルバービーチ以外の木や低木やシダが生い茂って、多くの動植物を見ることができます。日本で天然林と呼ばれる森林のほとんどは原生林ではなく、人の手の入ったことのある天然生林(二次林)が多く、このシルバービーチの森林も私達日本人が思い描く天然林のような森林です。

シルバービーチの森では、FSCの10の原則と56の基準の厳しいルールに基づき、徹底した森林管理が行われています。その伐採方法も人工林の場合とは大きく異なります。まず、GPSを使って地形や水の流れを把握し、エリア毎に樹種や直径・数量等が把握されます。動物の移動や水辺の確保など自然に配慮して場所を決定し、種をつける木が枯渇しないよう持続可能に生産していくために直径ごとに決められた数量を伐採しています。一度に伐採される本数は1本から10数本で、新しい木が育つために太陽の光が地面に届くように考慮して本数が決められます。シルバービーチはもともとこの森林の優勢種であるため、太陽の光が地面に届くことによって新たな若木が育っていきます。

現在流通しているFSC認証木材は、植林された針葉樹が多いため、シルバービーチのような天然生林(天然林)から生産される広葉樹は貴重な存在です。これから環境へ配慮した材料選びをしていく際に、広葉樹で美しい木目を持つシルバービーチはとても魅力的な材種の選択肢の一つといえるかと思います。

製品化までの長い道のり-業者自らのFSC認証制度のプロモーション
では、その貴重で魅力的なシルバービーチ材を用材として認知してもらえるか?以前よりFSC認証木材を通して親交があり、認証取得業者でもありますジャパン・モールディングの中野社長と私の2名にて国内業者の方々へ紹介をはじめました。意気揚々と営業活動をはじめましたが、FSC認証制度自体がまだまだメジャーではなかったため、先ず最初に訪問先担当者の方へ冊子や説明を通してFSC認証制度を理解して頂くことから始める必要がありました。その会社の上層部へ話が届くころには色があせてしまい、私たちが望んでいる回答を頂く事はそうあるものではありませんでした。少しずつではありますが環境に配慮した商品が認識されていても商品開発に採用して頂けるまでには、長い道のりを覚悟しなければなりませんでした。

折りしも業界も原油高騰に翻弄され、他国の原木関税率アップや途上国の台頭により素材の確保に不安定な状況を余儀なくされていました。地道な営業活動の中、平成20年7月に仕事を通して親交がありました東亜林業(株)の松本社長とお会いする機会があり、これまでの苦い思いも含めFSC認証シルバービーチを紹介しました。松本社長は、FSC認証制度とシルバービーチの背景について一心不乱に力説する私の話に真剣に耳を傾け、最後には「木材の特性を調べ、商品に向く開発を検討してみましょう」との約束をしてくれたのでした。

ついにFSC認証シルバービーチが、東亜林業さん独自の3次元曲木技術とのコラボレーションが実現しました。その後、契約デザイナー白岡氏によるデザインや特徴を活かした塗色により第1号の商品が4ヶ月の時を経て展示会にて発表されました。

その優美な造形の裏には、短い開発期間ながら、随所に携わった社内外の方々の苦労がみられ、シルバービーチを用材として使いこなしてくれたことに感服しました。後になって展示会において「FSC認証材を使用した商品がよい評価が得られました」との連絡をもらった時は安堵しました。

遅くなりましたが、ここで手短にFSC認証を説明しますと、 「FSC認証は、森の管理者、製品の生産者、そして消費者がFSC認証マークの付いた商品を通してつながることのできる仕組みです。FSC認証の輪を広げることで、世界の森を健全に保つことに多くの消費者が自然に参加できるようになります」といったものです。

都市部でも第2の森林つくりを!
昨年の後半から世界的な金融危機により業界内でも波紋を及ぼし始めました。今年もその影響により国内製造業も岐路に立たされていてモノづくりの転換期です。政府は金融危機を緊急課題として対応している様子ですが、長期的には「社会・経済・環境」三方のバランスが取れた構造が創造されるように「まず隗よりはじめよ」の教えを実行し、低炭素社会へ向けたライフスタイルに対応した商品やサービスが様々な方面で協調し活発に動き出しいくことにより再生可能な循環型産業社会を次世代へ継承できるかと思います。

木材は人間が手を加える事により資源循環が行える希少な資源です。また木製品は、それ自体が炭素を固定しますので「第2の森林」としての機能もあります。是非、都市部でも木製品を通して「第2の森林」を育ててみて下さい。

現在、木材を原料・材料とする商品が多くあります。その全てをFSC認証材でまかなう事は、数量的にも不可能です。まずはできる商品から一歩踏み出していくことが大切です。

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