クリーンウッド法見直し、判断基準の明確化とDDレベルの向上が必須~ルーマニアから輸入される木材製品に対するDD実態アンケート調査結果を公表
4月1日、フェアウッド・パートナーズは、ルーマニアからの木材調達におけるデューデリジェンス(DD)の実態に関するアンケート結果を公表しました。木材の伐採及び流通加工段階での違法リスクが高いとされているルーマニアから木材製品を輸入するにあたって、日本の大手商社が実施しているDDは、違法リスクを排除するのに十分とは言えないことが明らかになりました。ルーマニアからの木材輸入は今回のアンケート対象企業を含めた一部の限られた大手商社が行っているため、同国から日本に輸入される木材のリスクを下げるにはこれらの商社のDDのレベル向上が必須になります。
また、同時期に登録木材関連事業者を対象に実施した合法性確認の実態に関するアンケート結果からは、調達している木材のリスクにかかわらず合法性証明書類等を入手すれば合法性確認は十分と認識している、いわゆる「リスクという考え方」を採用していない事業者が多く、日本の木材関連事業者による合法性確認が低いレベルにとどまっていることも明らかになっています。
2つのアンケート結果から、2017年から施行されているクリーンウッド法の課題が改めて浮き彫りになりました。事業者の実施する合法性確認と呼ばれるDDの判断基準に対して、政府から最低レベルを規定するなど参考となる指針やDDの詳細な実施方法、そしてリスク情報などが具体的に提供されておらず、すべてが事業者の判断に委ねられているのが現状です。
日本の木材市場から違法リスクの高いものを排除していくという目的をクリーンウッド法が果たしていくためには、木材関連事業者によるDDの実施、およびその実施内容の質・レベルの向上が不可欠です。2022年に予定されている同法の見直しにおいては、リスクという考え方を取り入れたうえで、情報へのアクセス、リスク評価、リスク緩和措置に関する詳細なDD実施方法や実施のために必要なリスク情報を示すことを、フェアウッド・パートナーズでは関係政府機関に働きかけていきます。
一方、ルーマニア材への商社による対応においては、クリーンウッド法主務省令で規定されているDDの基準を幅広に解釈し、自社で独自に設定した持続可能性の要素を加味して木材調達を実践している事例も見られました。本来、望ましいレベルのDDでは、自社の木材調達におけるリスクの判断基準やその実施手法、根拠となる情報などを明らかにしたうえで「低リスクであると確信できるレベル」を自ら決めることが求められます。そして、このレベルは対外的に適切な説明責任を果たすことのできるレベルと、フェアウッド・パートナーズでは考えています。
ルーマニアからの木材調達におけるDD実態アンケート
日本に輸入されている集成材の約2割[1]を占めるルーマニアには、欧州内に残る最後の原生林が広がっています。しかし、同国については政治的なガナバンスや汚職の問題が指摘されており、ルーマニア政府の発表でも国内伐採のほぼ半分が違法だとされています。複数のNGOによる調査報告も発表されており、DD実施に欠かせないトレーサビリティの担保には大きな課題があることが指摘されています。ルーマニアから日本に輸入されているホワイトウッドやレッドウッドと呼ばれる木材製品は、住宅向けの柱・梁などに使われる構造用集成材です。
今回のアンケート調査は、ルーマニア材製品を輸入する日本企業による木材調達における取組内容や進捗状況を把握することを目的に、ルーマニアの製材業最大手のHSティンバー社の日本側取引先の上位10社に対し調査票を送付、6社からの回答を得ました[2]。
アンケート回答からは、ルーマニア材調達におけるリスクへの対応において各社がそれぞれ異なる判断基準によって行っていることがわかりました。自社木材調達方針に沿ったDDのプロセスを回答したのは1社のみ、そのほかの事業者は違法リスクがないことを客観的に外部に示すための方針やDDシステムが欠落している状況であるといえます。また、CoC(加工・流通過程の管理)認証がつながった製品はなく、森林認証制度として信頼性に欠けると言われるPEFC管理材の製品が主であることも明らかになりました。
この結果を受けて、ルーマニア材のリスクを排除するための今後の課題として、①伐採地の森林経営情報へのアクセス、②森林認証の信頼性の評価、③違法性が十分低くないと判断された場合のサプライヤーとの対話の期限(低減措置の効果検証)の3点について、商社による自社の木材調達DDについての説明責任が果たられるようになるべく、フェアウッド・パートナーズは働きかけを行っていきます。
第3回クリーンウッド法に基づく木材調達にあたっての合法性確認の実態アンケート
フェアウッド・パートナーズでは、「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)」の効果を最大限に高めるためには、第一種事業者によるDD実施状況が重要であるという認識のもと、その実態を把握するためアンケート調査を2019年から行っています。
3回目となる今回は新たにリスクに関する設問を設けたところ、そもそもリスクという概念を採用していない事業者が全体の4割を占め、リスク情報の把握やリスクの高低の判断に不可欠である、伐採地の把握については、全体の4分の1の回答事業者しか採用していないことが明らかになりました。さらに、調達している材にかかわらず、合法性証明書類等の入手で十分と認識している事業者が全体の過半数を占めていると集計できました。
2つのアンケートの詳しい内容は以下を参照ください。
本リリースについての問い合わせは;
坂本有希(フェアウッド・パートナーズ/地球・人間環境フォーラム)contact_fw(a)gef.or.jp((a)を@に変える)、080-4402-5493まで。
[1] 2020年に日本が輸入している集成材の相手国別の集計(財務省貿易統計より以下の関税コードで抽出:441891291 441899231 441899232 441899239)したところ、1位がフィンランド(輸入金額で41.0%、輸入量で40.5%)、2位がルーマニア(輸入金額で20.3%、輸入量で20.6%となっている。
[2] 送付先企業及び回答企業(企業名に〇)は以下のとおり(五十音順):〇伊藤忠建材(株)、伊藤忠商事(株)、SMB建材(株)、住友林業(株)、〇ジャパン建材(株)、〇双日(株)、〇双日建材(株)、ナイス株式会社、〇阪和工業(株)、〇銘建工業(株)。なお、送付対象のうち伊藤忠商事(株)はアンケート実施時点では対象木材製品の取り扱いがないとのことで伊藤忠建材のみが回答。双日及び双日建材は両者合同で回答しているので回答件数は5件となる。送付先企業上位10社は、EIA(2016)「Built on Lies: New Homes in Japan Destry Old Forests in Europe(偽上の住宅~日本の新築住宅の犠牲になる欧州の原生林)」に掲載されている。
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