第17回「木の価値を高める ~「林家」の山づくりを可能に~」(2017.5.24)
2017.05.25更新
「林業の成長産業化」が政策課題となり、国産材利用を増やすための取り組みに力が入れられています。木材自給率も上昇基調に転じました。しかし需要が増えているのは安価な木材ばかりで、山元の林家(森林所有者)には大した収益はもたらされていません。林業を元気にするためには何が必要なのか。全国の林業現場と山村で取材を続けている林材ライターの赤堀楠雄さんに、川上~川下の取材を通じて感じていることをお話しいただきます。
開催報告
(報告:三柴淳一/フェアウッド・パートナーズ、FoE Japan)
今回は、国内の林業事情にお詳しい林材ライターの赤堀楠雄さんを講師にお迎えし、『木の価値を高める ~「林家」の山づくりを可能に~』とのタイトルでお話いただきました。 赤堀さんは林業・木材産業の専門紙勤務を経て1999年よりフリーライターとしての活躍されています。著書も多く、全国の山村・林業地における森と木と人との関わりを中心に取材されています。
今晩のお話の中心は「林家」。一般に農家はなじみがありますが「林家」にはあまりなじみがないですね、との切り出しから、現在、「林家」のおかれている状況をお話いただきました。昭和63年、ちょうど赤堀さんが林業専門紙勤務をはじめられた頃、スギの並の品質の丸太の価格は2万~2.5万円/m3だったそうです。今では8千~1万円/m3となっているので、当時は「林業が儲かる」というよき時代だったわけですが、赤堀さんは、その頃を経験している多くの「林家」さんに見られる傾向に、経費やコストといった感覚が乏しい、と感じているそうです。いわゆるどんぶり勘定のところがあり、適切な会計処理に基づく黒字経営には至っていない、ということのようです。逆にその感覚抜きで(もしくはその感覚が麻痺してしまうくらい)莫大な富を得ることのできた時代だった、と解釈することもできそうです。
次に、近年ようやく「利用」の視点から「国産材」に注目が集るようになってきている現状に触れ、その需要の多くはバイオマス発電、合板、集成材などで、いわゆる安い木材のみが使われている現状をお話いただきました。加工度が高くなるにつれて、製造コストもかかるため、その分、原料の丸太価格は安く抑えられてしまい、「林家」に利益が還元されないことを指摘。"丸太生産量増大"、"国産スギ、ヒノキの利用市場拡大"といった政策や取組みのみでは、丸太価格向上=林家への利益還元向上にはつながらない悩ましい現状を説明いただきました。
他方、興味を引いたのは"丸太生産量増大"の一翼を担っている一部の森林組合や素材生産業では、今のところ経営が成り立っているということ。自身の経営経費を正確に計上し、必要な収入を得るために丸太生産を行っているそうです。丸太価格が安くても生産量増大により採算を合わせることができるということになります。しかしながら、そこには「林家」への還元が計上されておらず「林家」は疲弊する一方、という側面もあるそうです。また現状は「生産コスト」にのみ着目して「生産一辺倒」で語られているところがあり、再植林、下刈り、間伐、枝打ち等々の育林コストを適切に考慮した場合、現在の安い丸太価格でいつまでも経営が成り立つのかも極めて不透明、とのことでした。
さらには近年、専業の林家さんが「伐らねば食べられない」現状に直面しており、丸太価格が安いにもかかわらず生産量を増加させている事例を挙げ、林家経営、ひいては日本の山林経営の将来にも懸念を示されました。
赤堀さんは最後には、「製材品が高く売れる、そうした市場が今必要だ」と強調されました。低質材のみを必要とする加工度の高い製品産業との差別化をし、良質な丸太から製造されるムク製材を適正価格で取引される市場が確立されることが、一番「林家」への利益還元につながり、育林事業強化、ひいては日本の森林・林産業の将来につながっていくものと期待をしているようです。
本研究部会、回を重ねるごとに少しずつ"森林・林業・木材等に熱い人"の輪も拡がってきています。今後、この輪を活かしてフェアウッドパートナーズでもそうした「高品質の製材品市場」の創出にむけて何か取組んでいければ、と感じた夜でした。
開催案内
【開催概要】
日 時:2017年5月24日(水)18:30~21:30(開場:18:00)
場 所: 株式会社ワイス・ワイス(〒150-0001東京都渋谷区神宮前5-12-7 2F)
会 費: 3,000円(懇親会費1,000円を含む。当日受付でいただきます)
【プログラム】(内容は予告なく変更することがあります)
第1部:講演 「木の価値を高める~「林家」の山づくりを可能に~」
赤堀楠雄氏/林材ライター
第2部:懇親会
【講師プロフィール】
赤堀楠雄(あかほりくすお)氏
1963年東京生まれ。大学卒業後10年余にわたる林業・木材産業専門新聞社勤務を経て1999年よりフリーライターとしての活動を開始。全国の山村・林業地に赴き、森と木と人との関わりを取材している。「答は山(現場)にある」がモットー。2010年より長野県上田市在住。 著書に「図解入門 よくわかる最新木材のきほんと用途」(秀和システム)、「変わる住宅建築と国産材流通」(全国林業改良普及協会)、「基礎から学ぶ森と人の暮らし」(農文協、共著)、「有利な採材・仕分け実践ガイド」(全国林業改良普及協会、編著)がある。
【お問合せ】
- 地球・人間環境フォーラム(担当:坂本)
http://www.fairwood.jp、info@fairwood.jp、TEL:03-5825-9735 - ワイス・ワイス(担当窓口/広報課 野村)
http://www.wisewise.com、press@wisewise.com、TEL: 03-5467-7003