第22回「木質バイオマスのエネルギー利用促進とフェアウッド」(2017.12.20)
2017.11.22掲載
2018.06.06更新
2012年に導入された再生可能エネルギーの固定買取価格制度(FIT)のもと、バイオマスを燃料とする発電事業が各地に広がっています。本来のFITは、地域資源の活用によるエネルギー利用による地域振興や森林保全への貢献に繋がる仕組みであるべきですが、現状の日本のFIT制度は、逆に多くの問題を生み出しかねない状況となっています。木質バイオマスのエネルギー利用の実態と問題点と、それによる国内外の森林資源へのインパクト、そして木質バイオマスのエネルギー利用が森林保全に貢献できるようにするためには何が必要なのかについてお話しいただきます。
開催報告
(成田 陸/フェアウッド・パートナーズ インターン)
第22回フェアウッド研究部会では、公益財団法人自然エネルギー財団上級研究員の相川高信さんに「木質バイオマスのエネルギー利用促進とフェアウッド」というタイトルでお話頂きました。
冒頭、エネルギー分野におけるバイオマスエネルギーの位置づけと性質についてお話をいただきました。最終エネルギー消費割合から見ると、化石燃料78.4%、原子力2.3%、自然エネルギー19.3%となっていて、そのうち自然エネルギーの約半分を薪、炭が占めているのだそうです。またバイオマスエネルギーは水力発電や風力発電と違い、薪、チップ、またガスとして多様な使い方が可能なことから、自然エネルギーの長男であり縁の下の力持ちとして位置づけられているそうです。
次にバイオマスエネルギーの調達についてお話頂きました。バイオマスエネルギーに変換する原料の調達方法は三段階に分けられるそうです。一段階目はエネルギー利用せずに燃焼している廃棄物系バイオマスで、この場合は発電機をつけエネルギー利用します。二段階目は切り捨て間伐などの未利用系バイオマスで、これは林地から調達しエネルギー利用します。三段階目は空き地を利用し、エネルギー作物を植え収穫してエネルギー利用をします。バイオマスの一番の強みは化石燃料(固体、液体問わず)を直接代替できるということで、明日からにでもすぐ代替できることなのだそうです。
スウェーデンでは地域熱供給をパイプによって発展させ、熱源は化石燃料をバイオマスで直接代替しているそうです。地域熱供給とは個々のボイラーから熱源を確保するのではなく、大規模なボイラーによって沸かした熱湯を介して熱供給を行うことを意味するそうです。スウェーデンでは1970年代から地域熱供給が普及しているそうで、大規模ボイラーの効率のよさがその理由のようです。日本における地域熱供給はガスが多いようですが、北海道熱供給公社が札幌駅前で化石燃料からバイオマスに転換した事例が紹介されました。同公社は2009年からバイオマスを燃料に混合しはじめ、年間の熱生産量の50%を木質バイオマスが占めるほどに至っているようです。相川さんは「札幌市はCO2の削減を行うにはこの取り組みの規模を拡大することができれば達成できる」とも。
日本は欧州と比べ熱利用が盛んではありません。また現在エネルギー効率の観点から、モノジェネ(発電のみ)と熱ボイラーよりもコジェネ(熱電併給)が推進されています。それは前者のエネルギー効率が55%に対してコジェネは80%と大きく上回っているからだそうです。
太陽光、風力、水力発電の資源はほぼ無尽蔵にありますが、バイオマスは資源が有限でいずれ限界がくるとのこと。このことを踏まえバイオマスと林業の関係をお話しいただきました。1990年後半から住宅着工件数が減少し、木材の需要量が減少しています。バイオマスによって需要量が拡大することは林業界の救世主として捉えられる側面もあるそうです。日本は森林大国と言われ、森林面積ではスウェーデンとフィンランドの間の世界第二位ですが、一人当たりの面積ではスウェーデン3ha、フィンランド4haに対し日本は0.2haしかありません。なおエネルギーの話でよく出てくるドイツは一人当たりの面積は0.13haで、1990年代からバイオマスを導入し、2013年まで右肩上がりの成長を果たしました。しかし現在は森林系のバイオマスは、これ以上使える資源もなく将来の見通し値もほぼ一定なのだそうです。世界的には麦わらやトウモロコシの芯などがあり、日本もダイオキシン対策で堆肥化している資源が余剰資源として注目されているそうです。日本はバイオマス資源が使い尽くしたといえるわけではなく、やはり日本は欧州の議論と離れて考える必要があると相川さんは考えているようです。
ただし日本の電気総需要量からみた場合、今使用できるバイオマスをすべて利用しても2%に満たないそうです。このことから我々がいかにエネルギーを使っているのか、そしてその代替をバイオマスに期待されても困る状況であることがわかります。全体の資源の流れを見て余っている所を使い伸ばしてく姿勢が大切なようです。
他方、日本全体で見た場合森林資源の一人当たりの面積は0.2haですが、地域別で見た場合は、北海道では1haを超え、岩手、秋田と続き、東京はもちろん最下位です。国レベルで見た場合、エネルギー量は2%で期待はできませんが、中山間地域ではリアリティがなく、森林資源を活用していくことが大事です。そこがバイオマスのややこしさであり、軸足を置く場所によって見え方が全く違うことに注意が必要です。
次にFIT制度についてお話頂きました。FIT制度(固定価格買取制度)とは自然エネルギーを一定期間(バイオマスの場合は20年間)、一定の値段(24円、38円など)で買い取りという制度です。このFIT制度はドイツなどでも導入されていますが、日本は諸外国にくらべ高価格で買い取っているため、世界のバイオマスが日本の市場に流れ込んでくる可能性が高いと指摘されているそうです。
現在稼働しているバイオマス発電については、FIT制度導入前に稼働したものが多く、規模としては30万kwで主に建築廃材や一般廃棄物を燃料としているとのこと。他方2017年の秋に経産省が公表した認定を受けたバイオマス発電、つまり将来的に稼働する発電所の規模は1470万kwで、この数値には関係者一同驚いたそうです。それは1300万kwの内件数ベースで54%、出力ベースで38%がパーム油を使用することが明らかとなったからです。
パーム油というのは私たちの生活に植物油などとして深く入っているものですが、NGOの指摘によると、その生産地のほとんどはインドネシア、マレーシアであり、現地では深刻な森林破壊が起こっていて、世界的に問題視されているそうです。さらにその生産地の土壌が泥炭であった場合、アブラヤシ農園造成の過程でメタンやCO2が排出されてしまっていることも問題に。そもそもバイオマスを使用しているのはCO2を削減するためですが、パーム油を使用することにより、余計に排出されてしまうというレポートもあるそうです。国際社会ではこのような認識が主流ですが、日本はその確認もせずに使用しているため、相川さんは「明らかな政策の失敗と言える」。したがってバイオマスの世界でも持続可能性が問われるようになってきたようです。
国際的にも持続可能性の議論は活発に行われているとのこと。その背景には国際的にバイオマス用のペレットの需要が拡大しているため。石炭や化石燃料を減らすにはバイオマスが一番手っ取り早く、現在世界ではなりふり構わずCO2を減らそうとする流れがあるようです。事例の一つとして化石燃料発電所をバイオマスに転換したイギリスのDRAX社の取組みが紹介されました。相川さんご自身は、「バイオマスは地産地消で使うという認識であり、大規模な発電はうまくいかない」と思っていたそうですが、実際には成功し、エポックメーキングな事例なのだそうです。イギリスは政策として、化石燃料発電所を閉鎖する際にバイオマスに転換する場合は手助けする方向性を打ち出したそうです。日本でも化石燃料からバイオマスへ転換していく際は、流通網の整備などが大きな課題となりそうですが、DRAX社の場合は、自分たちの認証制度を作り、北米からペレットを輸入したのだそうです。
もう一つ、潮目が変わった事例がデンマークのØrstedという同国の主要な電力会社であり、世界最大の風力発電のディベロッパーの取組みです。取組みのきっかけは、デンマーク政府が2050年までに化石燃料ゼロを目指すことを決定したことによるようです。Ørsted社が持っている火力発電所は地域熱供給のプラントにもなっているため、火力発電所を閉じるわけにもいかず、燃料を化石燃料からバイオマスに転換することとなったようです。その燃料転換は興味深い効果をもたらしました。それは大規模な発電所は輸入バイオマスを利用し、中小規模は藁などの地域バイオマスを利用していることです。相川さんは「地域で利用できるバイオマスはまず利用し、そして日本全体で考え足りないならば輸入も視野に入れる必要がある」と述べました。
イギリスやデンマークは脱石炭を国レベルで推進しており、その中で持続可能性基準を設定しました。この点が世界と日本の大きな違いであると相川さんは言います。「この持続可能性基準とは何を燃やしていいかの基準であり、国際的にはGHG削減基準、土地の持続性、トレーサビリティの三つです」。またそれらは調達の際における基準ですが発電所にも基準があるようです。
おしまいに、将来性を考えた政策の必要性が話題になりました。相川さんによれば、国際的なエネルギー全体の話ではバイオマスはそこまで頑張る必要がなく、そこは風力や太陽光に期待しているそうです。しかし風力や太陽光では発電出来ない所があり、調整も必要で、そこにバイオマスが貢献できるところがあり、また技術開発によって様々なエネルギーの形もうまれてくるであろうとのお話でした。またバイオマスを化石燃料の代替という点で考えれば、技術開発によって様々な脱化石炭素を行える可能性があり、私たちの生活環境をバイオマスに対応できるように変化させていくことも必要、とのことです。
開催案内
【開催概要】
日 時: 2017年12月20日(水)18:30~21:30(開場:18:00)
場 所: 株式会社ワイス・ワイス(〒150-0001東京都渋谷区神宮前5-12-7 2F)
会 費: 3,000円(懇親会費1,000円を含む。当日受付でいただきます)
【プログラム】(内容は予告なく変更することがあります)
第1部:講演「木質バイオマスのエネルギー利用促進とフェアウッド」
相川 高信氏/公益財団法人自然エネルギー財団上級研究員
第2部:懇親会
【講師プロフィール】
相川 高信氏(あいかわ・たかのぶ)
京都大学大学院農学研究科修了(森林生態学・修士)。三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)において、森林・林業分野の調査・コンサルティングに従事。東日本大震災を契機に、木質系を中心にバイオエネルギーのプロジェクトに多数関わるようになり、2016年6月より現職。同年3月に北海道大学大学院農学研究院より、森林・林業分野の人材育成政策をテーマに、博士(農学)を取得。著書に『木質バイオマス事業 林業地域が成功する条件とは何か』『先進国型林業の法則を探る』(全国林業改良普及協会)など。
【お申込み】
お申し込みフォームにてお申し込みください。
フォーム記入ができない場合、「第22回フェアウッド研究部会参加希望」と件名に明記の上、1)お名前 2)ふりがな 3)ご所属(組織名及び部署名等)4)Eメールアドレスを、メールにてinfo@fairwood.jpまで送付ください。
※定員50名
【お問合せ】
- 地球・人間環境フォーラム(担当:坂本)
http://www.fairwood.jp、info@fairwood.jp、TEL:03-5825-9735 - ワイス・ワイス(担当窓口/広報課 野村)
http://www.wisewise.com、press@wisewise.com、TEL: 03-5467-7003