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第70回フェアウッド研究部会「赤谷プロジェクト~イヌワシが生きる森で地域社会の活性化も」

学生インターンによる開催報告

2023.5.12掲載

学生インターンが、フェアウッド研究部会を紹介します。今回は、谷山依里(地球・人間環境フォーラム学生インターン、跡見学園女子大学マネジメント学部マネジメント学科4年)が担当します。

【講演】
赤谷プロジェクトについて

赤谷プロジェクトとは、群馬県みなかみ町北部、新潟県との県境に広がる、約1万ヘクタール(10km四方)の国有林「赤谷の森」を中心に行われている取り組みです。日本自然保護協会、林野庁関東森林管理局、赤谷プロジェクト地域協議会の3つの中核団体が協働して、生物多様性の復元(=森を豊かに)と持続的な地域づくり(=森を上手に使う)を目的として活動しています。

出島さんによると、赤谷プロジェクトの特徴は、「多様な団体で森を管理すること」、専門家の方々を集めたワーキンググループを設け、現場での調査などを通して「科学的に森を管理すること」の2つの手法だということです。今回のフェアウッド研究部会では、そのノウハウや活動内容をレクチャーして頂きました。

生態系の保護

赤谷の森では、拡大造林政策により、本来木材生産には適さない場所も人工林に転換されたことで生物多様性に大きな影響がもたらされました。そこでこのプロジェクトでは、増やしすぎてしまった人工林を自然林に復元し、人工林により餌の狩り場を失い、絶滅危惧種に指定されてしまったイヌワシやクマタカの保全に努めています。

日本全国のイヌワシの状況を見ると、繁殖に成功したつがいの割合をみると、1980年代には50%近くあったものが、2000年以降は20%前後に低下しているそうです。イヌワシやクマタカは、森林生態系の食物連鎖の上位に位置する大型の猛禽類であり、中小動物を獲物としています。そのため、イヌワシを保全することは、彼らの絶滅を防ぐだけではなく、イヌワシを頂点とする地域の生態系を本来の形に戻すことにつながり、その地域に生息・生育している動植物たちの多様性と豊かさを守ることができているかどうかの指標になると位置づけられています。

赤谷プロジェクトでは、専門家らで構成されるワーキンググループと共に、イヌワシやクマタカの繁殖状況や餌となる中小動物のモニタリングをし、科学的根拠に基づく管理を行っています。翼を広げると2メートルにもなるイヌワシが、餌となるノウサギなどを獲るには一定の空間が必要になります。成熟した人工林はイヌワシのハンティングには適していない場所になってしまっているのです。そこで、赤谷ではイヌワシの狩場をつくるため、2015年から順次、数ヘクタールのスギの人工林を試験的に伐採してみたところ、イヌワシが獲物を探す回数が増えていることが観察されているそうです。

そして、イヌワシの保全活動は、赤谷の森にとどまらず、宮城県・南三陸地域や長野県、滋賀県など全国に保全の手法が広がっているそうです。また、最近ではアパレルのパタゴニアや、バスボムや石けんを販売するLUSHなどとの企業コラボや支援を通して活動を盛り上げています。

持続的な地域づくりで企業ともつながる

イヌワシがハンティングできる場所を確保するために伐採した木材を「イヌワシ木材」と名付けて、地域の産物として価値をつけて活用していこうという動きが出ています。みなかみはもともと国内シェア7割を超える木製のカスタネット生産地だったことから、イヌワシ木材のカスタネットの製造し、地域づくりに貢献しています。

また、今年2023年3月に群馬県みなかみ町は、日本自然保護協会・三菱地所との10年間の連携協定を締結し、ネイチャーポジティブに向けて新たな活動を始動しました。この協定によって、生物多様性が劣化した人工林を自然林へ転換する活動や、農林業への被害や森林生態系の破壊などの問題を引き起こすニホンジカの低密度管理、Nature-based Solutions(自然を基盤とした解決策)と呼ばれる生物多様性を活かした防災・減災、水源涵養、獣害対策、持続的な地域づくりなどを実施するため、6億円の寄付が予定されています。

【質疑応答】

Q1:伐採した後、餌になる動物が増えているなどのデータはあるのか、年数を重ねるにつれて、動物の増減はどのような状態なのか、教えてください。

A1:伐採前から伐採後にかけて、主要な獲物であるノウサギと山鳥が設置したカメラにどれだけ写るかで、データをとりましたが、やはり伐採後3年間は増え続けます。ただ、植生が戻っていく、発達していくことによって数が減少し、落ち着いてくる、というデータがあります。

Q2:人工林の伐採をして自然林に戻していく流れを促進できるよう工夫されている取り組みはありますか。

A:伐採予定の人工林の中に、自然林がどの程度生育しているのか、自然林に戻るポテンシャルがどれだけあるかを調査するのが、今後順調に自然林に戻っていくのかを予測する上で重要であるといえます。特に広葉樹を積極的に残すことが一番大切です。また、周辺に自然林がある際には、今後種子供給が行われていくことを想定した上で伐採をしています。その他、自然林が生えにくい場所には少しコストはかかりますが、広葉樹の苗木を植えています。このコストもネイチャーポジティブを広めていく上では、重要なコストと捉えています。

【感想】

「木を伐採する」と聞くと、自然・環境破壊をしているというイメージが強く、「木を伐採することで、生物多様性の保全ができる」という赤谷プロジェクトの取り組みは、私にとって新たな発見でした。また、このプロジェクトを支援し、斬新な商品を開発しているLUSHやパタゴニアの取り組みは、私のように赤谷プロジェクトについて知らなかった人々が生物多様性に対して興味・感心を持つきっかけになると思います。

山林の近くに住んでいなくとも、都心で商品を通して身近に感じる機会をつくっていくことは、生物多様性のみならず、全ての環境問題に共通して取り組んでいくべきだと感じました。

(谷山依里/地球・人間環境フォーラム学生インターン、跡見学園女子大学マネジメント学部マネジメント学科4年)

フェアウッド研究部会では、環境社会に配慮した木材の使い方を日本に広めようと毎月開催しています。関心をお持ちになった方はどなたでもご参加いただけます。詳細はこちらからご覧ください。


2023.3.6掲載

赤谷プロジェクトは、群馬県の北部みなかみ町、新潟県との県境に広がる1万ヘクタールの国有林「赤谷(あかや)の森」を舞台に、イヌワシの生息環境再生等の生物多様性の復元と、森林を活用した持続的な地域づくりを推進しています。2003 年から、地域住民で組織する赤谷プロジェクト地域協議会、日本自然保護協会、舞台となる国有林を管理する林野庁関東森林管理局の 3 つのセクターの協働により進められ、今年で 20 周年を向かえます。

赤谷の森には、日本で絶滅の危機にあるイヌワシが一つがい生息しており、その生息地を保全するため、20115 年からスギの人工林を伐採して、開けた空間を創り出す取り組みを開始、スギ人工林の伐採前には6年連続で子育てに失敗していましたが、伐採後の5年間では3回子育てに成功しました。現在、イヌワシの保全を目的に伐採した木材を地域内で、ストーリーを付けながら活用する取り組みを進めています。

赤谷プロジェクトを推進してきた日本自然保護協会の出島誠一さんに同プロジェクトの最新情報をお話しいただき、いきものが暮らしやすい森づくりが地域の活性化にもつながる事例を学び、議論します。

【開催概要】

日 時:2023年3月30日(木)18:00~20:00(開場:開始の5分前)
会議URL:お申込みいただいた方に後日ご案内いたします(ZOOM利用を予定)
参加費: 1,000円
※お申込みいただいた方で希望のある場合は、当日の録画アーカイブを後日、期間限定でご覧いただくことが可能です。

【プログラム】(敬称略、内容は予告なく変更することがあります)

第1部:講演(18:00~19:30 質疑含む)
講師:出島誠一/(公財)自然保護協会生物多様性保全部部長

第2部:懇親会(19:30~20:00)
(希望者のみ、お飲み物等はご自身で準備ください)

■講師プロフィール(敬称略)
出島誠一/(公財)自然保護協会生物多様性保全部部長
2004 年より群馬県みなかみ町の国有林で生物多様性の復元と持続的な地域づくりを進める「赤谷プロジェクト」を担当。みなかみユネスコエコパーク推進アドバイザー。絶滅危惧種のイヌワシ、サシバ、四国のツキノワグマの保護活動に従事。林野庁林政審議会委員、SGEC 評議委員会委員、FSC 日本の管理木材ナショナルリスクアセスメント WG。

【お申込み】

お申し込みフォームよりお申し込みください。
フォーム記入ができない場合、「第70回フェアウッド研究部会参加希望」と件名に明記の上、1)お名前 2)ふりがな 3)ご所属(組織名及び部署名等)4)Eメールアドレスを、メールにてinfo@fairwood.jpまで送付ください。
※定員100名

【お問合せ】
  • 地球・人間環境フォーラム(担当:坂本)
    http://www.fairwood.jp、info@fairwood.jp、TEL:03-5825-9735
  • ワイス・ワイス(担当窓口/広報課 野村)
    http://www.wisewise.com、press@wisewise.com、TEL: 03-6258-1346

※テレワーク推進中のため、極力メールにてお問合せお願いします。

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