2.森林資源の循環にメーカーとしてできることを模索 ~コクヨの取り組み
フェアウッド・キャンペーン事務局
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図1 結の森プロジェクト対象地(コクヨの資料から) |
間伐材利用から始まったコクヨのCSR
2005年で創業100年を迎えたコクヨ。和式帳簿の表紙の製造に始まり、紙製品の製造と販売を中心に発展してきた同社は、森林資源に大きく依存し続けていることを認識し、健全な森の育成に向けて取組んでいる。
間伐材利用製品の開発もその一つだ。国内森林の間伐遅れを鑑み、間伐材を利用したオフィス家具の開発を1997年から始めている。間伐材製品の顧客は自治体と官公庁が中心だが、着実に実績を重ねている。市場ニーズを満たし、且つ広く普及してこそ意味があるとの観点から、例えばデスクなら、天板は間伐材、袖部や足部はスチール材を用いた構成とし、間伐材のみにこだわらず価格面・機能面で優位性を図り、しかも木のやさしさが十分に生きるよう配慮している。
また2004年11月にはコクヨS&T(株)が日本初のFSC(森林管理協議会)森林認証紙を使用したノートの発売を実現した。合わせてコピー用紙も発売し、認証紙製品の普及の一翼も担っている。
全国に広がる国産材(間伐材を含む)調達ネットワーク
とかく国産材の問題は「流通」だとの意見が多い現状において、コクヨグループでは、全国森林組合連合会との連携により、基本的に日本全国どこの地域材でも対応できる体制を築いている。
間伐材デスクの天板製造協力工場は全国6箇所(北海道下川町、新潟県、長野県上伊那郡、岡山県津山市、高知県四万十町(旧大正町)、佐賀県佐賀市)あり、工場によっては原料すべてを工場自身で調達している。それ以外は地域の森林組合からコクヨが製材で仕入れ、工場に加工を依頼しているケースだ。
甲賀氏によれば「他社に例を見ない国産材・間伐材の供給体制だと思う」とのこと。しかし、そのネットワークが一朝一夕に構築できたわけではない。それぞれの地域で、地域材利用のきっかけがあったとは言え、足で稼いで地道に築き上げた賜物だそうだ。その過程で、「何故メーカーがここまで原料調達に手間をかけなければならないのか、そしてその一方で、いかに国産材が流通改革を怠ってきたか」ということを、身をもって実感したという。甲賀氏は「国産材は生のひき肉で、外材はパックされたハンバーグ」と例える。
国産材流通の現状について、とても付加価値の高いこだわり製品の場合であれば成立する話だが、汎用品として幅広い利用を期待する「国産材推進」の場合、まったくの逆効果であることは容易に理解できる。
FSC認証製品普及の仕組み作り
図2 FSC森林認証が有効に機能するための3つのポイント (コクヨの資料から) |
一方で、間伐遅れの森林のみならず、管理の手が滞りなく行渡り、FSC森林認証を受けた森林から生産された木材を利用した「本物志向」の家具作りにも熱心だ。これは、大分県の九州林産(株)で生産されたヒノキを佐賀県の中村製材所にて加工し、コクヨファニチャー(株)が販売するという仕組みだ(図2)。
この仕組みにおいて①森林がFSC認証を受け、②加工業者や販売者がきちんと管理・加工し、③消費者が賢く選ぶ、ことで森林が守られ持続していくと、3つのポイントを重視している。
FSC認証について「FSCマークには訴求力があり、一般の人から『これなに?』と聞かれるくらいだ」と甲賀氏は言う。またFSC認証を取得した森林の場合樹齢60~70年、あるいはそれ以上の優良材が出材されるため、「素人」でもわかる材質、デザイン、使いやすさといった本来の「品質」を追求していけば、ロハス層などを十分に取り込めると感触を得ているようだ。
したがって「間伐材」というエコの観点だけを強調するのではあまりにももったいなく、また「間伐材」=「エコ」のみで、本来の品質を問わずに価格プレミアを望むのはいかがなものか、と従来の間伐材製品のありようにも苦言も呈する。「環境に配慮した間伐材だから」という名目で「エコ」=「エゴ」にしては、悪貨は良貨を駆逐してしまうことを危惧してのことだ。
図3 FSC認証ヒノキ製の家具例 |
結の森プロジェクト ~地域へのアプローチ
結の森プロジェクトの基本理念 |
結の森プロジェクトとは、 コクヨと地域の結(ゆい)によって、 森と地域の再生を目指すものです。 ● コクヨと地域の結(ゆい)は、 新たな「つながり」の種となります。 ● 人と人、人と自然のつながりを連鎖させ、 美しい日本の原風景と子どもたちの笑顔を 未来へ残していくこと。 ● それが、コクヨと地域の約束です。 |
プロジェクトの基本理念は右のとおり。具体的には、結の森整備プログラム、森・川・海の恵み商品化プログラム、そして情報発信プログラムとに分かれていて、それぞれ森林整備促進、出材された木材利用促進のための商品開発、情報発信を目的としている(詳細はhttp://www.kokuyo.co.jp/yui/を参照)。
結いの森プロジェクトで、コクヨは四万十地域の植林活動に協力するだけではない。山村と都市の間で森林資源を循環させることで、日本の森林問題の解決に向けた一つのヒントを提示しようとしている。
まず「結の森」モデル林として100haを整備し、そこからの材をコクヨで使うことで地域の人に良い循環の姿を実際に見せる。その上で、地元の森林組合の協力を得て「わしらもやってみようか」とその気にさせることをねらっている。いわばまだ「その気」になっていない森林所有者へ手本を示すことが目標だ。
甲賀氏によると、高知県が推進する「協働の森」では数社が少しづつ植林を進めているとのこと。特に梼原町と提携した矢崎総業(株)の取組みは森林整備+αという意味で、特筆に価すると甲賀氏は評価している。
旧大正町周辺には6,000haの人工林があり、すべてを整備することを大目標に据えているものの、そのすべてをコクヨの家具だけで需要しきれるものではない。しかし一般ユーザー、住まいでの利用、流通の仕組みの中で需要を開拓していき、そのために地域で会社を作ることや、将来的には、いろいろな企業に呼びかけていければと甲賀氏は語る。
また、この地域密着型のプロジェクトは、成功すれば将来の大都市圏企業と地域社会とのあり方の雛形になり得るものだと、甲賀氏は考えている。例えば、これまで約2,500台の販売実績を持つカタログハウスのヒノキテーブルだが、その開発・製造過程においては、市場ニーズに合うレベルの品質改善のため、甲賀氏も「森林組合は音を上げるのでは」と心配するくらい集成・塗装から梱包に至るまで、注文を付けた。幸いその厳しい基準を森林組合がクリアしたことで販路が確立し、さらにはその過程で品質対応体制なども整備されたことにより、現在では組合独自で中堅住宅メーカーなどにも部材を供給しているとのことだ。
甲賀氏は、この経験から市場を知るメーカーができること、すべきことは、市場ニーズに合致する製品や品質を辛抱強く、現場に伝えていくこと、そして製品販路という出口を用意することによりインセンティブを与えることだと考えるようになったそうだ。勿論その過程や想いに押付けや一方的な利益追求があってはならないことは言うまでもないと結んだ。
トップの理解を得、現在はCSR推進室が主体となって運営している「結の森プロジェクト」。単に木を植えるだけでなく、原料の生産地と製造販売を担う企業とがWin-Winで持続可能な関係を築いていくことを目的に据えているあたりが、通常のCSR活動とは一味違う。是非、今後の動向に注目したいところだ。
※ 結(ゆい)とは、農山村では田植えなどで、地域住民が互いに助け合って共同作業を行う慣習のこと
> コクヨ(株) WEBサイト
> コクヨS&T(株) WEBサイト
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