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3.森林認証と小規模林家~森林保全の鍵握る担い手(後編)

(財)地球環境戦略研究機関(IGES)森林保全プロジェクト 研究員 ヘンリー・スケーブンス 氏

小規模林家による森林認証取得を促進するための手段
 アジア太平洋地域における森林認証を巡る問題は、需要のみならず供給の面からも考える必要がある。認証材の供給業者と供給量を増やすには、援助機関、政府、業界及びNGOが新しいアプローチを取り入れる必要がある。ここに、小規模林家による認証取得の拡大を目指した4つの方策として、(1)認証費用の縮減、(2)森林局を中心とした政府による積極的な関与、(3)段階的アプローチの導入、(4)国内支援サービス機関の設立、を提案する。

(1)認証費用の縮減
 開発途上国での認証の普及が遅い理由はいくつか考えられるが、その最たる理由が、認証を取得し維持するためにかかる高い費用である。とりわけ、小規模林家は伐採規模が小さく絶対的な収益が少ないため、ヘクタール当たりの認証にかかる費用が上昇すれば不利益を被る。認証制度では、通常、事前査定、評価を経て、一旦認定されれば、年一回の監査が行われることになる。さらに、そのための要件を達成し維持するための費用も発生する。国際的なFSC認証制度では、監査を行う専門家が認定機関より派遣されるが、通常米国や西欧諸国から派遣されることになる。小規模林家が認証を受け続けるためには、この招聘費用の負担のための高額の資金援助が不可欠になってくる。このような条件下では、今後も小規模な木材生産・加工業者に認証を広く普及させるのは難しい。

 一方、認証機関も、小規模林家にかかる認証費用の縮減の必要性に気づいている。例えばFSCは、費用縮減を意図した団体認証モデルを導入した。このモデルは、複数の小規模林家を取りまとめる団体機関に対して、FSCが認証するシステムで、同機関が各林家の基準達成を保証する責任を担うものである。FSCによるこの団体認証モデルは、開発途上国の小規模林家に最も人気の高い認証モデルであるが、それでも費用はまだ非常に高い。そこでFSCは、監査、モニタリング、手順を合理化した小面積・小規模管理森林(SLIMF)制度を導入し、さらなる費用引き下げを目指している。

 とは言うものの、認定機関が地域外に位置する限り、監査・モニタリングにかかる高額の費用は依然として発生する。FSCはアジア太平洋地域における小規模林家への認証普及を拡大するために、この地域、そして可能であれば、 各国に認定機関を設置することも検討すべきであろう。そうすることによって、海外から監査専門家を呼ぶための高額な招聘費用を支払う必要性がなくなる。LEIが開発した地域社会に根ざした森林管理のための認証制度はよい手本となるだろう。LEIによる認定を受けたインドネシア企業は、認定や定期的な監査費用を最小限に抑えることができている。

 (2)政府による積極的な関与
図1 ポータブル製材用ノコギリで認証材を製造(パプアニューギニア)
 森林認証は、そもそも熱帯諸国の政府が森林の消失や劣化率の歯止めに失敗した対応策として開発されたものである。認証の初期推進者は、政府が失敗した森林資源の保全を、市場をうまく利用することで成功に導けるだろうと考えたのである。

 こうした背景から、アジア太平洋地域の開発途上国において、地元及び国際的NGOが中心となり、業界と連携を取りながら認証制度を推進してきた。しかしながら、認証誕生から10年以上を経てなお、同地域に占める認証林地は依然として非常に限られる。こうしたことから、認証の運営を政府以外の機関がするべきであるという前提について、再考するべき時にきているといえる。資金の創出、技術面でのサポート及び民間部門の取りまとめにおいて、NGOの能力には限界がある。また、開発途上国の市場では認証材の価値が浸透していないことも認証の足かせとなっている。持続可能な森林管理の手段として認証を成功させるには、アジア太平洋地域の政府が強力な支援の役割を担うことが求められている。

 各国政府は、現在試行錯誤を続ける認証モデルに対するさらなる改善のための財政的支援を行うことができる。特に森林認証がすでに森林管理の有効な手段として認可されている国々において、政府は、森林認証制度を自国の森林管理政策に積極的に取り込むべきである。例えば、森林局の傘下に認証部門を設置することによって、現状に即した適切な支援を行うことが可能となる。また、認証部門の地方出張所を各地に設置し、林業会社を対象とした、認証材の供給能力を高めるための技術・管理研修を行うことも可能である。一方、森林行政官も、森林認証についての研修を受ける必要がある。その際、既存の認証支援機関のノウハウは貴重であり、参考となるであろう。

 政府は、また、小規模林家を対象にした融資サービスを導入することもできる。例えば、パプアニューギニアでは、農村開発銀行が、一般的に現金収入が非常に限られる住民には手の届かない、一台約2万ドルもする製材用ノコギリの購入資金を融資している。

 森林の私有が認められていない国々では、政府が森林管理を他に委ねることに消極的であるが、それでも森林認証が成功する可能性はある。現在、ラオスで試験導入されている森林管理モデルでは、政府森林局が村落森林協会と連携し、2県における認証の監督者としての役割を果たしている。政府機関が地域コミュニティと連携し監督者として直接関与するこの形が成功すれば、私有林が認められていない他国でも同様に試すことができるだろう。

(3)段階的アプローチの導入
 段階的なアプローチを取り入れた認証制度は、生産者に対して伐採活動の段階的な改善を促すための手段として提案された。具体的には、認証基準と現状との相違の査定、森林管理向上のための段階的な制度の構築、第三者機関による成果進捗の実証、などのステップから構成される。

 これまで段階的アプローチは、大型伐採許可保有業者や植林事業を対象に導入されてきたが、メラネシア地域で開発された段階的アプローチは、小規模林家向けに応用することが可能である。同アプローチは、ソロモン諸島開発信託とグリーンピース・ニュージーランドが主導する、グリーンピースの森林管理基準とニュージーランド熱帯材輸入団体の基準の両者を採り入れたエコラベル表示制度に取り入れられている。このエコラベル表示制度は、メラネシア地域の林業者にとって、FSC認証の費用や要求レベルがあまりにも高すぎるとの認識から生まれたもので、現在、ソロモン諸島とパプアニューギニアの両国で導入されている。

  パプアニューギニアでは、同制度は、地元NGOと国民・コミュニティ開発基金(FPCD)によって運営されている。まず第1ステップでは、現地の人々が造園のために森林を開拓し、伐採木材や倒壊木を加工する。FPCDは、これらの加工木材の輸送・販売面で木材生産者を支援している。第2ステップでは、FPCDが森林管理、製材用ノコギリの作業、小規模事業管理などをテーマにした研修を生産者に対して実施する。また、森林の調査と木材の在庫管理を行い、森林管理計画を立案する。土地所有者は同計画に基づき伐採活動を行い、木材にエコラベルを貼った上でニュージーランドなどに輸出する。第3ステップでは、森林の認定を行う。これにより管理基準がより明確になるとともに、新規市場や有望な市場の開拓が可能となる。

 こうした段階的アプローチの一環として、グリーンピースによるエコラベル表示を発展させ、小規模林家を対象にした事前認証基準を策定することも考えられる。当該木材生産者が森林管理能力を現在向上中であり、近い将来に最終認証を達成しようと努力している状況を買い手に示す"暫定エコラベル"の導入も有効であろう。

(4)国内支援サービス機関の設立<
 政府森林局を通じた認証普及に加え、独立した機関による認証に関する支援サービス機能の構築も、有効な手段として考えられる。現在パプアニューギニアで試験的に導入されている画期的なモデルは、他国でも汎用可能である。

 非営利社団法人エコ・フォレストリー・フォーラム(Eco-Forestry Forum)は、2001年にパプアニューギニアにおける国内森林認証支援の必要性に関する調査を実施し、その結果、小規模林家と材木卸業者が 森林認証の支援に対して高いニーズを持っていることが明らかになった。そこで、地域コミュニティの森林認証取得と認証材販売を支援する非営利会社として、FORCERT社(Forest Management and Production Certification Service Ltd)が設立された。

図2 FORCERT 団体認証モデル

 FORCERT社では、アジア太平洋地域における他の小規模林家向け認証モデルと同様にFSCの団体認証を導入しているが、その適用方法において他の認証モデルと大きな違いが見られる。FORCERT社は、最終的には認証を全国的に普及させ、現状では不可能な、海外の買い手からの大量受注を可能にすることを目指している。そのために、認証材を供給する能力の形成を目的とした生産者に対する研修を実施している。また、認証材はマーケティング機能を持つ認定材木卸業者に運ばれ、輸入の大量注文に応じられる十分な量が保管される。認定材木卸業者は木材の輸送・販売の責任を担うことで、認証に関連するビジネスの側面がNGOから民間セクターへと移行される。

 FORCERTは、期間(5年間)を設定し、資金の自己調達を目指している点で評価される。具体的には会員に年会費を課すとともに、輸出材に課金することで収入を得る。FORCERTの認証モデルは、小規模林家への認証普及を推進するための画期的な優れた事例である。国際市場に認証材を供給する可能性のある小規模林家を抱える他の開発途上国の政府、援助機関、業界及びNGO は、FORCERTのような全国規模の支援サービスを提供する機関の設置を検討することができるであろう。

結論
 主要な木材輸入国の産業界、NGO及び政府が推進提唱役となり、森林認証推進支援の動きはますます進んでいる。熱帯林とそこで生計を立てる人々のために綿密に立案された認証制度のメリットは、徐々に認知されつつある。しかしながら、アジア太平洋地域の開発途上国の森林管理の改善を大きく促すためには、前提の再考と新しいアプローチの導入が、今まさに求められている。すでに述べてきたように、認証費用の縮減、政府による積極的な関与、段階的アプローチの導入、 国内支援サービス機関の設立の4つが、小規模林家による認証取得の可能性を広げる有効な手段となりうる。
図3 小規模林家への森林認証普及促進を高める手段


(c) 2007 Institute for Global Environmental Strategies.
この出版物の内容は執筆者の見解であり、IGESの見解を述べたものではありません。

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