1.「フェアウッド」活動について
~日本の消費者が関心を持つためには~
(社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会 環境委員会副委員長 大石美奈子
最初から言い切ってしまうのもどうかと思いますが、まわりを見回してみても、日本の消費者は、「フェアウッド」や「違法伐採」に対して関心が低いように感じます。 以下に、私なりにその4つの理由を考えてみました。
森林や木材の重要性を考える機会が少ない
都会に暮らしていても、テレビ映像や写真、観光地のパンフレットなど、日本ではあまりにも山林風景を当たり前のように見られるので、木や森が私たちの生活にとって、とても重要な働きをしていることに気づきにくいのではないでしょうか。話題となっている温暖化防止、生物多様性以外に、治水・灌漑、水の循環と涵養、ひいては漁業への影響にいたるまで、森林の持つ役割については小学校の教科書で少し習ってはいるはずなのですが、生活の中で実感している人は少ないと思われます。
日本が木材輸入国だとは思っていない
現在、木材製品には、原産地表示は義務づけられていません。国土の約7割が森林であり、多くの人がスギ花粉症の悩まされているという現実からも、日本が木材を大量に輸入しているとは考えにくいのではないでしょうか。ましてや、原材料が見えにくい加工品や紙にいたると、原料となる木材チップのほとんどが海外から輸入されたものであるという事実も知らないのではないかと思います。
最近でこそ国産材を使おうという「3.9(サンキュー)運動」や「間伐材の有効利用をしよう」などの運動が見られますが、日本では人件費が高い上、急勾配で伐り出しの大変な森林が多く、コストがかかりすぎると言う理由で、せっかく植林された森林が放置され、荒れているということはあまり知られていません。箱根の寄木細工などのように観光地のみやげもの屋で売られている木工製品は、当然、その土地の木を材料にして作られていると思っていましたが、聞いてみると、実際にはほとんどが輸入材とのことでした。これらは量的には限られたものでしょうが、建築構造材、家具、紙の原料となるパルプ・チップなども、ほとんど国産材でまかなえていると考えている消費者が多いのではないかと思います。
私たちの生活に木材製品が見られなくなった
お風呂場を取ってみても、かつては、浴槽や風呂の蓋はヒノキなど、スノコやフロ桶もサワラやスギなど木でできていました。香りも良く、冬でも肌に暖かく重宝して使っていましたが、今では手入れの簡単なプラスチックやステンレスがほとんどで、木桶などはとても少なくなりました。住宅建材を見ても、かつては木材であった窓枠や障子・襖・欄間も使われなくなっています。襖や障子などの紙製品、珪藻土や漆喰、土壁など、自然素材のものは、呼吸をして湿度などを調節してくれるので、湿気の多い日本の気候にはピッタリです。新築やリフォームで、最初は天然素材を希望していても、手入れが大変だと知ると、そこが嫌われて、安くて手入れの簡単なビニールの壁材などに取って代わられてしまいます。シックハウス症候群などの心配を考えると、天然素材のほうが好ましいだろうとの医療現場の話もありますが、浴室の木製品をみても、カビが生えやすく手入れが悪いと腐りやすいなど、メンテナンスに手間がかかることから敬遠されてしまうようです。今でも、私たちが自分で購入している木製家具としては、リビングのダイニングテーブル・椅子・食器棚、寝室ではベッドなどです。かつては嫁入り道具として必需品であった和洋タンス・鏡台も、作りつけのものが増えているので、自分で選ぶことはかなり少なくなっています。
商品選択時に、その商品のライフサイクル全体を見ていない
消費者が「フェアウッド」や「違法伐採」に関心を持たず、値段やデザイン・機能など売り場にある情報や思い込みのみで商品を選択するのは、以下のことが一番大きく関係していると思います。
どの製品にも、人間と同じように一生があり、使用時だけでなく、原料の調達、運搬、製造、廃棄・リサイクルなどの各ステージで環境に負荷がかかっています。ライフサイクル全体でみたとき負荷がどうなのか、どのライフステージで一番負荷がかかっているのか、では、どれを選べばできるだけ負荷が少ないのかなど、原材料は何で、どこからきているのか、使い終わったらどうなるのか、を想像する力がついていない消費者が多いからではないかと思います。また、それは企業の責任でもあるわけで、製造・流通・販売する企業がその情報を購入者に伝えていないからではないかと考えます。
持続可能な社会形成には、16%のグリーンコンシューマーが不可欠
私が所属する(社)日本消費生活・アドバイザー・コンサルタント協会(通称NACS)環境委員会では、持続可能な未来生活をめざし、ライフスタイルの見直しや環境に配慮した生活を提案するための研究・啓発活動などを行っています。持続可能な社会を形成するためには、「グリーンコンシューマー=環境に配慮している商品や企業を選ぶ人」が購入者の16%になる必要がある(注1)と主張しています。
そして消費者と企業をつなぐのはモノやサービスと情報であるという点に着目し、環境ラベルや環境報告書を中心に企業にヒアリングを行ったり、消費者に向けてはワークショップや講座を開催したりしています。このような活動をきっかけにして、生産者も消費者も製品のライフサイクルを考えるようになり、グリーンコンシューマーが世の中に増え持続可能な社会が実現することを目標としております。
現在、具体的な商品を5つ取り上げて調査研究中ですが、そのひとつに「紙おむつ」があります。実際に、店頭での「紙おむつ」購入者と、エコプロダクツ2007展来場者に購入実態調査を行いました。購入時の選択の基準は、「品質」や「価格」で、「環境」を挙げる人はほとんどいませんでしたが、関心のある環境項目を尋ねると、「紙おむつには紙パルプを使っているので、紙パルプの原料となる森林への影響」や「紙おむつを捨てるために、家庭ゴミの量が増えること」を挙げていました。しかし、現在売られている紙おむつには、ゴミとしての捨て方以外に、例えば使われている紙パルプがどこから来ているのかなど、原料調達に関する表示はないのが現状です。表示がないので、消費者は原料調達などに関心を持つことができないのではと考えています。
商品のプロフィールを知ろう!
活動のひとつとして、消費者が商品の情報にきちんと目を向けてもらうきっかけになればと「商品のプロフィールを知ろう」というワークショップを行っています。ワークショップのミニ講座では、木材製品やティッシュペーパーなどの紙製品の原料を考えるきっかけとして、環境省の違法伐採防止のポスターを使わせてもらっています。違法な伐採により禿げた死の山を目の前にすると、そこで初めて原材料のことを、木を伐る現場で働く人のことを、その森に守られ育ってきた多くの動植物のことまで思いが至るようです。「紙おむつ」は、いまや育児や介護に欠かせないものとなってきており、だからこそ、できるだけ地球環境に負荷を与えないものでなくてはならないわけで、現地の人々の生活や森林現場の生物多様性を守ることに加え、原料として使われる石油や紙パルプができるだけ少なくてすむような製品設計も不可欠となってきます。すでに、環境配慮設計に取り組んでいる企業もあるのでしょうが、それが消費者に伝わっていないということは、行っていないと受け止められても仕方がありません。また、情報の適切な提供方法は、対象となるものにより違いますが、「紙おむつ」のように、消費財で時間をかけずに購入判断するものの場合は、直接商品に載せるのが一番伝わりやすいでしょうし、流通や販売店でのポップも有効です。メディアを利用して人々に説明することも重要だと思います。
今こそ、官民双方からの仕掛けを
現在の「フェアウッド」や「違法伐採」に関連する情報提供の内容を見ていると、政府のグリーン調達に始まり、業界企業に向けての取り決めばかりが目につきます。消費者まで視野に入れた情報提供は少なく、実際、消費者まで届いているようには思えません。地球温暖化防止に対する日本の消費者の反応からも感じるのですが、残念ながら、得てして人は直接自分が痛みを感じることに対してしか熱心に取り組めないようです。自分が購入し、使っているすべてのものが直接的・間接的に地球環境や調達現場に暮らす人、働く人の生活に大きな影響を与えているという想像力が働きにくいのだと思います。しかし、誰も自分が購買すること、使用することで、地球環境や罪のない人を危機的な状況にしたいとは思ってはいないはずです。だからこそ、消費者に気付いてもらうべく、官民双方からの情報提供の仕掛けが、今こそ必要なのだと思います。
注1:1962年に米国の社会学者、ロジャース<Everett M.Rogers>教授が提唱した普及に関するイノベーター理論から