2.FSC認証の家づくり ~諸塚村森林認証住宅を手がけて
松下 修さん/松下生活研究所
~ フェアウッド建築セミナー2006 in東京 講演録 その2 ~
宮崎県諸塚村のFSC(森林管理協議会)認証材を使った家づくりを小さな工務店さんと一緒に行っています。熊本県で宮崎県諸塚村の木材の産直運動に1996年から関わっています。森林認証を取得したのは今年からです。今まで諸塚の木材で産地直送をやっても、熊本で一度もマスコミに取り上げられたことはなかったのが、放送局や新聞社が私たちの活動を初めて取り上げていただきました。熊本以外の材を使うということで取り上げてくれないのかと思っていたので大変嬉しい出来事でありました。
地域おこしから森林認証へ
自己紹介をまず簡単にします。私は今、51歳。熊本市で事務所をやっています。設立は1985年5月です。スタッフは2名で、うち1名が林産物のCOC認証をやっています。活動は、林業の再生と新たな木材流通システムの構築ということで、今日の話のテーマである諸塚村のFSC材を使った「生地の家職人'ネットワーク」をやっています。
同時に熊本県の小国杉(おぐにすぎ)を活用した製品市場と材木店を含めて新たな木材流通の構築にも取り組んでいます。他に無農薬、有機野菜や食材の流通とオーガニックな店づくりのプロデュースなどもやっています。1985年に建築設計事務所で独立しました。以後、店舗プロデュース等をしながら現在に至ってます。1994年に宮崎県の諸塚村で第6次産業の事業コンサルティングを始めました。「6次産業」というのは、1次+2次+3次=6次という意味です。
それから2004~2005年と、「ライフスタイル産業」や「コミュニティビジネス」などにも関わり始め、昨年から森林認証に関わった家づくりにシフトしています。建築プロデュースの一環として珪藻土などの自然素材を活用して、単に木材だけではなくて家自体が呼吸する家づくりが必要ではないのかということで、その方向へ進みました。友人からも「誰もいないからお前やらないか」と言われ、普及事業も一緒に始めました。林野庁九州森林管理局との共催で「新生産システムについての森林認証フォーラム」を人吉で開催もしています。約500名も集まったので、新生産システムに対する関心が高いのだなと感じています。
諸塚村で関わった事業をいくつか紹介します。「都市部とのネットワーク事業と交流を活かした家づくり」ということで、産地直送住宅の事業プロデュースや推進、あるいは「クヌギの森づくり事業と都市と山村を活かした地元学による地域づくり」や「バイオマス推進事業」です。地元学をすることで、諸塚村にある豊富な木材資源を活かした和紙作りの事業再生やランドスケープデザインをした公園の設計などにも携わりました。
宮崎県諸塚村との出会い
諸塚村の産直住宅に関わり始めたきっかけは、1996年に村の職員の方から「木材販売が不振で山が荒れて大変だ」と相談があったことです。木材自給率は、私が生まれた1955年には100%弱でしたが、1985年ぐらいに36%前後になり、現在は20%弱、2000年あたりで18.4%と、すごい勢いで落ち込んでいます。その流れの中で諸塚では急激に人口が落ち込んでいったのです。
皆、金の卵で都会に出て行ってそして新しい家をどんどんつくる。その家づくりの過程で洋風化した住宅が多くなり、木材・資材の輸入量が増え、それに伴って外材のコストが安いものが入ってきて変わっていったのだろうと思います。私たちの暮らしやライフスタイルの変化とともに国際競争商品としての木材の海外との競争の中で私たちの大切な山・森が荒れ、衰退していくという状況になったのだろうと思います。
諸塚村から相談を受けたのと同じ頃、12年ぐらい前になりますが、マレーシアの森林の実態を見に行きました。ボートに乗って奥地にどんどん入っていくと、夏の雨季だったのですが川が濁って全然底が見えないのです。そこはもともと木が豊富にある所だったのですが、木を切ってしまうものですから山が荒れて表土が流失し、川が濁ってしまうのです。奥地では木が切り倒されている様子や途中ボートに乗っている間にも大きな船で30分ごとに直径1メートルもある丸太がどんどん下って行く光景を見ながら、私たちの生活の中に使われるようになっているにもかかわらず、どういうふうに私たちの生活の中に入ってきているのか、その実態についてまったく知らないと強く感じました。
サラワクの人たちが命をかけて切って出した木が、結局薄いスライスになって我々のところで使われているのは悲しいと思いました。ひるがえって日本に帰ってくると山には木が途方もなくあります。山の人たちは「材価が安くてどうにもならない」と言う。はたしてこんなことでよいのだろうかと、いろいろと悩んだり考えたりしました。
木材流通への挑戦~山の話を背負って材を自ら売りにいく
図1 地元紙の熊日新聞の報道 (松下氏発表資料から) |
諸塚村役場や組合の人たちと一緒に福岡や熊本、鹿児島に行ってセミナーなどをやりました。そんな中で、私が建築の分野や店舗プロデュースにも関わっているものですから、熊本の小さなお店のお客さんから「事務所兼住宅を建てたい」という話があり、「ぜひ産直住宅をお願いできないか」と言ったら「意味はよくわからないがとにかく任せるから」と1棟やることになりました。
材は全然規格化されておらず、品質も安定していない。床板の厚さは40ミリと厚く、曲がったりする。友人の設計士は「嫌だ」と言う。その上に「なんで宮崎の材を使わないといけないのだ。熊本にも木材があるじゃないか」と言われました。色々とあったのですが、お客さんは満足してくれまして、同時に朝日新聞九州版に取り上げてもらいました。たった1棟だけれども、諸塚村の人たちはものすごく喜んでくれて、「よし、やるぞ!」という気持ちになられたようです。
産直住宅はこれまでに九州圏域で125棟ぐらい建てました。一般の住宅より、1棟あたり約2倍~2.5倍ぐらいの木材を使いますので、かなりの木材を使った家づくりになります。1棟あたりで30~40m3ぐらいになります。この木材使用量は、山側から見た木材の普及という意味ではいまだ1割にも満たないのです。諸塚村の森林組合加工所の年間12,000m3の2割が目標です。
諸塚の産直住宅の取り組みは、単に木材を売るだけではなくて、産地ツアーや山につくったモデルハウスの見学、あるいは山村文化や農業の体験も含めて、建主さんが諸塚村の森林文化や暮らしを感じながら木材流通の産直という形で展開しているのです。そこで感じたのは、小さな生産で小さな流通で、経済効果も大して与えていないですけれども、しかし地域経済にとっては大変重要なことではないのかなと思います。このような動きをきっかけにして諸塚にいろいろな人たちがやって来て、特産品の売り上げが上がり、村の皆さんの活気が増して色々な影響を及ぼしていくのだと思います。
再編は避けて通れない木材流通
図2 これからの流通の方向性 (松下氏発表資料から) |
何も大きな企業がやるだけではなく小さな工務店さんたちでも、「山を守るのだ」、そして「日本の木造住宅を続けていくのだ!」ということを一生懸命そして地道にやっていけば、仲間も増えて、年間150棟500~600m3ぐらいを扱うようになると山を守る影響力も出てくるのではないかと思います。ということで、諸塚だけではなく小国や人吉でも同じような試みを展開して、熊本から広げて九州全域で大きなシステムができればと思っています。
これからの木材・住宅市場を考えると一つの課題は、国が展開している新生産システムです。小規模経営が多く流通経路が複雑なため、低コストで大量供給を求める住宅メーカーのニーズに応じ切れていない日本の林業を抜本改革するために、森林所有者をまとめて経営を大規模化する、市場を通さず木材を低コストで売買する仕組みをつくるというものです。全国で11ヵ所、うち九州では4ヵ所で取り組まれています。家作りの中でホワイトウッドなど多く使われるようになり、国産材で建てる家は住宅全体の10%もあるのだろうかと状況です。国もこのままでは無理だと、だから新生産システムでいかなければいけないということで取り組んでいると私は理解しています。
もう一つ方向性としては、産地直送型やあるいは認証材を使った菊池建設さんのような例のように、利害関係を互いに共有し合っていく有機的に結ばれた「山の動きと連動した家作り」に見られる流通と、先ほどの大量生産型の大手ハウスメーカーに向かう新生産システムとに分かれていると思います。新生産システムだけでは材木店や工務店さんは淘汰されていき、5年後、10年後にはなくなっていくだろうと思います(図2)。
中小工務店の生きる道は認証にあり!
図3 中小工務店の認証に生きる道 (松下氏発表資料から) |
中小工務店のこれから生きる道は、「産直型地域工務店」や「ネットワーク型大工・工務店」などのように、小さくても力を合わせて認証制度をベースにして中小工務店は生きていかなければ難しいのではないのかと考えています(図3)。
認証の家づくりを進めるには、「有機的に結ばれた流通システム」と「森林認証木材を生かす家づくり」が柱になります。木材は温暖化の原因と言われるCO2を吸収し長時間ストックできる再生可能な資源であるが、日本を含め世界で使用されている木材の多くは環境に配慮せず違法に伐採されたものであるという問題がある。その解決のために健全な森林として正しく管理された森から来る木材が適切な流通を経て消費者へ渡る仕組みが必要です。
「森の見える流通と家づくりの構築」ということを展開していきたいということで、諸塚から始まった取り組みを小国町、屋久島へと広げていきたいと考えています。たとえ小さな取り組みでも、これらをネットワークしていけば、例えば九州全域で1,000棟、2,000棟という規模のつながりができ、海外の森林破壊や違法伐採の問題、国内森林の疲弊問題の解決に貢献できると考えています。
(2006年11月25日東京都内にて)
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