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1.主な樹種の生産地環境と木材のトレーサビリティ

フェアウッド・キャンペーン事務局/FoE Japan 中澤健一

フェアウッド建築セミナー2006 in東京 講演録 その1 ~

図1 G8諸国の違法伐採木材の輸入と主な生産国の
違法伐採の推定割合
(2004年推定)
 8000年前と現在を比較すると、世界に残された原生林は2割にまで減少してしまいました。これにより生態系は破壊され、多数の生物種が減少しています。森林の減少によりCO2の排出は増加しており、その量はアメリカ一国の排出量に匹敵するといわれています。この10~20年、森林の減少は国際問題になっていますが、その主要な原因の一つが違法伐採です。インドネシアやロシアの違法伐採が読売新聞にも採り上げられましたが、違法伐採はメディアでも問題になっています。一口に違法伐採といっても、いろいろあります。まず、伐採地における盗伐や、許可条件を超える伐採、加工流通時における無許可の操業、輸出における密輸および輸出認可証の不正取得や偽造などです。

 図1は違法伐採と貿易を図示したものですが、日本にはインドネシアやロシアなどから違法伐採材が入ってきています。日本の輸入材は年間7千万立方メートルですが、そのうち2割は違法伐採によるものといわれています。次に、主な樹種の生産地環境についてです。日本の木材需要は年間9000万m3でこの数年間安定的に推移しております。主な生産地は北米、ロシア、東南アジアです。北米からはベイマツ、ベイヒバ、ベイツガ、シトカスプルースなどで、丸太が多く、東南アジアからは合板が多いです(図2)。

図2 日本の木材需要
 まず、南洋材の生産地環境である東南アジアの森林状況をみてみます(図3)。これは東南アジアの地図ですが、濃い緑が原生林、赤が危機的状況にある原生林、薄い緑は2次林(1度開発されて草地になった)ところです。違法伐採や火災によって原生林はどんどん失われていきます(図4)。インドネシアの森林の減少は1980年代では100万ha/年、1990年代では170~200万ha/年、現在では300万ha/年と加速しています。

 図5はロシアの森林分布を示したものです。ここも緑の部分が原生林で、赤い部分が危機的状況にあるところです。東側[に二つ円が描いてありますが、これは主な日本への供給地です。バイカル湖の西側はイルクーツク州ですが、ここはアカマツの産地です。図6はイルクーツク州大手製材工場周辺の伐採状況を衛生画像で見たものです。至るところに薄緑の伐採跡地が確認できます。極東部のハバロフスク地方と沿海州北部では、カラマツ(ラーチ)、エゾマツ、トドマツなどを産します。 沿海州の南部ではナラ、タモなどの広葉樹に混じってチョウセンゴヨウなどを産します。世界的に注目されているのは、ロシアから中国に大量に輸出されている木材です。日本に輸出されている丸太の4倍の丸太が国境沿いの中国に輸出されているといわれています。安い中国の労賃で家具やフローリング、ドアに加工され日本に輸出されています。近年、中国製木材製品の輸入量は急激に伸びており、2005年中国は金額で最大の輸入先国になりました。

 次に北米をみてみましょう。米材の産地は太平洋沿岸部でオレゴン州、ワシントン州、カナダのブリティシュコロンビア州、アメリカのアラスカ州などで、伐採は次第に北部に移って来ました(図7)。樹種は、沿岸部はベイマツ、ベイツガ、ベイスギ、シトカスプルースなどで、内陸部はいわゆるSPFが生産されています。暖流のおかげで雨が多く、木の生長に適しています。現在でも原生林が皆伐されているところも多く、違法伐採ではないのですが自然生態系に悪影響を与えているとの懸念がされています(図8)。
図3 東南アジアの森林
(WRI, The Last Frontier Forests, 1997)
図5 ロシアの森林
(WRI, The Last Frontier Forests, 1997)
図7 北米の森林
(WRI, The Last Frontier Forests, 1997)
図4 国立公園での違法伐採
撮影 Telapak)
図6 大手製材工場周辺の衛星画像 図8 アラスカ州南東部の伐採地
(撮影 FoE Japan)

 続いて日本の森林です。日本の東側はブナおよびナラ、西側はシイやカシが主な植生となっています。最近ではスギやヒノキが増え花粉症の問題になっていますが、適切に管理されれば下草も生え美しい森が形成されます。ヒノキは手入れを怠ると、すぐ真っ暗な森に変じ、雨や台風の影響を受けやすくなります。大雨が降ると土砂崩れを起こし森林がむき出しになると風折れを起こします。このようなことにならないようにするには、木材の需要者が生産地の確認をしていくことが求められます。

図9 世界の木材展
 日本の木造住宅の典型を考えて見ます。柱は杉で日本・茨城県出身、梁はベイマツでアメリカ・ワシントン州出身、下地はラーチ合板でロシア・ハバロフスク出身、筋交はベイマツでカナダ・ブリティッシュコロンビア州出身、間柱は北洋赤松でロシア・イルクーツク出身、土台はベイヒバで米・アラスカ州出身といった具合です(図9)。このように日本の木造住宅は世界の木材展のようになっているのですが、森林関係へのインパクトをいかに最小限とするかの観点からは、まず、樹種を調べていただきたいです。品質だけでなく生産地を調べていただきたいです。ワシントン条約に登録されていたりレッドリストに登録されているような貴重種でないか確認し、もし、貴重種であれば速やかに代用樹種に切り替えてもらいたいと思います。

 次に原産地のリスクです。原産地が違法伐採の多い地域の場合は、木材が違法伐採のものではないか、伐採業者は誰なのか、伐採地までのサプライチェーンを確認していただきたいです。伐採地が確認できたら伐採が森林環境への負荷の高いものでないかどうか、天然林が大規模に切られていないかどうかの森林管理の内容を確認していただきたいです(図10)。こういったものを確認するツールがトレーサビリティであり森林認証制度です。そしてこうして選んだ木材は無駄なく、長く、大切に使用していただきたい。

 原産地の森林が見えるように、フェアウッドキャンペーンでは「森林の見える木材ガイド」(http://www.fairwood.jp/woodguide)というものを作っています。木材別、用途別、原産地別で森林の状況が見られるようになっています。違法伐採リスク、絶滅危惧リスク、森林環境負荷、耐久性、輸送負荷という五つの指標から木材を五角形のレーダーチャートで評価しております。是非、ご活用願います。

図10 サプライチェーン管理をするには?
 樹種を確認した後、木材のトレーサビリティを担保する方法としては
 * 森林認証制度によるサプライチェーン管理
 * バーコードやGPSなどによる生産履歴確認
 * 生産地との直接契約取引 などがあります。

 森林認証制度とは、FSCとかSGECなどの認証団体が森林経営のレベルを判断する基準・指標などを開発し、森林が適切に管理され伐採されていることを、これら認証団体に認定された審査機関の専門家が現場に赴き、管理体制を基準・指標に基づいて審査し、認証を与えるものです。認証は森林管理者に対しては森林管理のレベルを担保するものでFM認証とよばれます。FM認証を受けた木材は、流通業者、加工業者、卸売業者、小売業者へと回っていきますが、認証を受けていない木材と混ざらないように分別管理することが重要です。この分別管理が適切に行われていることを認証する仕組みをCoC認証と呼んでいます。認証された木材はラベルが貼られ消費者まで届けられます。

 FSCの場合、10の原則があります。SGEC(日本国内のもの)には7基準があります。双方には共通点もあり、基本的な法律を遵守すること、認証の対象森林が明示されていること、生態系への配慮、地元の住民・労働者に配慮されていること、森林生態系の生産力および健全性の維持など、環境、社会、経済の面から審査を行っております。世界にはこのほかにも様々な認証制度があります。FSC(国際)、PEFC(国際)、SFI(北米)、CSA(カナダ)、LEI(インドネシア)、MTCC(マレーシア)、SGEC(日本)などです。

図11 世界の認証森林面積の推移
(出典:http://www.forestrycertification.info)
 世界では認証森林面積が急速に広がっており、2005年末で2.3億haです。世界の森林面積が40億ha弱ですから認証林比率は約6%です。認証材の供給量は丸太総生産の2割、3万5千万立方メートルになっています(図11)。このように認証材は世界的に普及期に入ってきていると思います。国際的な違法伐採対策の進展により、認証材が政府調達や貿易規制の取引条件になりつつあります。欧米の需要側企業でも木材調達方針で認証材導入目標を設定しています。 日本でも紙業界で、2003年ごろから木材調達方針が広がりつつあります。日本政府は2006年4月より改正グリーン購入法を施行し、施行国への木材製品は合法性確認が必要になりました。自治体、ゼネコン、大手ハウスメーカーにも追随の動きがあり認証制度が認知されつつあります。認証制度はメディアにも取り上げられるようになり、建築では静岡の菊池建設がSEGC認証材の家を建てて成功していますし、熊本では「生地の家」職人ネットがFSC認証材の家に取り組んでいます。木材のトレーサビリティのツールとしては、バーコードやGPSがあり、 静岡の天竜地域では葉枯らし・天然乾燥材を、立木からバーコードで流通履歴管理をしており、大分・福岡では、個人の建築家と山林所有者が、GPS端末やGPS携帯電話を活用して実証試験をしています。

 最後にフェアウッド調達のポイントをまとめます。
1. 違法伐採による木材は扱わない
  ① 生産地・樹種に応じた違法伐採のリスクを確認
  ② 認証制度、合法証明制度の活用
 2. 持続可能な森林経営からの木材調達を推進
  ① 生産地・樹種に応じた森林環境影響リスクを確認
  ② 森林認証材の利用推進
 3. 国産材の積極利用
  ① スギ・ヒノキ・カラマツはリスクが低い
  ② 国内人工林活用の社会的要請

 国内林の成長量は国内の木材需要量と同じくらいあるのですから、ぜひ国産材を使っていただきたいと思います。ご静聴ありがとうございました。(2006年11月25日東京都内にて)

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