マレーシア、サラワク産木材、本当に「合法」ですか?
FoE Japan
森林プログラム 三柴 淳一
2007年3月27日の朝日新聞1面に、マレーシア、サラワク州からの丸太輸送に関して日本の海運会社がサラワク州政府関係者と深い関係のある香港のブローカーに「仲介料」を支払っていたことが報じられました(注1)。
東京国税局はこの仲介料を便宜を図ってもらうためのリベートだったと認定し、海運会社に対して追徴課税を課したとのことです。リベート支払いを指摘された海運会社は、商船三井近海、関西ラインなど海運カルテルの南洋材輸送協定(NFA)に加盟する9社(注2)で、支払われた仲介料は1996年から2005年までの10年間だけで少なくとも約25億円を超えるとのことです。海運各社は、その仲介料を現地での荷積み費用などの「輸送原価」として経費計上していましたが、国税局は、これを悪質な所得隠しと認定したのです(注3)。
このニュース、一見「ビジネスの黒い部分が暴露されただけのどこにでもありそうなニュース」と捉えられがちですが、実は日本政府や私たちにとっても重要な要素が隠れています。以下、その要素について見ていきましょう。
サラワク州政府関係者はこうして関与していた!
まずは、仲介料を受けとっていた香港のブローカーと、サラワク州政府関係者との関係について確認しておきましょう。
図1 サラワク丸太輸送をめぐる構図 (朝日新聞紙面から(2007年3月27日)) |
DNS社とRS社との関係で明らかなのは、RS社の取締役、シャー・キン・コック(余建國)氏とDNSのオン氏とが共同で株を保有し(シャー氏が1%、オン氏が99%)、リッチホールド・インベストメント社を経営していることと、リッチホールド・インベストメント社はRS社と同じ住所、同じ電話番号で登記されていることです。
つまり、RS社に入る仲介料がそのままリッチホールド・インベストメント社、もしくはオン氏、さらにはタイブ首相に流れていると断定はできないのですが、極めて近い関係であり、正当な経費とは見なし得ないと国税庁は判断したものと思われます。
サラワク州において木材輸出は主要産業の一つで、森林資源は連邦政府ではなくて州政府が管轄しています。タイブ・ビン・マハムド首相は1981年に就任して以来、26年に渡る長期政権を維持し、森林資源を管轄する州政府機関の要職も兼任することで、影響力を行使しています。
重要な要素1 ~OECD勧告「公務員への贈賄」への抵触では?
ここで重要なのは、海外の州政府高官の汚職疑惑とはいえ、日本企業が直接的に関与していることです。公務員の汚職対策に関しては、国際社会の合意事項として認識されている経済協力開発機構(OECD)の取組みがあります。1996年に「外国公務員への賄賂の課税控除に関する勧告」を採択し、外国公務員への賄賂の課税控除を認めている加盟国に対し、この課税控除を廃止する意図でその法律の見直しを勧告したものです。1997年には「国際商取引における贈賄の一掃に関する勧告」も採択され、1996年の勧告を更に強化しています(注4)。
今回のサラワク州の事例は、こうした国際社会の合意事項に抵触しているとも考えられます。
重要な要素2 ~マレーシア政府による「合法性」の信頼性、透明性に疑問符が?
さらに重要なことは、こうした汚職状況が疑問視される州の政治体制下で生産された「合法木材」は、信頼性・透明性の面で問題はないのでしょうか?
まず、日本-マレーシア間の木材貿易における主要品目は丸太と合板です。林野庁の2006年木材輸入実績によれば、丸太輸入量は105万m3で丸太総輸入量の約1割にあたり、その76%はサラワク州産です。合板では日本の合板総輸入量430万m3のうち、約6割の243万m3がマレーシア産で、142万m3(33%)のインドネシア産と合わせ、90%をその2カ国産が占めています。さらに木材総輸入額においてマレーシアは、昨年の中国を抜いて第1位でした。つまり木材貿易において、マレーシアは大変重要なパートナーであります。
また日本政府は国際社会の要望に応えるべく、2006年4月よりグリーン購入法を通し、合法木材のみを取り扱うことで違法伐採対策に取組んでいます。この取組み状況について日本輸入協会では、昨年度後半(2006年10月~2007年3月末)において合法性の証明された木材取扱量に関し、合板については81%が合法性証明されていると報告しています(日刊木材新聞2007年6月23日)。つまりマレーシア産合板の大半は合法性が証明されていることを意味します。
ただし、ここでいう「合法性」とは、マレーシア政府が規定した輸出許可証「Custom Form II」の有無のみで確認されているもので、必ずしも伐採権取得背景、伐採地の施業状況、そして丸太・製品の流通状況等が詳細に確認されたものではありません。
仮に、州内における現行法規制が十分に機能していたとしても、その法規制を制定した政治体制自体に疑問符がつく場合、その「合法性」の信憑性について、第三者の公正・公平な視点による評価を抜きに、正当な判断は不可能です。
こうした状況下において、輸出許可証のみで何のチェック機関も通さずに「合法材」として認めることは、国際社会において日本政府の「合法性」に対する認識水準を、著しく悪化させるものではないかと危惧します。
深刻化?するスキャンダル発覚後の状況
今回の新聞報道について、その事実関係を確認するため、サラワクキャンペーン委員会、アジア太平洋資料センター、FoE Japanの合同で、国会議員にお願いし、国税庁の担当者へ問い合わせたところ、担当者の回答は「国税庁では守秘義務の関係で一切コメントすることはできない」というものでした。
このリベート問題、マレーシア、サラワク州側では、大きな事件として捉えられ、問題発覚後、野党の人民公正党(PKR)のリーダーたちは2007年4月、汚職対策庁(Anti-Corruption Agency)とクチン中央警察署にタイブ・ビン・マハムド首相を告発しました(注5)。
これに対し、タイブ首相側はその告発が名誉毀損だとして、その中心的役割を果たしたPKR顧問弁護士・人権弁護士のシー・チーハウ(See Chee How)氏と、このスキャンダルを大きくインターネットで取り上げたインターネット新聞社のMalaysiakiniのスティーブン・ガン(Steven Gan)氏を、翌5月に名誉毀損で訴え、すでに召喚状が発布されました。
現在、起訴された両氏は、クチン高等裁判所に対して、抗弁の陳述を行い係争の最中です。
皆さんはこのケースをどうお考えになりますか?
木材業界の方々は勿論ですが、私たちも家具、フローリング、内装(ドア、棚、窓枠など)によく見られるマレーシア産木材製品を利用する消費者として、責任ある消費行動を真剣に考えるべきではないでしょうか?
注1:朝日新聞2007年3月27日朝刊1面、同日夕刊1面、20面、3月28日夕刊1面、23面に掲載
注2:南洋材輸送協定(NFA)とは、東南アジア産丸太の安定輸送や過当競争の防止を目的に1962年に発足した不定期船のカルテル組織。運賃や輸送量などを加盟社間で調整している。現在は12社が加盟している。2005年の丸太取り扱い量は約72万m3。これは2005年南洋材丸太総輸入量の51%を占める。また72万m3の約6割弱はサラワク州産である
注3:今回、国税庁が各企業に追徴課税を課したのは、税法上可能な7年前までだが、リベート支払いは、NFAがDNSと協定を結んだ1981年から続いていたものである。またサバ州からの丸太輸送に関しても類似のリベート支払い制度があったようだ
注4:OECDホームページ(http://www.oecdtokyo.org/tokyo/observer/220/220-12.html)より
注5:しかしながら、警察や汚職対策庁による立件はまだ済んでおらず、タイブ首相を被告とする正式な刑事訴訟にはまだ至っていない
> マレーシア・キニ(Malaysia Kini) WEBサイト
> 合法木材ナビ(違法伐採対策協議会) WEBサイト
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