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2.ラオスの森林事情 
    ~変わり行く森とともにある暮らし

日本国際ボランティアセンター(JVC) ラオス事業担当 川合 千穂


ラオスの概要
 ラオスは東南アジアの内陸部に位置しており、タイ、中国、ベトナム、カンボジアに囲まれている。国土の70%が山であり、森林率は周辺国と比較しても高い(注1)。日本の本州ほどの面積におよそ560.9万人(注2)の人口が暮らす。 主な民族はラオルムと呼ばれる低地ラオ族であるが、49と多くの少数民族が暮らしている。およそ80%が農村で自給自足の生活を営んでいる。

JVCとラオス
水牛
写真1 ラオスでは依然水牛が健在
(ナボー村)
 日本国際ボランティアセンター(JVC)は1989年からラオスにて国際協力の活動を行っている。元々は1970年代後半にラオスやベトナム、カンボジアの内戦から逃れて来た人々によって出来たタイ国境沿い難民キャンプにおける支援活動がきっかけでJVCが設立された。1986年にベトナムではドイモイ、ラオスではチンタナカーンマイと呼ばれる経済開放政策が始まり、国際社会に門戸が開かれた。難民キャンプで活動していたJVCもこれを機に本国へと帰還する難民の支援調査を行い、それをきっかけにラオスにおける活動が始まった。

 当初、乳児死亡率が高いことに着眼し、村の生活改善を行う、生活改善普及員を養成していた。村における様々な問題、これに対し、どうやって自分達で解決していくのか。生活改善普及員を通して、家庭菜園、養鶏、トイレ作り、井戸作りなど多様な活動が実施された。数年に渡って農村に関わる中で学んだのは、ラオスの村人にとって、森がいかに重要かということであった。

森の機能 ~フードセキュリティ
 村で生活調査を行うと、多くの世帯で1年の内3ヶ月~半年は米不足の状態にあることが分かった。しかし、飢える人はおらず、森の資源がその不足を補っていた。森の中の竹の子やきのこ、果樹など様々な林産物を採取していたのだ。また、これらは現金収入ともなっており、林産物はラオスの村人にとって、重要なフードセキュリティとなっていた。

 これは現在においても変わらない。2005年に対象村にて世帯における林産物調査を行ったが、およそ127種の林産物が村人によって食料や建材、現金収入源として利用されていた。ラオス政府による調査でも67-79%の村人が栄養源として林産物を消費しており、ナカイ-ナムトゥン保護エリアにおける調査では、村人の現金収入の75%は林産物販売から得ていることが報告されている(注3)。ラオスの森が村人の生活を支えている。この森を守るための活動が1993年、村人からの声をきっかけに始まった。

ラオスの森林問題 ~所有権
村の大木
写真2 ホアイタート村の大木
 ラオスの森は村人の生活を支える重要な資源にあふれているが、問題はその森の権利が村人に無いことだった。当時、村の大木が村人の許可無く伐採される事例があちこちで起きていた。「森は自分達にとって重要だ。しかし、問題は自分達の森を持てないことだ。
 村の森を自分達のものとしたい」。社会主義であるラオスの土地は国家の所有となっている。森を伝統的に使用してきた村人にとっての問題は、常日頃利用している自分達の森に対する権利が無いことだった。このため、外部から開発事業が入ると、村人に許可無く伐採されることがあった。

 1995年、森林法にはあったが、当時まだあまり実施されていなかった森林の権利委譲(Forest Allocation)を行政と共に行い、村人が森の権利を持つことができるよう、正式に森の登録を行う作業を開始した。1996年からは土地の区分および配分を合わせて行うことになり、現在、土地森林委譲(Land and Forest Allocation, LFA)として実施している。土地森林委譲実施後は、村の境界線が確定し、それぞれの森の区分(利用林、再生林、保護林など)が決まり、村の森として正式に登録され、森の管理義務が課せられるとともに、利用権が村に委譲される。

 村の森を守るための土地森林委譲は1996年より移動式焼畑農業の抑制を目的にラオス政府の政策として推進されており、全国でおよそ48%(2000年) の村落で終了している(注4)。10年を経過して、現在、土地森林委譲事業(注5)に関しては、特に、北部やベトナム国境沿いの山岳地帯で行われている。しかし高地の少数民族を低地に移す移転政策と合わせて実施されることから、少数民族の貧困化を招いている実態が報告されている(注6)。焼畑農業については様々な議論があるものの、山岳地帯においては現在も地域にあった農法として定着している。

 問題は土地森林分配事業によって、耕す土地が固定されてしまい、10年位の間隔を空けて利用してきた土地を、3年などの短い周期で使用せざるをえなくなることだ。樹木や植生が復活する間もなく利用することから、土地の劣化が起き、雑草の繁茂や、収量減少という悪循環は、貧困化に拍車をかけている。

多様な所有権問題 ~土地を巡る紛争の増加?
 山岳地帯では問題となる土地森林委譲も、JVCの活動する中部エリアでは、比較的平地が多く、タイやベトナムと隣接しているため開発事業が急増する中、村人のニーズは増している。今年6月、突然、JVCラオス事務所にFAXが届いた。土地森林委譲を実施して欲しいというある村からの依頼だった。早速、調査に向かったところ、その村では、隣村の村人が自分達の森に勝手に入って、林産物を採取したり、土地を開墾して農地にしているため、村の境界線を確定させ、これを取り締まりたいということだった。

 隣村では植林事業に土地を提供してしまったため、自分達の村に余分な農地が無くなり、その一方で、人口増加による農地の需要に対応できずに隣村へと進出せざるをえなくなったという背景があった。また、過去に隣村で行政により土地森林委譲が行われた際に、近隣村を交えての境界線確定が行われておらず、不満を持つ結果になっていることが分かった。

 この村の土地森林委譲に関しては、まず、近隣村との境界線問題を解決する作業から始めた。現在、豊かな林産物を有する森が減少している中で、ともに譲らず、最終的に少し隣村に土地を譲ることで合意した。

 ラオス政府は2020年までに最貧国から脱却すべく、国家成長貧困削減政策の元、経済発展を推進している。JVCのカムアン県における活動は、1989年からの生活改善普及員の養成から数えてすでに18年となる。この間、様々な変化を経験してきたが、近年、変化の勢いは激しい。特に、2005年3月に国際社会から批判の多かった大型ダムであるナムトゥン2ダム建設に対して、世界銀行やアジア開発銀行が支援を決定してからは、外国投資による開発事業が急激に増加している。ある村では、中国資本によるセメント工場が強引な土地収用の元に始まった。また、別の村では、ベトナム企業による石膏採掘事業が村人の許可無く進められている。

 今年に入ってからも植林事業による土地提供のプレッシャーに脅かされる村、隣の県に入った植林事業に追い出される形で軍隊が駐留地を移転し、これにより森が無くなることを懸念した村への調停など、様々な問題が噴出している。ラオス全国を見れば、タイやベトナム、中国によるゴム植林が各地を席捲している。大小入り乱れての乱開発にラオス行政もついに今年5月、100haを越す大型コンセッションに対し、事業許可停止を宣言するに至った。

国家開発・発展の影に潜む新たな問題
トレーラー
<写真3 木材トレーラー(タケク村)
 土地森林委譲を実施した後、村は森の権利を確保できるはずであった。しかし、国家の発展の名の元に実施されるダム開発などの国家事業に対し、村人は将来の生活を不安に思いながらも受け入れざるを得ない。

 企業などの開発事業に対しては、その権利を主張するものの、警察を伴ってのプレッシャーを受けて、事業を受け入れざるを得なかったり、行政からは事業を受け入れなかった場合の要求をちらつかされるなど、村人は反対の意を表明することができない。一党独裁の社会主義体制もあり、沈黙するラオスの村人に比べて、タイなどの周辺国では植林や開発事業に対する住民の反対運動も多く、補償額も高額になるため、住民運動も無く安価に事業が実施できるラオスに産業が流入してきている。ラオスの村人の生活基盤である森を開伐しての鉱物開発や植林事業は、脆弱な村人の食料自給を損ね、より厳しい生活へと追いやる可能性を秘めている。

 日本に暮らす私たちはこれらの問題と無縁なのであろうか?

 実は、1990年代初めまで多くの木材がラオスから日本に輸出されていた。私は2003年4月から1年半近く、ラオスにて農村開発事業に従事していた。東京から来たスタッフが、ラオスの森が豊かであるとコメントしていたことをラオス人スタッフに話すと、彼は「こんなものはラオス人は森とは呼ばない」。

  30代半ばになる彼が子供だった頃、ラオスには直径2メートル近い大木がたくさんあったこと、人々は森から様々なものを得て暮らしてきたことを語った。「ほら、あの切り株を見てごらん。昔はあんなに大きな木があちこちにあったんだ」。では、その木は一体どこへ行ったのか?私のこの質問に対し、即座に「知らないのか、皆、日本に行ったんじゃないか」。

日本の関わり、「国際協力」、「社会貢献」 ~その裏側にある真実にも目を向けて!
 現在、ラオスから日本への木材輸出は減少している。一方で、2005年より現地企業を買収した日本の企業が、JVCの活動地とも重なるエリアで植林事業を開始している。この植林事業には「社会貢献」として十数社が投資もしている。日本は経済発展した国として「国際協力」の名の元に、多くの援助も行っている。

 しかし、元々自立した生活を営んできたラオスの人たちが、昔からの暮らしを維持できなくなっているとしたら、その理由は何なのか。開発事業により森林や河川など脆弱な環境はいとも簡単に破壊されていく。「貧困削減」と称しながら、貧困を生み出している状況を目の当たりにする時、世間で流れる通説はいかに真実から遠いものであるかを知る。

 アジアの、そして世界の資源を飲み込む日本。私たちの消費社会の行く末は、結局自らの子孫への負の影響として返ってくることをどこかで立ち止まり、考えるべきだろう。物事は一方向からのみ見るのではなく、時、場所を越え、様々な方向から検討されるべきだろう。ラオスの人々はどのような将来を望むのか。この問いは私たち自身にも向けられている
注1: 森林率:2005年の森林面積は、ラオス69.9%、タイ28.4%、中国21.2%、ベトナム39.7%、カンボジア59.2%。(出所:State of the World's Forests 2007, FAO)
注2: 2005年国勢調査。出所外務省各国・地域情勢(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/laos/data.html)
注3: 主な栄養源:カルシウム4%、鉄分20%、ビタミンA, C 40%(Lao national non-timber products strategic and action plan project 98/012.2003)
注4: 出所:めこん社「ラオスの開発と国際協力」, 第8章森林の利用と保全, 北村徳喜
注5: 多くの文献では「土地森林分配事業」と訳されている。ラオス語でも委譲を示す「Mop」よりも分割を示す「Ben」が行政により使用されている
注6: 主な報告としては、Asian Development Bank [ADB]. 2001. Participatory Poverty Assessment. Lao People's Democratic Republic.                         
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