3.生産国の環境・社会リスク評価報告
~マレーシアの熱帯材における環境・社会問題~
環境系コンサルタント会社
: RESCU(マレーシア) Lim Tze Tshen
図1:半島部の民族分布 |
マレーシアの森林
マレーシアは大きく2つに分けられます。西が半島部、東のボルネオ島にはサバ州とサラワク州という2つの州があります。50を超える伝統的なコミュニティがマレーシアには存在しており、半島部の民族は図1のように分布しています。図の赤い点は先住民の村の所在地を示しています。サバ州、サラワク州の方がより多様(図2)で、様々な民族が生活しており、これもマレーシア全体が生物多様性のホットスポットである1つの指標だと言えます。
森林形態も様々なバリエーションがあり、半島の北部はタイ、ミャンマーの森林と似ており、半島の南部ではサラワクの森林に似ています。また、サバ州近辺の小さな島々は、フィリピンの多様性ホットスポットに属しています。これらのうちかなりの数のマレーシアの森林、特にマレーシア半島部では、MTCC(マレーシア木材認証協議会)又はFSC(森林管理協議会)の認証を取得しています。これらの森林にはたくさんの固有種が生息し、豊かな多様性を誇っています。
リスク評価による地域比較
図2:サバ州、サラワク州の民族分布 |
第1の指標、「伝統的・市民的権利の侵害」の項目1つ目、「国連安全保障理事会による木材輸出の禁止措置の有無」についてマレーシアに関してはないので、これは問題ありません。
2つ目の項目は、「先住民を巻き込んだ大きな紛争が森林地域で起こっているかどうか」ということですが、現在までの紛争のうち大部分が先住民を巻き込んでいます。これは半島部、サバ州、サラワク州のいずれも同様の事が言えます。
規模については、訴訟を起こすのに十分なケースであるとマレーシアの人権委員会がみなし ているものもあります。
また第3の項目にあたりますが、これらの多くは多数の利害関係者が関わっており、サバ州でのケースのうちマレーシア人権委員会にもたらされる苦情の約80%が土地問題に関連しています。これらの問題のうち1万件以上の主要な原因が、先住民の土地所有権の調査が未調査である事に起因しているのです。
また、4つ目の項目、国や地区そのものが伐採業に関する紛争地区として指定された事はありません。
第2の指標は、「保護価値の高い森林への脅威」です。皆さんはマレーシアの森林の中でグローバル200エコリージョンに入っているものが存在するか、ご存知ですか? もちろん存在します。合計で8個所存在し、6つの陸域保全地域、2つの海洋保全地域として指定されています。非常に脆弱な地域もあれば、安定している地域も存在します。
さらに、2つ目の項目、ホットスポットとしてはマレーシア全土が生物多様性のホットスポットに属すると考えられています。
また3つ目の、我が国の指定する「森林」が広大な天然林を含んでいるか、又は含まれているかという項目に関しては、半島部、サバ州、サラワク州いずれも広大な天然林が存在しており、半島部では相対的に低脅威となっています。
保護価値の高さに関しては、現在マレーシアではイニシアティブが2つ存在します。1つはWWFマレーシアが始めたもので、「林業部門を通じた、マレーシアにおいて信頼に足る保護価値の高い森林ツールキットの開発」があり、現在ドラフトを配布して検討中です。2つ目は、サバ州でダーウィン・イニシアティブというイギリスから資金援助を受けているものがあります。なおこれは王立植物園(キュー植物園)、プロフォレストも支援をしています。
第3の指標は「遺伝子組み換え樹木」に関するものです。現在マレーシアの商業農園のうち、遺伝子組み換え樹木があるでしょうか?これはNoです。
第4の指標、「違法伐採」ですが、大規模な違法伐採が森林地域で起きているかどうかという指標です。WWFマレーシアが発表している多数のレポートによると、大規模な違法伐採に関する報告は出ていません。
2つ目の 「大規模違法伐採が行われている森林地域由来の木材や木材製品が加工取引されているかどうか」という項目に関しては、半島部、サバ州、サラワク州、全ての地域でインドネシアの木材・木材製品を買い取って加工しています。EIAやTelapakインドネシアなど様々な環境NGOが調査したところ、大規模な違法伐採がインドネシアで行われており、その木材がマレーシアに輸入されている事が判明しています。
具体例として、特に広葉樹であるラミンに関してお話したいと思います。このラミンという種はスマトラ、ボルネオでよく見られる樹種で、これがマレーシアにおいて疑念の的となっています。2001年の時点では、インドネシアのラミン資源が急速に枯渇していることが判明し、自然の再生能力を超えるレベルというレポートが発表され、全てのラミンの輸出を禁止することになりました。また、ラミンをCITESのAppendix 3への登録申請を行いました。その後2004年、CITESの全加盟国の合意を得られ、更に保全のレベルを上げAppendix 2に登録することが決定しました。これによりCITES加盟国では輸出、輸入をする際は許可証が必要になり、インドネシアとしても2001年にラミンの輸出を禁止していますが、実際にはラミンがマレーシアへ違法に輸出されているということが判明しています。2003年、EIAとTelapakは、インドネシアからマレーシア半島の南、バトゥハットーという港を経由してラミンが違法に輸入されていると発表しました。また同年10月、マレーシア税関当局がインドネシアのカリマンタン島付近で10トンのラミンを押収し、その発表を裏付けました。
最後の第5の指標、「土地利用転換」に関してですが、これは「天然林がプランテーション、あるいは非森林用途へ転用されること」という意味です。まず、森林から供給される樹種が在来種であるかどうかという項目ですが、全木材の約90%以上の森林が在来種のフタバガキで構成されており、ごく一部のパラゴムやアカシアなどがマレーシア起源でないものです。
「転換することは合法かどうか」という2つ目の項目に関しては、現在マレーシアでは、天然林を商用農園、非森林用地へ転換することは、自然保護区の外であれば合法なのです。
「森林地域で非森林利用への大規模転換が実施されているかどうか」という3つ目の項目に関しては、サバ州とサラワク州では森林被覆率が高いということもあり、東マレーシアの方が転換の規模も大きく、スピードも高くなっています。また、サバ・サラワク州政府はアブラヤシ農園を推進していますが、半島部ではそういうことを行っていません。
このような地図分析を行いましたが、相対的に見て半島部についてはサバ・サラワク州の脅威よりは「やや低い」と判断できますが、これら3つの地域はとてもノーリスクとは考えられません。特にサバ・サラワクについては天然林の割合がまだ高く、さらにこれらの天然林がこれから伐採される、又は転換予定となっていることから、東マレーシアの方はやはり「リスクが高い」と判断せざるを得ません。
では今からやるべきことは何でしょうか? 日本などの消費国の国々に申し上げたいのですが、基礎情報として出てきたこの報告書のデータを参考に、マレーシアの各地域から木材調達をする際は、どういったリスクがあるのかという事を考えて頂きたいと思います。日本側から強い圧力をかければ、すなわち合法認証された木材を買うのだと日本が意思表明すれば、サプライヤー側にも伝わり、認証材・合法検証材を供給するようになると思います。
定性的リスク評価
第2部では、定性的リスク評価の結果を報告します。この評価はFSC基準を参考に、生態リスク、環境リスク、政治的・管理的リスク、生活・人権リスク(特に先住民関連)、そして紛争・闘争リスクという項目に分け評価しています。最初に結論を申し上げますが、このFSC基準で判断すると、木材の調達に関してマレーシアは低リスクとは言えません。
森林管理活動で最も懸念される事はHCVF(保護価値の高い森林)の保護ができているかどうかということです。マレーシアのほとんどの森林伐採区域はHCVFではないのですが、HCVF関連の法整備のイニシアティブは2つしかなく、まだ始まったばかりで十分であるとは言えません。
永久保護林のすぐ外側では、土地開拓が行われているということが問題として挙げられます。国内での違法伐採は比較的少ないのですが、先ほど申し上げましたようにインドネシアから違法性の高いものが輸入されマレーシアに入ってきている事も問題です。また、全ての問題に高級官僚と伐採会社の間の汚職が絡んでいるのではないかと示唆されています。そして、先住民の権利については州法が侵害しているのではないかという指摘もあります。これらを考慮すると3つの地域は共にハイリスクであり、特にサラワク州が懸念されています。マレーシアは紛争木材地域として分類されていませんし、林業セクターでの児童労働もみられません。しかし、林業労働者の基本的権利ということでは、交渉の権利が制限されています。また工場でも言える事ですが、林業でも事故の割合が高いという事実もあります。
マレーシアの合法性検証システム
次に法的な検証システムの評価について説明します。3つの地域はいずれも、合法性の検証システムを持っていますが、制度上それぞれ異なったものを使用しています。さて、ではこの検証システムにおいて、法的なキーとなるのはMTCCという、マレーシアの木材認証協議会です。この団体は森林管理(FM)と加工流通管理(CoC)認証の両方で中心的な役割を果たしています。この協議会によるFM認証を持っていると、MTCCに定められている基準・指標に準拠しているという事と、合法性が同時に保障されています。また、CoC認証がある場合には、製品に使用される原材料の大半がMTCC認証された森林に由来することが保証されるという仕組みになっています。
具体的に森林管理の合法性の検証について申し上げますと、様々なステークホルダーとの協議も行った上で、独立した機関が森林管理の実行状況や、直面する問題あるいはその影響を審査し評価を下すということになっています。その後審査報告書が作成され、必要に応じて是正措置要求(CAR)が記載される事になります。大幅なCARがある場合には森林は是正が行われるまでは認証されない事になっています。またこの評価報告書は、MTCC査定員によるピアレビューを経て5年間の有効期間を得るわけですが、継続的な遵守を確認するため、定期監査を受けることになっています。
次に木材加工業界の認証として、CoC認証について説明します。これに関しては2つのシステムがあります。1つは物理的な分離システムで、非認証材、認証材を混合する際にはっきりとそれが分かる様に、例えばペイントなどで表示するものです。そして、もう1つのシステムは最低平均割合システムで、非認証材と認証材の混合を一定の割合までであれば認めるというシステムになっており、サプライヤーはどちらかを選ぶ事が出来ます。ただ、伐根から最初の加工地点までに関しては対象外であり、州の管理する移動証に依存するという仕組みであります。
マレーシアにはMTCC以外にも合法性検証システムがあります。1つはFSCで、マレーシアにはFSCの認定を受けた森林が2つあります。サバ州のデラマコ保存林、半島部のゴールデンホープ・ゴム農園です。もう1つの合法性検証システムはPEFC森林認証プログラムです。そして、EU(欧州連合)の森林法施行・ガバナンスと貿易(FLEGT)に関する行動計画。そして最後に挙げるのが、WWFグローバル・フォレスト・トレードネットワーク(GFTN)で、国内にはマレーシア支部としてマレーシア・フォレスト・トレードネットワーク(Malaysia FTN)があり、GFTNの一部として活動しています。
まとめ
では、マレーシアはフェアウッドの基準に照らしてどうなのかという結論に入ります。まずフェアウッドの基本4原則のうち、最初の原則「合法性」は「、伐採から通関まで一連の流れがカバーされているかどうか「ということですが、マレーシアの現行のシステムで合法性に関し一番弱いところは伐根から最初の加工場までの所です。これは、運送許可証がCoCのために導入されてはいるものの、主な役割は使用料の徴収に特化しており、サバ州、サラワク州においてはこれを使って伐根まで辿れない事が大きな原因となっています。
フェアウッド原則の2番目は、「森林所有・管理・木材生産に関わる者が、合法的な権利を所有しているかどうか」ということですが、これはMTCC認証評価の大きな問題点となっています。何故ならばMTCCの認証を受けた森林について先住民族との紛争が見られるケースがあり、現状ではこの原則に合致しているとは言えません。
3番目のフェアウッド原則は、「ワシントン条約など国際的条約に定められている事項を木材生産チェーンに携わる全ての者が遵守しているかどうか」ということですが、ラミンが輸入されてきているという事実があります。これは違法性が高いと考えられ、従ってCITESの強制力に対しては疑問がもたれています。またマレーシアはCITESに批准していないとは言え、サラワク州ではラミンがインドネシアと同じく再生できないくらい伐採されています。また、ラミンがインドネシアから違法に輸入されているということもあり、この原則にも残念ながら合致しません。
最後に4番目のフェアウッド原則は「手数料や税金などがきちんと支払われているか」ということです。これは、マレーシア政府、各州政府、MTCCがきちんと明言をしている通り、生産、輸送、加工、流通、貿易に義務づけられています。
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