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2.世界のキー・プレイヤー中国で違法伐採対策を議論 ~欧州・中国FLEG会議報告

(財)地球・人間環境フォーラム研究員 京極 絵里


 「森林法の施行とガバナンス(FLEG)に関する欧州・中国会議」が2007年9月19、20日の2日間、中国・北京で開かれた。FLEG(Forest Law Enforcement and Governance)についてはこれまで、2001年に東アジア、2003年にアフリカ、2005年には欧州・北アジア、各地域で閣僚会議が開かれ、それぞれ閣僚宣言と行動計画が採択されている。

 今回の会議には各国の政府のほか、中国国内外の企業や団体、環境NGOなど、30数カ国から200人以上が参加した。主要議題は①世界の森林の持続可能な管理における森林法の施行とガバナンス、②木製品の持続可能な貿易、③持続可能な森林管理および情報共有促進の現状、で数多くのプレゼンテーションと意見交換を通じ、世界各地で横行する違法伐採を食い止めるという広範なコンセンサスが確認された。

世界の木製品市場のキー・プレイヤーである中国
 違法伐採は、東南アジアやアフリカ、南米など、森林資源が比較的豊富で、森林法の施行およびガバナンスが不安定な国に広がっている。それによる影響は森林生態系の破壊や森林火災の増加などの環境面だけでなく、木材価格の低下や汚職・腐敗など、経済・社会面でも深刻だ。

 そして近年では、激増した中国の木材需要により、世界の木材市場は一変した。2005年の中国の木製品の輸入量は1997年の3倍にも達した(丸太換算)。そして、今後10年の間にその量はさらに倍増するとの予測もある(注1)。最大の輸入元は違法伐採のリスクが非常に高いとされる隣国ロシアで、輸入量全体の約50%を占めている。そして輸入された木材の約70%が世界各国に再び輸出されるのである(注2)。

 中国はいまや世界の木製品の輸入大国であり、合板や家具など木製品の加工工場であり、さらに海外市場に向けた巨大な輸出拠点でもある。そしてその市場と消費は、世界の原生林破壊や違法伐採にも深く関わっていると国際的に厳しく批判されている。そうした背景から、世界の森林の持続可能な管理についてキー・プレイヤーである中国で今回の会議が開催された意義は大きい。

急ピッチで法・システムの整備に取り組む中国政府
 中国国家林業局の賈治邦局長は、開会スピーチの中で「中国政府は世界の違法伐採問題を解決するため、森林の持続可能な管理を積極的に支持し、特に国際協力を重視している」として、2007年8月末、林業局および商務部合同で発表されたばかりの「中国企業境外可持続森林培育指南(海外の持続可能な森林育成に関わる中国企業のためのガイドライン)」を紹介した。これは、中国企業が国外で森林の開発・育成に従事する際、持続可能な生態系の保護および現地コミュニティーの発展を十分考慮し、現地の経済・社会および森林資源の持続可能な発展を推進するよう指示するものである。さらに、現地の法律を遵守し、林地を保護し、違法な用地の転用などを行わない等、現地コミュニティーの森林回復や地元住民の生活向上に貢献するよう強調している(注3)。中国企業のグローバル化に伴い、その海外での違法な操業も問題視される中、このガイドラインがどの程度実効性を持つのか、今後注目される。

 また、森林認証制度についても2007年8月には国家基準が完成し(原則9、基準45、指標118)、10月1日から適用されている(注4)。同林業局は2001年に作業グループを設置し、以来、積極的に独自の認証システムの策定に向けて検討を続けてきた。FSC(森林管理協議会)については2006年3月に中国事務所が開設され、同年末までに4つの森林管理単位が44万ヘクタールの森林に対し認証を受けた。CoC認証についてはこの2年ほどの間に取得数が急増しており、2006年末時点で304の木材加工企業が認証を受けている(注5)。

 さらに、2006年11月には中国財政部と国家環境保護総局により「環境マーク製品政府調達リスト」が発表され、中国政府のグリーン調達制度が正式にスタートした(注6)。同リストには、14種類の製品が挙げられており、その中に合板等の「人造木質板材」、「フローリング材」、「家具」、の3種類の木製品が含まれている。

 このように、中国の政府レベルでは違法伐採防止および環境基準を考慮した木材調達のための取り組みが急ピッチで整備されており、今後巨大化・グローバル化した中国の木材市場にいかに普及・浸透させられるかが課題となるだろう。

環境面でも「国際標準」を狙う中国企業
 一方、中国国内の企業についても一部ではあるが、責任ある木材貿易と世界の森林資源保護というEU(欧州連合)諸国を中心とした業界の流れに遅れを取るまいと「国際標準」に狙いを定め、積極的に動き始めている。今回の会議では、そのような企業の取り組みも紹介された。

 主にロシア材の原木・板材を扱う「煙台西北林業有限公司」(本社:山東省煙台市)は、独自の「持続可能な開発戦略」を策定、ロシア国内で衛星によるモニタリングを実施し、伐採後の森林火災防止やゴミ処理対策などに関する規定も作成している。同社は対ロシア投資企業の上位10社に入る企業で、トムスク州の森林約450平方キロについて25年間の伐採権を所有している。また、現地の労働者を積極的に雇用しており、伐採現場の管理・技術に関わる人材の97%以上は現地の人である。同社の趙新波副総経理は「ロシア国内の法規制に厳格に従い、現地の持続可能な資源管理に取り組んでいる。今後は日本や韓国の市場にも進出し、国際的な木製品の生産・加工企業を目指したい」と話していた。

 また、アジア最大級のフローリング材生産を誇る「広東yingbin大自然木業有限公司」(本社:広東省佛山市)の余学彬総裁はプレゼンテーションの中で森林認証について、「国内の業界内では一歩先を進んでいると自負している」と述べた。同社は2006年12月にFSCの認証を取得しているが、すべてのサプライヤーに対してもその認証基準に従った審査を必要条件としている。同社は市場に流通するFSC認証材が十分でないため、他の認証材についても積極的に扱っており、余総裁は「数年のうちに扱う原材料の100%を認証材にするのが我が社の目標」と強調した。

 このほかにも会議には木製品の加工・流通に携わる中国国内の企業関係者が多く参加しており、業界の積極的な姿勢と意欲が感じられた。国際市場を狙う彼らは、EUを中心とする顧客が要求する違法伐採対策の必要性も認識している。森林認証についても「その概念は理解できる」と話す。しかし、「認証コストが障害になるのでは」、「認証システムが複数あるのはわかりにくい」などの意見も出され、「中国の国内企業にもっと世界の動向について情報提供してほしい」と政府に対する要望の声も挙がっていた。

日本の政府、業界・消費者も厳しい視点を持ってさらなる行動を
 世界の森林資源の保護と持続可能な利用に向けてEUなどの一部の国では、違法伐採の取締りの強化、合法性証明システムや木材追跡システムの開発、税関協力など具体的な取り組みが始まっている。今回の会議の内容を受けて、今後EUと中国も、二国間および国際的な協力に向けた議論をさらに進めることになる。中国国内の業界関係者も「今回得た情報を今後の市場戦略に生かしたい」と意欲的だ。

 しかし、違法伐採とその関連する貿易はEUと中国だけの問題ではない。中国の重要な木製品輸出先である日本も、その重要性についてさらに認識を深め、これまで以上に積極的に行動することが求められる。

 今回の会議には、筆者以外日本からの参加者は政府・業界ともにいなかった。各国の参加者の間では2006年4月に改定され、実質的に動き出した日本政府の「グリーン購入法」も注目されていた。前述のように、2006年、日本に続き中国でもグリーン調達制度がスタートしているが、「世界の先陣の経験を参考にした」というモデルにイギリスやフランス、デンマーク等の政府調達方針と並び、日本も挙げられている。日本政府は今回のような国際会議の場で、その日本独自の取り組みをPRし、違法伐採対策に対する意欲を示すことも必要なのではないか。

 一方、この「改正グリーン購入法」により、日本の関連業界は森林認証取得や団体認定を受けるなど、「合法性証明」に対する関心は高まった。しかし、政府のガイドラインに従った「合法性証明」だけでは依然、生産国や加工国内での違法行為までチェックができるとは考えられない。

 木材市場はいまや中国抜きでは語れない。最近問題になっている食品の安全性のように「チャイナフリー」を主張するだけでは意味がない。今後、日本政府はそのリーダーシップにより、日本の業界団体を後押しして、中国など加工地を含めて違法伐採が問題となっているロシアや東南アジアなどの生産国での持続可能な森林経営を支援するため、関係国との対話をより深めていくことが求められる。

 そして、業界や消費者は中国からの木製品に対し、世界の森林環境を破壊するリスクが高いことを認識し、「安かろう悪かろう危なかろう」という厳しい視点を持って、責任ある購買を心がけることが必要だ。

注1: China and the Global Market for Forest Products, 2006, Forest Trends
注2: David Cassells, The Nature Conservancyアジア・太平洋森林プログラム ディレクターのプレゼンテーションより
注3: 国家林業局ホームページ 
http://www.forestry.gov.cn/zlzlgl/hydt/content.asp?id=92
注4: 国家林業局ホームページ http://www.forestry.gov.cn/subpage/content.asp?lm_Tname=zwgk&lmdm=4000&f_lmname=%E6%94%BF%E5%8A%A1%E5%85%AC%E5%BC%80&id=2537
注5: 北京林業大学の宋維明副学長のプレゼンテーションより
注6: 2003年に「政府調達法」が公布されており、政府部門のグリーン調達の実施が明確に要求されていた                        
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