日時:2010年3月5日(土)14:00-16:00
場所:Café&Bar 「ゴルビィ」
フェアウッド・アイテム 多種多様な国産材を生かした木の家作り
話し手:木原 巌さん(木童代表)
フェアウッド・メニュー 自然の恵み満載!早春の山菜料理
話し手:橋本明朱花さん(マクロビオティック料理研究家)
☆講師プロフィール
木原 巌さん(木童代表)
木材用保護塗料の営業マンを経て、ウッドコーディネーターになろうと1994年に木童を設立。林産地が廃業に追い込まれるくらい原木価格が安くなっているのに、都市部のユーザーには国産材は高価で使いづらいと言われる、ねじれた現象を解決するべく、双方の正しい“想い”を届けることを使命に、木材のプロフェッショナルとして全国の山を訪ね歩いている。
橋本明朱花さん(マクロビオティック料理研究家)
2009年末まで東京・代官山でマクロビオティックのカフェレストラン「Asuka」を経営。「Eating for peace」をコンセプトに日々の食事を通して水や森を守ることを提案。2歳から母親のマクロビオティック料理を見よう見真似で作り始める。オーストラリアに4年間の留学の後、「Asuka」をオープン。季節感のある、旬のオーガニック野菜を生かした斬新な創作料理を得意とする。ブログNature Chef Asuka
ついに最終回となったこの日のキーワードは、「日本の森の多様性」。多種多様な国産材に魅せられ、そのコーディネートをしている「木童」代表・木原巌さん(写真)にお話いただきました。自称“木のソムリエ”の木原さん。日本の木にまつわるさまざまな知識、雑学が飛び出します。そしてコーヒーのお供は、冬を越えて大地に芽吹いた、こちらも多種多様な山野菜。参加者の皆さんは、好みの野菜を選んでそれぞれにオリジナル・サンドイッチを作り、日本の野山の多様性を五感で楽しまれていました。
さまざまな国産材を適材適所で
木原さんが「日本の木材の素晴らしさを多くの人々に伝えたい」と木童を設立したのは、1994年。以来、多くの住まい手に、多様な国産材を適材適所で使った家づくりをコーディネートしてきました。日本人が使う木材の量は年間おおよそ1億8,000万立方メートルで、国内にはこれを十分にまかなえる山林があります。ところが、安価な輸入材志向によって国産材の需要は減り、日本の山は適切な管理がされず荒廃の一途です。「先人が植えた木を使いたい」という木原さんの思いはなかなか報われませんでしたが、「わかってくれる人は必ずどこかに居る」と信じて続けてこられたそうです。
国産材の魅力は、何といっても多様性です。日本は、南北に長いこと、標高差が大きいことから、冷帯から亜熱帯まで6つの気候が分布しています。従って、森の植生も多様なのです。森の木といえば一般によく知られているのは戦後植林されたスギ・ヒノキですが、実は土地ごとにさまざまな樹種が存在します。さらに、林地には腕のいい生産者や製材者がたくさんいます。国内各地の環境に合った質の高い家ができる条件はそろっているのです。
木原さんは、これまでに手がけた建物や木材の写真を映し出しながら、お話を続けます。
「長野県小諸地方のカラマツは、ねじれながら伸びるので、製材後はコンクリートの重石を乗せて矯正します。石川県にヒバが多いのは、かつて加賀藩が青森ヒバの苗木を植林したためで、製材した残りは輪島塗のお箸にされます。ちなみに、雑菌の繁殖を抑えることで知られるヒノキチオールは、ヒノキにはほとんど含まれず、最も多いのは青森ヒバです」。「岩手県のクリは、生長が早く食用になるため、飢饉に備えて多く植えられました。水に強いためデッキや床板に向き、JRでは、この木だけは防腐剤なしで枕木に使っているそうです」。
木原さんの木のお話は、まだまだ尽きません。「熊本県のかねり杉は、『最高に質がいい』という私の宣伝が効いたのか、日本で一番高価な原木になりました。住吉神社の宮司に本殿の建て替えを相談され、この木を使ってもらいました」。湿度の高い場所には能登ヒバを、先祖が徳島出身だという人には徳島産のスギを、といった具合に、木原さんは場所により人により、木をチョイスして家作りを提案します。また、お客さんへのプレゼンテーションでは、国産材を使うと輸送時のCO2排出を抑えられることや、それぞれの住まいに適した材の特徴や産地、背景、竣工後の手入れ方法まで書いて渡しているそうです。
近年は国産材の需要が高まって、2000年に約20%だった木材自給率は2009年には約28%にまで上がっています。木原さんは、「日本の木の良さが少しずつ見直されています。樹齢60~80年の木が一番使いやすいのですが、今、ちょうど戦後植林して60年です。『山や、山の人々が喜ぶことは何だろう?山の木を喜んで使うことだ』そう思って、これからも仕事していきます」と、お話を締めくくってくださいました。
ちょっぴり苦い早春の山野菜
皆さんお待ちかねの軽食タイムは、代官山でオーガニック・レストランを経営していた橋本明朱花さんにご登場いただきます。実は講座の始まる前から下ごしらえをしていた明朱花さん。手元の食材の種類の多さは、木原さんご紹介の国産材に負けていません。「早春のお野菜には、苦味のあるものが多いです。とても身体にいいので、東洋では昔から喜んで食べてきましたね」と話す明朱花さんが用意してくださった野菜と山菜は、すべて福島県産。生で出すのは、ウド、ウルイ、サラダホウレンソウ、オカヒジキ、セロリ、アイスプラント、ラディッシュ、ブロッコリースプラウト、そしてミニトマト。エリンギ、タラノメ、ニンジン、カブは、スライスしてオリーブオイルで炒めました。これらを自由にパンに挟んでサンドイッチにしていただきます(写真)。
味付けは、素材の苦味を引き立てるニンニク風味のヒヨコマメのディップと、プルーンとバルサミコ酢の甘酸っぱいドレッシング(下記レシピ参照)。サクラのお皿に盛られた野菜の色鮮やかさに、参加者の皆さんからは「すごーい!」「美味しそう!」と歓声が上がり、携帯電話で写真を撮る方もいらっしゃいました。
この日のパンは、東京・青山の「pain au sourire」で、白神山地の天然酵母を使ったパンを焼いている須藤宏幸さんによるもの。ふんわりもちもちとした食感が特徴です。森林農法で生産されたコーヒーとともに召し上がっていただきました。
☆自然の恵み満載!早春の山菜と天然酵母パンのサンドイッチプレート
【レシピ1】 ヒヨコマメのディップ
1. ヒヨコマメをゆで、フードプロセッサーで攪拌する。
2. ニンニクとフキノトウをきざみ、オリーブオイルでソテーする。
3. 1に2とレモン汁を加え、フードプロセッサーで攪拌する。
【レシピ2】 プルーンとバルサミコ酢のドレッシング
1. ドライプルーンをお湯に漬けてもどす。
2. フードプロセッサーに、1で柔らかくなったプルーンと、バルサミコ酢、レモン汁、ブラックペッパー、塩を入れて、攪拌する。
質問タイム~続・木の雑学~
サラダをいただきながら、講座は質問タイムに移ります。「木のことなら何でもお答えします」という木原さんに、参加者の手が上がります。「土台からすべて国産の杉で建てたら、いくらくらいかかるのか」という質問には、「坪当たり6万円でできます」と木原さん。半信半疑の参加者に、木原さんは「昔は高価だったが、20数年値上がりしていない。だから今はけっこう安いんです」と説明してくださいました。
まな板やお風呂の壁にカビを生やさないコツは、「窓をちょっと開けておくこと」。また、樹種に向き不向きがあり、まな板にはヤナギ、湿気のある部屋の壁にはヒバが一番いいそうです。最後に、長年家作りに携わってきた木原さんから”とっておきの”アドバイスをいただきました。「床材だけはお金をかけた方がいい。今まで手がけた家の入居者は皆スリッパをはきませんが、その方がずっと気持ちいいんです。休むという字は、人に木と書きます。木を上手に使って、安らぎのある家に住んでほしいものです」。
都内でアルバイトをしている女性(42歳)は「木材も野菜も、日本にはたくさんの種類があると知って感動しました。早春の山野菜が美味しいのも、四季があるから。日本の良さを見直しました」と感想を話してくださいました。
☆今日のキーワード【国産材】
日本は、雨に恵まれている、南北に長く高低差がある、列島の中心にある山脈が日本海側と太平洋側を分けていることなどから、地形が複雑で、国土面積が狭いものの多様な気候帯をもっています。この気候帯を反映して、例えば、沖縄の亜熱帯の多雨林にはマングローブ、九州の暖温帯の照葉樹林にはカシやシイ、本州の冷温帯にある落葉広葉樹にはブナやナラ、北海道の亜寒帯の常緑針葉樹のエゾマツ、トドマツといった具合に、よく知られているスギやヒノキだけでなく、多種多様な樹木が地域ごとに特徴のある森を構成しています。そして、日本に暮らす私たちは、自分たちの手近にある樹木を建築用材や燃料などとして暮らしに利用し、森と近い関係を築いてきました。
しかし、これらの日本産の木材=国産材の利用は、戦後の木材自由化、グローバル経済の広がりの中で外国産の木材(外材)におされてしまい、昭和30年には95パーセントだった自給率が、ここ数年は20パーセント前後に落ち込んでいます。その結果、特に人の手入れを必要とする人工林は荒れると同時に、地域で養われてきた森を活用するノウハウが失われているのが現実です。そこで、日本の森を元気にするために、国産材をもっと利用することが求められています。
(写真:左から、白神山地のブナ林、埼玉飯能のスギの人工林、宮崎諸塚村の針広い混交林)
【協力】 カフェ・バー ゴルビィ(フェアウッドカフェ提携店)
店舗や住宅の解体の際に出てくる都市木材を積極的に活用する、インテリア・木工職人集団「ラケルメジェール」さんが経営するカフェ&バー。木の暖かみを感じられる都会の中の山小屋をイメージした空間をコンセプトに、様々な都市木材を生かしたテーブルやチェア、キッチンウェアやテーブルウェアが使われています。
TEL:03-3779-1091
【主催】 フェアウッド・パートナーズ
URL:www.fairwood.jp
Eメール:info@fairwood.jp
TEL:03-6907-7217(FoE Japan 中澤・中畝)/03-3813-9735(地球・人間環境フォーラム 坂本)
※本講座は環境再生保全機構・地球環境基金の助成を受けて実施しています。