日時:2011年2月5日(土)14:00-16:00
場所:Café&Bar 「ゴルビィ」
フェアウッド・アイテム Forest Stool (コミュニティ林チーク材のスツール)
話し手:大山 典保さん(有限会社テラス代表取締役)、三柴 淳一(フェアウッド・パートナーズ)
フェアウッド・メニュー バレンタインスペシャル!フェアトレードのチョコレート&コーヒー
話し手:藤岡 亜美さん(ナマケモノ倶楽部共同代表)
☆講師プロフィール
大山 典保さん(有限会社テラス代表取締役)
1992年清水建設株式会社入社。本社調達部にて主に木材の調達を担当。2000年同社退社後、チーク家具イスタナテラスを立ち上げ、2004年有限会社テラスを設立、代表取締役就任。現在イスタナテラスの他、インドネシアチーク家具の企画・卸し販売を行いながら、チークのトレーサビリティーに努める。
藤岡 亜美さん(ナマケモノ倶楽部共同代表/スローウォーターカフェ有限会社代表)
学生時代からナマケモノ倶楽部のボランティアとして南米エクアドルでコーヒーやサイザル麻製品の生産者と出会い共に活動をはじめる。大学卒業後、 エクアドルとのフェアトレードを展開するスローウォーターカフェを設立。同国の農村、山村の人びとと、食品や雑貨などを 共同企画、輸入、卸売を展開。
8回目の今回、焦点を当てたのは、インドネシア・ジャワ島で現地の住民が管理しているチーク材です。丸太で安く売られていた材に付加価値を付けようと、ガーデンファニチャーを扱う(有)テラスとフェアウッド・パートナーズが開発したスツールをご紹介。開発に関わったメンバーに、チーク材の魅力や現地への熱い思いをお話いただきました。そして、コーヒータイムのお供は、バレンタインデー直前ということでチョコレート。エクアドルとのフェアトレード事業を展開しているスローウォーターカフェ(有)の代表である藤岡亜美さんに、カカオ豆からチョコレートを作っていただきながら、現地の森や住民の生活について話していただきました。チョコレートの産地に思いを馳せた参加者の中には、バレンタインデーの計画を変更する方もあったようです。
出所履歴の明らかなチーク材を
チークは、アジアの熱帯モンスーン気候に生息するクマツヅラ科落葉高木の総称で、高さは30~40メートルにもなります。材は密度が高く油分を多く含むため、耐久性に優れ、船舶の甲板や屋外家具にも適しています。使うほどに味わいが増し、独特の質感と風合いをかもし出す銘木として、世界中で愛されてきました。日本には主に、インドネシアとミャンマーから輸入されています。
そんなチーク材の履歴を追跡し、インドネシアの正規ルートで購入された材にこだわるだけでなく、FSC-CoC認証工場で製品を作っているのが、今回お話いただく大山典保さん(写真上)が代表を務める(有)テラス(以下「テラス」)です。扱う商品は屋外で使われるテーブルやチェアーといった家具なので、材はチークに限ります。が、仕入れルートの追跡が困難なミャンマーチークは一切使っていません。今回、同社社員の永竹弘幸さん(写真下の中央)と、大山さんと公私ともに親交のあるすわ製作所の代表・眞田大輔さんも、応援に駆け付けてくださいました。
木材加工で付加価値アップを試みるジャワ島東部のコミュニティ
最初に、フェアウッド・パートナーズより三柴淳一(写真上、右端)より、ジャワ島で地域住民が管理・運営している森林=「コミュニティ林」についてご説明します。
従来、熱帯林の減少や劣化に対策を講じる主体で多いのは政府でした。が、それ以上に森林保全効果が高いと注目されているのが、地域住民による森林経営です。森林の管理から産物の利用まで、住民で行います。
今回のプロジェクトでチークの産地として、フェアウッド・パートナーズが支援しているジャワ島東部・グヌンキドゥル県のコミュニティ林。村人たちが管理しているチークやマホガニーの植林地でインドネシアの森林認証LEIを取得したものの、認証材としての付加価値がつかないまま安い価格で販売され、持続的な森林管理が難しい状況でした。
ところが、現地住民には丸太のまま売ってきた経験しかなく、付加価値を付けるノウハウがありません。それでは収益が低いため、一気に切り尽くされて環境や人びとの暮らしが崩壊する恐れがあります。そのため、フェアウッド・パートナーズでは、現地NGOとともに、木材加工のためのキャパシティビルディングや市場開拓のための支援をし、国際市場に乗せられる商品作りを目指すことになりました。その過程で協力いただいたのが「テラス」で、このほど「Forest Stool」の試作品完成にこぎつきました。
家具販売の立場でできること
ここで、話し手は大山さんに代わります。大山さんは数年前にフェアウッド・パートナーズのメンバーと出会い、「フェアウッド利用の大切さをエンドユーザーに伝えながら売っていかねば」と思われたそうで、HPや店頭で積極的にフェアウッドをPRしています。
グヌンキドゥルは、木を切って売るという習慣のない、一般的な農村地帯です。里山のような森があり、おじいちゃんが植えたチークを、孫の進学や結婚の際に切って換金する、といった使い方をしてきました。現地のNGOの努力でコミュニティ林にはなったが、一気に切られないよう材に付加価値を付けたいというフェアウッド・パートナーズの考えに賛同し、大山さんたちは商品化のお手伝いすることになりました。
デザインは、東京・多摩地域で使われずに荒廃している山のスギを「Tokyo Wood」と銘打って椅子などを作っている“フェアウッド仲間”の眞田さんに相談。編み出したのが、屋外で火を囲んでくつろぐことをイメージしたスツールです。3本のチーク材を金具でつなぎ、座面には天然の皮を張ったシンプルなつくりで、近々一般販売する予定になっています。
チークの魅力は、何といっても経年変化の美しさです。室内で使うとあめ色に変わり、屋外だと長期間実用できて、空間に重厚感を加えます。油分をたっぷり含むため、汚れてもたわしで洗ったり、紙やすりで少しこすったりすれば新品同様によみがえります。一方、大量生産されている安価な家具は、時間がたつと防腐剤がはげるなどして見苦しくなります。「テラス」の商品は長年使うと愛着がわくため、引越しなどで手放さなくてはならなくなっても、「もったいないので再び売ってください」と持ち込まれるお客さまもあるそうです。
「10年前に事業を始めたときは、安価な商品が好まれ大苦戦しましたが、ようやく最近、国内の店にも置いてもらえるようになった」と、大山さんは価値観の変化を感じている様子。「木が育って家具になるまでのプロセスや背景を実際に見て、お客さまに伝え、『大事に使います』と言って買っていただくのが、本当の商売なのでは思います」と締めくくってくださいました。
エクアドルの森と人の暮らしを守るチョコレート
続いて、フェアトレードを通じて熱帯雨林の保全に取り組んでいるスローウォーターカフェ(有)の代表、藤岡亜美さん(写真上)にご登場いただきます。藤岡さんは最初に、エクアドル産のカカオ豆を参加者に配ります。「チョコがなぜこんなに美味しいのか、森に入るとすぐにわかります」と、カカオの枝に大きな実がなっている写真を見せてくださいます。
「見てください、神々しいですよね」。藤岡さんは、そんな森のパワーが直接現地の生活を潤せたら、と、チョコレートをフェアトレードする会社を設立しました。「お手元の豆、皮をむいて返してください。現地ではそのままお金になるものなので、絶対に持ち帰らないでくださいね」と、会場にチョコレート作りへの参加を促します。そう、この日のスイーツはこの豆から藤岡さんが作ってくださるのです。
フライパン片手に、藤岡さんはお話を続けます。「カカオは森林農法で有機栽培し、加工も仕上げも全て現地で行います」。「現地」というのは、エクアドルの首都・キトの南方、ボリバル州にある標高3,700メートルのサリナス村。以前は先進国による露天掘り鉱山や焼畑の繰り返しで荒廃し、村は過疎にあえいでいました。1970年代、イタリア人神父の指導で酪農が導入されたのを機に、次第に有機農業が広がりました。
そんな村を、農作物に付加価値を付けることで支援しようと、藤岡さんはカカオ栽培とチョコレート作りを住民らに提案。カカオの栽培法はパパイヤやバナナ、アボカドといった多種類の樹木の中でカカオを育てる森林農法です。こうすれば、今ある森を壊さない形で、カカオが不作の年も他の作物で収入が得られます。そんな藤岡さんの呼びかけに応じた農家は350戸。スイスの工場から“お下がり”の道具を譲り受けて加工施設を建設、チョコレート作りが始まりました。当初苦戦した衛生管理はマニュアルを作って徹底し、完成品の包装まで現地で行ったものを直接日本で販売します。村の女性たちの支援のために編んでもらった袋も「かわいい」と好評で、今では都内の百貨店でも販売されています。サリナス村では、長年見られなかったキツツキが戻ってくるなど、自然環境も改善しているそうです。
トークタイム
途中、フライパンでパチッと音を立ててはぜるカカオ豆。会場に香ばしい香りが広がります。藤岡さんには引き続きチョコレートを作っていただきながら、講座はトークタイムに移ります。
トークタイムは、再び大山さんらにご登場いただき、フェアウッド・パートナーズの三上雄己(写真上、左端)が進行します。
三上:インドネシアでは、お金のためにチークを植えているところもあったが、最近は「森からの水も大事だから簡単には切りたくない」という住民が増えてきた。家具の周辺はどうか?
大山:安い家具がすぐにだめになって愛せなくなり、「次は背景のあるものを」と買いに来られる方が多い。その「背景」をいかにわかりやすく伝えるか、我々の工夫が必要だ。
参加者:エンドユーザーが「この木はどこから来ているのか」と聞いてもいい?
三上:それがベストだが、対応できる店はほとんどないのが現状。
永竹:生産地を聞くのは、消費者の当然の権利。テラスでは将来、商品に冊子やDVDを付けたり、webでストーリーを見せたりしたい。
バレンタインデーを前に
トークタイムの途中、藤岡さんお手製のチョコレートが完成します。まだ熱く、ペースト状のため、クラッカーに乗せて配られました。皆さまには、こちらも森林農法のコーヒーと一緒に召し上がっていただきます。目の前でカカオ豆から調理されたチョコレート。珍しい経験の記念か、写真を撮る方もいらっしゃいました。
講座が終わると、藤岡さんのチョコレートコーナーは大人気に。皆さん、家族や恋人へのお土産を楽しそうに選んでいらっしゃいました。通信会社に勤める女性(39歳)は「ミャンマーの木は使わない方がよくて東京の木は使うべきだといったこと、全く知らなかった。無知から環境破壊に加担するのは恥ずかしいこと。こうした情報が広く消費者に伝わればと思う。カカオ豆に触れて初めてチョコレートの背景を想った。バレンタインデーは手作りするが、材料のチョコは背景を考えて買おうと思う」と感想を話して下さいました。
☆今日のキーワード【コミュニティ林業】
熱帯林の減少と劣化は続く一方です。熱帯林を抱える途上国で、いかにして持続的な森林管理を達成するか、模索が続いています。
かつて、南米アマゾン、東南アジアのボルネオ島やスマトラ島など、どこまでも広がっていた熱帯ジャングルでは、様々な先住民族たちが、狩猟採集や伝統的な焼畑農業を営んできました。しかし、19世紀からの植民地時代以降、各地で中央集権的な森林管理がとられるようになりました。木材資源を効率よく海外に輸出するために、企業に伐採権を与えて森林の伐採が行われるようになります。森林資源は徐々に利権と腐敗の温床となり、林産企業が海外からの資金(融資)も集めながら、賄賂と引き換えに伐採権や開発権を得て、大規模な伐採と森林開発が加速していきます。森林開発のために移民の入植も進められました。
森とともに暮らしてきた先住民たちは、どんどん狭くなる森の中に追いやられてきました。木材による利益は企業を通じて海外に流れていく一方、先住民たちは森や土地を奪われるだけです。森が奪われれば、必然的に現金を得て生活せざるを得ません。あるいは、少なくなった森林で短いサイクルで焼畑をせざるを得ません。そうして、伐採権を持たない住民が不法に伐採して生活費を稼いだり、同じ土地で焼畑を繰り返したりすることによって、住民みずからも森を劣化させていくということになりました。さらに、不法に伐採された木材を集めて国際市場に密輸するブローカーが暗躍するようになると、違法伐採と違法貿易がますます組織的・犯罪的に行われるようになりました。
こうした変遷の過程で熱帯林の急速な減少が国際的に問題視されるようになると、欧米や日本など海外の融資機関が圧力をかけ、中央集権的な森林管理を見直す動きが広まります。しかし、森林管理が地方分権されると、さらなる混乱をきたすようになりました。地方の役人に森林法の理解や森林管理の技術・資金が不足したまま、森林資源開発の利権が生じたため、伐採権や開発権が無秩序に乱発されるようになりました。
このような過程を反省し、森林環境を維持・回復しながら、地域住民の生活を守ることを目的として、かつてのように、地域住民による森林の共同管理をしていこうというのが、コミュニティ林業です。森林から出る副産物の利用についても自分たちで管理・運営します。
☆フェアウッド・メニュー 【フェアトレード!エクアドルのチョコレート】
香りの高いボリバル州サリナス産のオーガニック・カカオを使用。チョコレート工場の技術は本場スイスから導入、「スイスのチョコレートよりもおいしい」とも言われるほど評判です。カカオを焼き、溶かし、混ぜ、袋詰めをする。原料供給だけでなく、製品化までの全行程がサリナスで行なわれています。
【協力】 カフェ・バー ゴルビィ(フェアウッドカフェ提携店)
店舗や住宅の解体の際に出る都市木材を積極的に活用する、インテリア・木工職人集団「ラケルメジェール」が経営するカフェ&バー。木の暖かみを感じられる都会の中の山小屋をイメージした空間をコンセプトに、様々な都市木材を生かしたテーブルやチェア、キッチンウェアやテーブルウェアが使われています。
TEL:03-3779-1091
【主催】 フェアウッド・パートナーズ
URL:www.fairwood.jp
Eメール:info@fairwood.jp
TEL:03-6907-7217(FoE Japan 中澤・中畝)/03-3813-9735(地球・人間環境フォーラム 坂本)
※本講座は環境再生保全機構・地球環境基金の助成を受けて実施しています 。