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vol.4 武蔵野の平地林の恵みをフル活用

日時:2010年10月2日(土)14:00-16:00
場所:Café&Barゴルビィ
フェアウッド・アイテム 三富の広葉樹材の家具&小物
話し手:高村 徹さん(木工家具デザイナー、高村クラフト工房
フェアウッド・メニュー 川越イモのスイートポテト

 ☆講師プロフィー
髙村 徹さん(木工家具デザイナー、高村クラフト工房
1989年、武蔵野美術大学短期大学部工芸デザイン専攻科卒、木工作家に師事。1998年、高村クラフト工房設立。1999年、東京・新宿OZONEタワー内「工房家具ギャラリー匠の杜」常時出展。朝日新聞社主催「暮らしの中の木の椅子展」第2回最優秀賞、第1回・第4回優秀賞。講談社「木工大図鑑 人と木工作品」(2008年)にて掲載。2008年よりさんとめねっとの依頼を受けて埼玉県・三富地域の里山材を活用した木製品作りに関わる。同年9月、川越市立美術館、12月に新宿パークタワー・ギャラリー3、翌2009年9月には、埼玉・川越鏡山酒造跡にて、三富企画展を企画・演出。

第4回目となったフェアウッドカフェ「木のある暮らし講座」の主役は、埼玉県の「三富(さんとめ)地域」と呼ばれる場所の平地林です。都会の貴重な自然である平地林。その手入れのために切り出された木を利用したクラフトをご紹介し、やはり手入れために掃き出された落ち葉を肥料に育ったサツマイモのお菓子を召し上がっていただきました。この日の参加者は8人でしたが、少人数ならではのアットホームな空気の中、クラフト作りにも挑戦していただきました。
 

平地林保全のための木製品づくり 

お招きした講師は、この地域でクラフト製作をされている高村徹さん(写真上)。本業である家具づくりの傍ら、平地林の間伐材を使った製品を生み出すことで地域の自然環境や景観の保全・改善にご活躍されています。

三富地域とは約330年前、江戸時代の元禄時代に、川越藩主・柳沢吉保が行った新田開発で誕生した「三富新田」を中心にその周辺を含めた畑作地帯のことです。現在の所沢市、川越市など埼玉県西部の5市町にまたがっています。

各農家には平地林があり、防風の役割のほか、間伐材は薪や炭に、落ち葉はたい肥化して野菜作りに利用され、人々の生活に密着した存在でした。しかし、昭和30年代に石油やガス、化学肥料が普及すると、薪や落ち葉の利用が急減し、平地林の面積は減っていきます。残った林も人の手が入らないまま放置され、荒れ放題に。一方、平地林は地域住民や都会の人々にとっては身近にある貴重な自然。次第にその価値が注目され、ボランティアによる落ち葉掃きなどが始まります。そんな中、「間伐材も利用できないか」と、地元でクラフト作りをしている高村さんに相談があったのだそうです。

「初め依頼が来たときは、『どうしようもないよ』という印象でした」と高村さんは数年前を振り返ります。樹種はクヌギやコナラ、ヤマザクラと様々で、日照や肥料が多すぎるために育ち過ぎ、家具づくりには不向きなのです。それでも高村さんは、それぞれの材の特性に合わせてデザインを工夫、フォトスタンドやコート掛けといった木製品を作り出しました。今では地元の美術館のミュージアムショップなどでも販売されるようになりました。

当初は小さな製品が中心でしたが、最近は試行錯誤の末、テーブルやスツールといった家具の製作にも成功しています。しかも、椅子を重ねると飾り棚になり、机は引っ越しの際に便利なノックダウン式と趣向の凝らされたデザイン。そこには「長年人々の暮らしを支えてきた林の木ですから、現代人の生活にも生かされるよう工夫しました」という高村さんの願いが込められています。

ただ、家具に向かない材を使うことには、大変な苦労が伴いました。それは、それぞれの材の特徴や性質を知って、それに合わせたデザインをしなければならないことです。例えば、クルミは粘りがあって軽く、タモはやや硬く木目が細かい。コナラは縮んだり割れたりしやすい性質があります。三富材のうちクラフトに利用できるのは半分くらいそうです。それでも、「地元の環境保全のため、これからもいい製品を作り続けたい」と意欲的な高村さん。「皆さんにはぜひ、製品を買って使うことでご協力願えたら嬉しいです」というメッセージでお話を締めくくられました。
 

落ち葉で育った川越芋のスイートポテト

今回は、コーヒータイムの主役も三富育ち。平地林の落ち葉堆肥で育った川越芋「ベニアズマ」を材料に、料理教室講師の早川晴子さんが作ってくださったスイートポテトです。お芋の育った環境は、江戸時代から300年間落ち葉がすき込まれ続けたふかふかの土――。参加者の皆さんは、そんな説明に耳を傾けながら、素朴な甘さに舌鼓を打っていらっしゃいました。

☆落葉の堆肥で育てた川越芋のスウィートポテト
【レシピ】
原材料
(7~8個分)
さつまいも300g、バター50g、卵黄1個、砂糖50g、牛乳50ml、溶き卵少々
作り方
1. さつまいもは2cm厚の輪切り、水につける。厚めに皮をむきながら再び水に。水をかえて更に10分程さらす。
2. 水気をきって蒸す。熱いうちにフォークでつぶす。
3. ボールに移し、暖かいうちにバターを入れて混ぜる。卵黄、砂糖、牛乳を順に加えて混ぜる。
4. アルミケースに3.の生地をスプーンで入れる。
5. 表面に溶き卵をはけで塗り、オーブントースターで7~10分又はオーブンで180度15分、表面に焼き目がつけばできあがり!

自分だけのフェアウッド製品づくり

スイートポテトで腹ごしらえした後は、この講座では初の試みであるワークショップです。材料は三富の平地林出身のコナラ。講師はもちろん、高村さんです。

皆さんには正方形の板と紙やすり、木綿の布が一つずつ配られます。手順は簡単。刷毛で板に油を塗り、やすりで擦り込んでから布で磨くだけです。単純な作業ですが、皆さんにとっては「世界に一つだけの自作のフェアウッド製品」。油を擦り込む右手が痛くなると左手に持ち替えるなどして、長時間かけて熱心に取り組んでいらっしゃいました。

また、お互いの距離が近いアットホームな雰囲気で、作業台を囲む皆さんからは「こういう斑はどうしてできるんですか」「木が自分の重さでつぶれて黒くなるんですよ」といった質疑応答が自然発生。完成したコースターの手入れ方法の質問には、「洗うときは軽く水で流して拭いて、日陰に立てかけて必ず乾燥させてください」と高村さんは答えていらっしゃいました。

終了時刻が過ぎても、「トラック荷台を支えるフレーム部分に樫の木を使っていた理由は、鉄だと曲がったら戻らないが、堅木ならたわんでも元に戻ろうとするから」「シイはコナラなどの広葉樹をダメにするから里山の敵。薪には向くので、伐採して必要な方に差し上げています」といった木についての雑談は尽きることなく、談笑しながらひたすら手を動かす皆さんでした。

「家具に関わる仕事で、国産材を使おうとプロモーションしてきた」という会社員の男性(30歳)は「この数時間で木の育った環境を知り、ひと手間かけただけなのに一生捨てられないコースターができました。机上の理論を押し付けるだけでなく、こうした体験が大事だとわかってよかったです。農家の顔や栽培方法のわかる野菜が売れているように、家具も環境にやさしいものを選んでもらえるようにしていきたい」と話してくださいました。

また、「高村さんのことは椅子のデザインで知っていた」という会社員の女性(40歳)は「木材ごとに違う性質や積み重ねた時の姿まで考えてデザインされていると知って感動した。三富の雑木林を実際に訪ねてみたいと思います」と、コースターを嬉しそうに磨きながら話してくださいました。

フェアウッドでは高村さん製作、三富の平地林から切りだしたクリのカッティングボードを販売しています。使う人の気持ちに思いを寄せてデザイン・製作を手掛ける高村さんならではのこだわりが活きている作品です。

☆今日のキーワード 【平地林】
都心からわずか30分、埼玉の武蔵野台地に広がる三富地域(三芳町、所沢市、川越市、ふじみ野市、狭山市にまたがる)は、循環型の暮らしを成り立たせるため、300年以上も前に計画的に農地や宅地とともに平地林が整備されました。元禄7年(1694年)、5代将軍 徳川綱吉の側近だった柳沢吉保は、川越藩主に命じられるとすぐに、草原だったこの地の新田開拓を始めました。間口40間(約72m)奥行き375軒(約675m)、1戸あたり5町歩(5ha)ずつ配分された細長い区割りには、落ち葉や薪炭を得る雑木林(コナラ、クヌギ、山桜、赤松)、食料を生産する畑、素材を得る屋敷林(杉・桧、欅、樫、竹)を規則正しく配置。食料、エネルギー、素材という生活に必要な全てがそこから得ることができるよう、計画的にレイアウトされていたのです。

互いに隣接する各区画の雑木林は、帯状の広大な平地林となって、多様な生き物たちも育んできました。平地林では、秋、下草刈りをします。きれいになった林床に、木々が葉を落とします。冬、降り積もった落ち葉を熊手でかき集めて一箇所に運びます。集められた落ち葉は次第に発酵していきます。1年以上熟成された落ち葉は、ふかふかの堆肥に変身。これを畑に漉き込みます。この作業を毎年毎年、300回以上繰り返してきた三富の土は、何十世代もの人たちが作り上げてきた作品です。

しかし現代では、三富の平地林が、だんだんと失われています。燃料革命と化学肥料の浸透で、薪や炭を取る必要も、落ち葉堆肥を作る必要も無くなりました。大都市に近く、相続しても税金が払えません。「お金」にならない平地林は、徐々に放棄されて荒廃し、手放されて宅地や道路、商工業地に開発されてしまいました。

一方で、残された平地林を守ろうと、地元の人たちがボランティアで下草刈や落ち葉掃きする活動も行われています。また近年、農協でも平地林の森林施業計画を策定して整備に乗り出しています。大きくなりすぎた木は伐採しますが、何十年も育ってきた木が捨てられるのはもったいない。そうしたコナラやヤマザクラの木を地域の製材所や木工作家さんの手で、家具や木工品に生かす取り組みも行われています。

【協力】 カフェ・バー ゴルビィ(フェアウッドカフェ提携店)
 店舗や住宅の解体の際に出る都市木材を積極的に活用する、インテリア・木工職人集団「ラケルメジェール」が経営するカフェ&バー。木の暖かみを感じられる都会の中の山小屋をイメージした空間をコンセプトに、様々な都市木材を生かしたテーブルやチェア、キッチンウェアやテーブルウェアが使われています。
TEL:03-3779-1091 

【主催】 フェアウッド・パートナーズ
URL:www.fairwood.jp
Eメール:info@fairwood.jp
TEL:03-6907-7217(FoE Japan 中澤・中畝)/03-3813-9735(地球・人間環境フォーラム 坂本)


※本講座は環境再生保全機構・地球環境基金の助成を受けて実施しています。

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