日時:2010年9月4日(土)15:00-17:00
場所:チェコ料理レストラン カフェano
フェアウッド・アイテム SATOYAMA 北東北産・栗材のテーブル&チェア
話し手:佐藤 岳利さん(WiseWise代表取締役)
フェアウッド・メニュー チェコ伝来の栗のスウィーツ
話し手:レナータ・プラシローバさん(カフェano店長)
☆講師プロフィール
佐藤 岳利さん(WiseWise代表取締役)
株式会社 ワイス・ワイス 代表取締役。1996年に“豊かな暮らし”をテーマとするワイス・ワイスを設立。表参道ショップにてオリジナル家具販売とインテリアコンサルティングサービス、東京ミッドタウンで日本の伝統工芸を世界に発信する“暮らしの道具”の専門店WISE・WISE tools を経営。現在、国産木材、認証材などフェアウッドを積極的に使用する「WISE・WISE GREEN PROJECT」を展開中。
レナータ プラシローバさん(カフェano店長)
チェコ南部モラビア出身。プラハカレル大学教育学部修士課程修了。その後オーストラリアに留学、留学中に出会った日本人と結婚し11 年前に日本へ。アパレルブランドKENZO にてマネージャーを経験。現在はチェコ料理「cafe ano」にてマネージャーを務めている。
フェアウッド・カフェ「木のある暮らし講座」第3回の講師は、表参道にお洒落なショールームを持つインテリアショップWISE・WISE(ワイス・ワイス)の代表取締役、佐藤岳利さん(写真下)です。そしてテーマは昔から私たちが親しんできた、実りの秋の代表格「クリ」。クリの木を使った家具の制作とそこに込められた環境への想いについてのお話を聞きました。
佐藤さんがワイス・ワイスを立ち上げたのは14年前の1996年。「日本発の世界に通用する家具メーカーを作る」と周囲の反対を押し切り、脱サラしての創業でした。ワイス・ワイスのコンセプトは「長く使う」。せっかく生まれた商品は少なくとも100年は使ってほしいと考えているそうです。
ワイス・ワイスは、「子供たちのことを考えて、家具の作り方を変えよう」と考え、「ワイス・ワイス グリーンプロジェクト」を立ち上げ、「4つの約束」を決めました。それは、1)長期使用にこだわる、2)安全な材料を選び健康に配慮する、3)森を壊さず、豊かな森を育てる、4)環境負荷の削減に取り組む、ということ。
違法に伐採された疑いのある木材を使わないよう、2年前から300以上あるアイテムの原料についてトレースを始めました。木材のサプライチェーンを辿って合法性確認をしていくと、どこかで伐採許可証や搬出許可証が出てくるはずで、書類の出てこないものは疑わしいと言えます。しかし、20社ほどの下請け会社のそれぞれが10~20社の製材業者などと取引しているため、「サプライチェーンの確認を」と言っても、一朝一夕では進みません。これまでに約半分の合法確認ができ、今後1年半の間に100%の確認を目指しています。
2012年までに疑わしい材料の排除ができない業者とは取引を停止すると伝えています。始めた当初は、取引業者からも「フェアウッドって何?認証?国産材は品質が劣る」という声が上がり、理解を得にくかったのですが、メディアなどで取り組みが紹介される機会が増えるに従い、徐々に理解が広まってきたそうです。
今、日本の家具メーカーは日本で家具を作らなくなってきています。また国産材が家具に使われることもほとんどありません。戦後拡大造林等で植林政策を取り、人工林を増やしてきた一方で、日本の木を使わず、海外の木材を使うようになっていきました。そこで、ワイス・ワイスでは、岩手産のクリ材を使った「AKI-Ⅱ」シリーズを、神社で使う「組み木」という手法を使って制作しています。
これまではロシアのオーク(ナラ)材を使っていたのですが、違法伐採の可能性を捨てきれないため、ロシア産オーク材と国産クリ材の同じ製品を同価格で売り出し、選べるようにしています。「お客さんには、それぞれの材の産地についての情報を伝えることで、できるだけクリを選んでもらえるよう勧めており、現在まで販売されているのは99%クリ材になっています。フェアウッド・パートナーズの中澤によると、ロシアのナラ材というのは、日本海に近い沿海地方に生えているが、数が少なく、高価で、中国で良く売れるため、違法伐採が横行しており、書類の偽造も多く行われているそうです。
また「里山」シリーズでは、クリ材のフローリングの端材を、集成材として家具に活用することを試みました。これまで、端材は燃料かパルプ原料になっていましたが、木をより長く使うために家具にする方法を考えました。他にも成長が早く5年で成木になるラタン(籐)を使った家具や、最近増えすぎで困っている国産の竹を原料にした家具作りにも取り組んでいます。また、伐り捨てられることの多いヒノキの間伐材についても、活用方法を考えました。若い材は乾燥の時に割れてしまうという問題がありましたが、いろいろ調べた結果、スチームして導管に水を入れてから乾燥すると、割れないということがわかり、無事にテーブルとイスを作ることができたそうです。
チェコ人の森とのつきあい方
クリの家具の話の後は、今回のフェアウッド・メニュー、クリのケーキ。会場となったチェコ料理レストラン、カフェanoのシェフで、チェコ出身のレナータさんによると、チェコの人々は森が好きで、お休みの日にはよく森へ行くそうです。そして秋の森といえば、「マッシュルーム!」。チェコでは多くの人が、自分でキノコを採るので、キノコの種類や、毒キノコの見分け方なども良く知っているそうです。
クリは?と言うと、実は「イノシシやシカのエサ」という認識・・・。今回作っていただいた、ケーキ“ペルニーク”も本当はクルミを使って作るそうです。チェコの森にはレナータさんいわく「森の社長(番人?)」がいて、子供たちに森のことを教えてくれたり、森の管理をしているそうです。子供たちが集めたクリの実を、「森の社長」が冬の動物たちのエサ用に置いておくということでした。
「秋の森」と言うたびに「マッシュルーム・・・」と、えも言われぬ表情を浮かべるレナータさん。今度はぜひ、採れたてキノコでフェアウッド・メニューをお願いしたいものです。クリのケーキには、参加者が思い思いに切った紙を乗せ、上から粉砂糖を振りかけてデコレーションし、木のお皿にクリームと一緒に盛りつけて、いただきました。
コーヒーを飲みながらの質問タイムには、さまざまな質問が寄せられました。
Q1.なぜ国産材の中でもクリを選んだのですか?
佐藤:日本の雑木林に自生する200種位の木の中で、家具に適した材としてまずヤマザクラ、オニグルミ、ブナ、イタヤカエデ、クリの5種が候補に挙がり、その中で、量が安定的に確保できること、価格がロシアのオーク材よりも極端に高くないこと、歩留りがいいこと、作りやすいこと、見た目の美しさ、などについて検討した結果、クリが一番ということになりました。
Q2. 家具を長く使うためのポイントは?
佐藤:手をかけることが大事。最初の汚れや傷みを見過ごさずにちゃんと手入れすること、乾きすぎないように、オイルで時々手入れするのも効果があります。
Q3. なぜ端材の活用を?
佐藤:たまたま端材がたくさんあるといわれて、活用する方法を考えた。今後は、日本の山であり余っているスギ・ヒノキなどの針葉樹を活用することを検討していて、「国産の木を使って森を守る」ことに貢献していきたい。
参加者のアンケートからは、「メーカーにとってもサプライチェーンの確認が難しいということがショックでした」というコメントや、「カフェ形式で、楽しく学べた」「また参加したい」という声が多く寄せられました。
手間がかかっても環境のことを考えて、日本にたくさんある材料を使って長く使える家具作りを続け、それを通じて森づくりに貢献していきたいという佐藤氏のお話し、そしてチェコの家庭的なケーキと森のお話しで、皆さん素敵な土曜の午後を過ごせたのではないでしょうか。
☆今日のキーワード 【栗(くり)】
Castanea crenata、ブナ科クリ属、日本固有の落葉広葉樹。北海道(石狩・日高以南)から本州、四国、九州と、朝鮮半島にも分布。日当りを好み乾燥にも強いが、日陰での生育はよくない。木材としての栗は、辺材はやや褐色を帯びた灰白色、心材は淡い褐色を呈しており、辺心材の境目は明瞭。やや重硬で弾力・反張力に富み、水潤にとても強く腐りにくく耐朽性が高い。そのため土台や水周り、鉄道の枕木として使われてきた。乾燥性・加工性は中程度、やや割れやすいが、狂いは比較的少ない。
約5 千5 百~4 千年前の三内丸山遺跡(青森県)では、高さ約15m もの掘立式の高床建物に栗材が使われているなど、建築から道具まで栗が使われていた。また栗の実もたくさん出土しており、食料として特に重要であった。集落の発展と共に、栗の花粉が増加していることから、人為的に栗が栽培されていたと考えられている。他の縄文遺跡でも、食料、建築材、燃料として、栗が多用されていることが判明している。
世界遺産の白川郷や五箇山の合掌造り集落は、切妻造の茅葺民家で有名だが、主要な構造部材は栗材であり、特に古い時代のものほどその使用が多い。水に強いことから、土台や大引き、水周りはもちろん、柱や板壁、小屋組などにも栗を使用。また、全国各地の町においても家屋の屋根材として栗を割った材を活用し板葺の石置屋根としていた。その他、その耐朽性の強さから防腐処理が不要な材として、古くから鉄道の枕木に使われてきた。また、飢饉の際の貴重な食料としても栗の木は大切にされてきた。
【協力】チェコ料理レストラン「カフェano」
表参道の閑静な住宅地の中にたたずむ清潔で落ち着いたカフェレストラン。都内で唯一、本格的なチェコ料理が味わえ、世界有数のビールの産地であるチェコのビールも楽しめます。店内で使われている家具は、wisewise のオリジナルのテーブルとチェア。座り心地の良い椅子と食事のしやすいテーブルで、ゆったりお寛ぎください。
TEL/FAX: 03-5467-0861
【主催】 フェアウッド・パートナーズ
URL:www.fairwood.jp
Eメール:info@fairwood.jp
TEL:03-6907-7217(FoE Japan 中澤・中畝)/03-3813-9735(地球・人間環境フォーラム 坂本)
※本講座は環境再生保全機構・地球環境基金の助成を受けて実施しています。